イモムシの夢を見ている

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26.てあしがないけどだいじょうぶだあごがないけどだいじょうぶだめがないけどだいじょうぶだにくがそげてもだいじょうぶだたべなくてもだいじょうぶだうえてもかわいてもだいじょうぶだくちのなかがぶつぶつでもだいじょうぶだだいじょうぶだだいじょうぶだだいじょうぶだだいじょうぶだ

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27.「ヒぁ―――――……」

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28.乾いて転げ落ちて、穴ぼこになったじぶんの眼と目があって まどのそとのイモムシと同じ姿でのたうつ自分が 顎の失われた喉から悲鳴を上げるのを聞いて

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29.羽化するように、そのイモムシの背からバリバリと這い出して 自分が、俺が、狂っていないことの証明のために

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30.イモムシになった自分の頸に 鉈を、振り下ろす。

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31.

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32.

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33.

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34.顔面が痛い

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35.部屋は、夢の中よりは汚れていて、肌寒い。

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35.蛍光色の置き時計を”手探り”する、腕は有る。 体を起こして”あぐら”をかき、脚があることを確認する。 薄布をかけた充電式の間接照明が”視界”を広げて、眼がある事を確認する。

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36.五体が健在な自分に、安堵して 夢の中の鉈の一撃、―――現実では床に叩きつけた自分の鼻から流れ落ちる鼻血の処理にかかる。

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37.電波が止まり、確実性の無くなった置き時計にもいくらか血はついていて それを指で拭いながら、合っているのか間違っているのかを確認することもできなくなった現在時刻を確かめる。

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38.『2016年3月18日』俺は、自分は、Yはまだ、死んでいない。

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39.生きていると、胸を張れなくはなったけれど。

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40.10月10日、インフラが死に絶えたあの日から、死なないためだけに全てを行ってきた。 食料を育て、野菜を作り、安全を確保し 歯の根が合わないほど怯えながら、外に出て物資をかき集めた。 夢の中ほど物資の残っていた頃ではなく、もっと切羽詰まってからだけれども。

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41.『安全経路の発見』は、籠城生活からの脱出に大きく変化を齎した。 数回の試行錯誤と工作、アナログな地図を頼りに建設会社にたどり着いてからは格段に安全性が増した。

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42.絶対にアレらに、元人間に遭遇せずに 大阪を地上より遥かに安全に移動できる『経路』を使って 最初こそ決死の覚悟をしたものだし、八月以前は鬱陶しいから地下配線にして欲しいと思っていたのに 今では文字通り命綱、生命線になった 『電線』を辿って、今はまるで蜘蛛の様に生活している。

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53.空と言うには低い距離から、電線網にハーネスとベルトでぶら下がり使えるモノを求めて大阪を巡る生活をはじめて 諦めきれず探しているモノと よく見る様になったモノがある。

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54.よく見るようになったモノは、アレらだ

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55.ゾンビ映画や、一時期フォーラムが熱中したゾンビゲームでは ゾンビたちは自分の足で歩き、掴みかかってきた。 中には恐ろしい速度で走ってくるモノもあって、人間のアレらに実際に遭遇したことのなかった自分の恐怖を何倍にも上乗せしてくれたモノだ。

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56.だが実際のアレらには、そんな慈悲の様なモノは無かった。 現実はあまりに厳しくて、惨たらしくて、彼らは人の姿を早々に保てなくなった。

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57.『病原』。 あの生理的嫌悪を掻き立てる何かは、人間の脳を使わない。 脊椎周辺に瘤のように固まって、寄生した生物を操る為の擬似的な脳の様なモノを形成する。 『ケイン・レポート』製作中に何度も頭に叩き込んだその生態は 人間が当たり前に行う高度な機能の再現を維持できなかった。

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58.歩行機能の喪失、それは人間だったモノから 瞬く間に”腕”を、”脚”を、五体揃った『健常な姿』を喪わせた。

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59.アスファルトの地面を、這いずる。 ただそれだけで、体液が粘性を増し、代謝の落ちたアレらは 鑢(ヤスリ)にかけられたように身体の部品を喪っていった。