「緊急事態条項」で安倍政権とナチスを同一視したい人たちに知ってほしいこと~現代フランスでの動向も含めて~

ナチスを引き合いに批判されることが多い「緊急事態条項」。しかしそんな単純な話ではありません。こなたまさんのツイートでワイマール共和政時代の大統領緊急令の復習を、井上武史教授のツイートでフランスの緊急事態に関する情報をまとめました。
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フランス第五共和国憲法

第16条 ①共和国の制度、国の独立、その領土の保全あるいは国際協約の履行が重大かつ直接に脅かされ、かつ、憲法上の公権力の適正な運営が中断されるときは、共和国大統領は、首相、両院議長、ならびに憲法院に公式に諮問した後、状況により必要とされる措置をとる。
②共和国大統領は、これらの措置を教書によって国民に通告する。
③これらの措置は、最短の期間内に、憲法上の公権力に対してその任務を遂行する手段を確保させる意思に即して実施されなければならない。憲法院は、この問題について諮問される。
④[この場合に]国会は、当然に集会する。
⑤国民議会は、非常事態権限の行使中は解散されない。
⑥非常事態権限行使の30日後に、国民議会議長、元老院議長、または60名の国民議会議員もしくは60名の元老院議員は、第1項の要件についてその充足を審査するために憲法院に付託することができる。憲法院は、最短期間内に、公開の意見を表明して裁定する。憲法院は、非常事態権限の行使の60日経過後、およびその期間を超えるといつでも、職権により当然に審査を行い、同一の条件により裁定することができる。

新解説世界憲法集 第2版 242P

井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

大陸法の国では、法律と憲法との間に質的な差異をそれほど認めていない印象。「憲法改正法律」として提案・承認される。フランスで今審議されているのも「国民保護に関する憲法改正法律案」。

2016-02-29 14:40:37
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

フランス憲法院は2月19日の2つの判決で、緊急事態下で行われる令状なしでの捜索および集会禁止措置は基本の部分において合憲であると判断(一部違憲と判断した部分あり)。年末の居所指定措置(電子ブレスレット)の合憲判断と並び、緊急事態法の主要部分の合憲性が確認されました。

2016-02-20 11:34:12
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

このため、緊急事態法の違憲の疑義を解消する目的で憲法改正を行う必要は、実務的にはほぼなくなりました。憲法院での相次ぐ合憲判断を受けた上で、フランスの今後の憲法改正論議がどのような展開を見せるのかは引き続き注目です。

2016-02-20 11:41:16
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

注意すべきは、テロ直後のヴェルサイユ宮殿での大統領の改憲宣言、緊急事態法の改正、憲法院の合憲判決、憲法改正手続の進行がすべて緊急事態下で行われていること。すべて合法的・合憲的には行われているものの、やはりテロ防止や国民保護という結論が先にありきと思われる部分もないわけではない。

2016-02-20 11:56:52
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

フランスでは緊急事態下においては、人の移動の制約(居所の指定、3時間おきの警察への出頭義務など)、令状なしでの昼夜の家宅捜索、集会場の閉鎖が法律だけで認められることになります。憲法上の根拠がない中、法律だけでここまでできるのか、さらに歯止めがどこにあるのかの議論が不可欠でしょう。

2016-02-20 11:48:34
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

ただ重要だと思うのは、フランス政府の行為が何れも法に基づいているということ。政府の行為にはすべて法的根拠があり、各機関による統制手続も遺漏なく行われている。立憲主義論から考えるべきことは、いかなる時でも政府の行為が「超法規」にならないことではないか。

2016-02-20 12:11:08
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

フランス政府が緊急事態法に基づく措置とともに、改憲手続もあわせて進めたのは、憲法院の違憲判断によって「超法規的措置」になる事態を回避するためとも考えられる。結果的に合憲判決が出たので違憲問題はほぼ解消されたが、リスクや批判もある中で政府がこうした備えをしていたことにも注目すべき。

2016-02-20 12:22:19
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

緊急事態の論議では、それを憲法に書くかどうかに専ら焦点が集まっている。しかし問題の本質はそこではなく、非常時に国家や国民の安全のために政府がとるべき必要な措置を選別し、そのための法的枠組みをどのように設計すればよいかということ。この段階は憲法論というよりも制度論。

2016-02-22 22:46:48
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

そのうえで対処に必要な措置であっても憲法の制約によってできないという場合が出てきたときに、それを断念するか、あるいは憲法で規定してでもそれを乗り越えるかの選択に迫られる。「必要が法律を作る」という格言があるがそれは前段階までで、ここでは「必要が憲法を作る」かどうかが問われる。

2016-02-22 22:52:51
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

緊急事態条項の新設よりも、必要な法律を国会でまず作るべきという主張はその通り。問題は法律でどこまでできるかということ。もちろん、非常時でも政府の措置は法律でできる範囲に限定されるという主張は可能である。

2016-02-22 23:01:32
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

しかし、平常時ならできないが非常時には事態への迅速な対処のために必要で有効な措置もある(こちらの方が多いかもしれない)。その時、「憲法違反だから断念する」というのならまだよいが、それを「法律でもできる」と言い張るのは平常時の理論をなし崩しにする危険があるので問題ではないかと思う。

2016-02-22 23:10:56
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

歴史的にも理論的にも、憲法で規定する(憲法に格上げする)方が権力の統制になると憲法学は説いてきたはず。フランス初め諸国はそれに習って憲法化を模索してきたのに、なぜ日本の緊急事態論議はそうでないのか。平和主義も憲法化しているからこそ政治に対する一定の歯止めになっているのでしょう。

2016-02-22 23:36:36
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

政府も法律でできる措置とそうでない措置とを丁寧に検討し、どうしても必要だが平常時の憲法下ではできない措置を挙げた上で、それらを非常時にたとえ期間限定の下でも実施するためには憲法上の根拠がどうしても必要だ、という議論に持っていくべきかと。初めから緊急事態条項ありきの議論はいけない。

2016-02-22 23:21:09
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

憲法学も日本国憲法に手を付けさせない一点を守るために有効な知恵を出さず、参議院の緊急集会を例に「現行憲法は緊急事態を知っている憲法だ」などと言っていると、結局あれもこれも法律でできるということになってしまい、それこそ最悪の事態を招来するのではないか。

2016-02-22 23:26:56
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

この点、フランスでは憲法院の合憲判決が相次いだことで改憲論議が停滞していることは実は残念なこと。重大な人権侵害措置が憲法上の根拠なく法律でできることが認められてしまったから。フランスを例に緊急事態条項は不要だと結論づけるのは安易でしょう。緊急事態下での改憲論議や憲法判断は問題。

2016-02-22 23:48:10
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

とりとめのないことを言ってしまったが、要は、初めから賛成ありき、反対ありきでは何も生産的・建設的な議論にならないということ。その際、憲法学は議論の筋道を踏み外してはならず、願わくば政治がその筋道に乗って議論するように持っていくべき。同じ土俵に乗せなければ学説は威力を発揮できない。

2016-02-22 23:56:31
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

残念かどうかはともかく、フランスでの議論は、どのような制度設計をすれば、立憲主義の建前を守りつつ、自由と秩序との適切なバランスを確保できるのかという観点から行われている。緊急事態条項は危険だからやめろ、という議論ではないのですよ。 twitter.com/chu_uchi/statu…

2016-03-10 14:40:48
エンタメ・小説系法律解説弁護士 @chu_uchi

日本の話かと思ったら、フランスだった。でも、自由の国で、フランス人権宣言の趣旨に反する憲法改正がされているというのが、非常に残念。 twitter.com/inotake77/stat…

2016-03-10 14:29:35
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

以前からツイートしていますのでご関心があればご覧くだされば幸いです。先ほどツイートしたように、憲法院の相次ぐ合憲判決の影響で実はあまり望ましい方向になっていない印象をもっています。緊急事態下で物事を進める危うさがあるように思います。 twitter.com/chu_uchi/statu…

2016-03-10 15:42:44
エンタメ・小説系法律解説弁護士 @chu_uchi

@inotake77 ところで、どのような内容の憲法改正が議論されているか、日本ではなかなか情報が入ってきませんので、ご紹介いただけるとありがたいです。

2016-03-10 15:26:22
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

仏の改憲論議で注意すべきは、緊急事態法という法律が既に存在し、かつ合憲と判断されているので、憲法に緊急事態条項がなくても特段の不都合はないということ。それでも憲法化に意味があるとすれば、国会の自動的開催や政府の報告義務・議会の情報請求権など政府を統制する手段が盛り込まれている点。

2016-03-10 16:18:39
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

そもそも緊急事態条項が立憲主義と両立するかどうかが問題で、学説でも賛否が分かれています。当然「建前」というのは、憲法に同条項を置いても立憲主義は否定されない(むしろ書くのが立憲主義だ)という肯定説(政府の立場)を前提としたものです。 twitter.com/murakami_keyak…

2016-03-10 21:10:16
けやき【💉4回済】 @murakami_keyaki

>立憲主義の建前を守りつつ、自由と秩序との適切なバランスを確保 今回の改憲論議は、政府の権限を制約する手段を後からでも盛り込む事で、既に合憲とされている緊急事態法と「建前」のバランスを取りたい。と言う意味あいなのでしょうか… twitter.com/inotake77/stat…

2016-03-10 17:25:42
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

賛成派と反対派とでは「立憲主義」の理解(構想・解釈)が異なるのですね。立憲主義は例外状態を包摂しているか否かについて。

2016-03-10 21:15:27
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

多くの憲法は非常事態や戒厳事態の規定を置いているので、両立しないという考え方はとられていませんね。フランス憲法には緊急事態条項こそありませんが、それより深刻な非常大権や戒厳事態の規定があります。非常時のルールのあり方はまた別ですね。 twitter.com/murakami_keyak…

2016-03-10 21:44:46
けやき【💉4回済】 @murakami_keyaki

有難う御座います。 そもそも両立するかどうかから、問われているのですね。素人考えですが、「建前」側の考え方は、自民党の憲法改正素案に通じる様にも思えます。 twitter.com/inotake77/stat…

2016-03-10 21:24:16
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

自民党改憲案の緊急事態条項がダメなのはわかったから、それなら憲法的考察を踏まえた修正案を提示すればよいのではないかなあと。いつも是が非でも反対というだけではねえ。権力乱用の危険を煽り立てるのは誰でもできる。それをいかにうまくコントロールできる仕組みを考えるのが専門家の役割では。

2016-03-10 22:09:05
井上武史 Takeshi INOUE @inotake77

仏改憲手続で上院は緊急事態条項に更なる制限を付加する予定とのこと。具体的措置を通常法律でなく、それより効力の高い組織法律(loi organique)で定めることを要求。これだと立法手続で下院優越原理が働かず、また公布前に憲法院で義務的な違憲審査がある。色々な仕組みをもっている。

2016-03-11 09:46:52