「ブレイク・ザ・ケージ・オブ・ゴッドスピード」

スピードの向こう側、その先に何が待つのか
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エピローグ

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ブレイク・ザ・ケージ・オブ・ゴッドスピード」エピローグ

2016-05-02 21:07:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あぁ~…」秋の日差し零れるベンチに寝そべりながら、葛葵はだらしない声を漏らしていた。「……」隣に座る吹雪が意外そうな目を葛葵に向ける。正確には、葛葵の頭を膝に置いている人物にだ。「意外ですね、翔鶴=サン」「そうかしら」白髪の戦乙女、翔鶴は小首を傾げ、葛城の頭を撫でた。 1

2016-05-02 21:14:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「偶にはこんな日もありますよ」翔鶴は穏やかにそう言う。葛葵に目を向ければ、裾から巻きつけられた包帯が幾重にも覗く。あのスピードデーモンに襲われた際にできた傷だ。翔鶴は彼女なりに自身の提督を労わっているのだ。「そうですね」吹雪は手にした缶コーヒーを啜り、遠くに視線を向けた。 2

2016-05-02 21:19:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「えっ、昔の島風ってそんな感じだったんですか」「そうそう、そうだったのよー」「ちょ、ちょっとメロンちゃん!その話はしないでって!」「えー、いいじゃないのー」吹雪の視線の先、そこでは島風と天津風、そして夕張が穏やかに笑い合い、語り合っていた。 3

2016-05-02 21:26:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「うう…天津風が悪鬼の手に堕ちてしまった…」葛葵もその景色を眺め、さめざめと泣く振りをした。「慰めてくれ翔鶴ぅ…」「はいはい」翔鶴は苦笑しながらも、再び葛葵の頭を撫で始めた。「まぁまぁ、いいじゃないですか」吹雪も苦笑し、空になった缶コーヒーを丁寧に握り潰した。 4

2016-05-02 21:30:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

視線の先の3人は、普通の少女のように笑い合っている。「…しかしまぁ」葛葵は泣く振りを止め、言った。「夕張の奴、良い顔をするようになったじゃないの」「ですね」吹雪は同意するように微笑んだ。「吹雪君の成果かねぇ」「いえ、私は時間を作っただけですよ」「そうなるのかねえ」「えぇ」 5

2016-05-02 21:35:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

そこまで会話し、ふと葛葵は何かに思い至り吹雪を見た。「?」吹雪はその視線に気づき、見下ろすように葛葵を見る。「そう言えばさ」「はい」「吹雪君って…友達いるの?」瞬間、空気が凍った。「えっ」翔鶴は驚いたかのように吹雪を見た。「吹雪=サン、貴方…」「そんな目で見ないでください…」 6

2016-05-02 21:40:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は項垂れるようにベンチの縁に手を突いた。「え、ええと。リカルド提督は…」「私の師匠です…」「お、大淀=サン」「…師匠の奥さん」「艦隊の皆は…」「同僚ですけど…お互いプライベートで何をしてるかは…」「そ、そうだ!ドージョーの子達は?」「ドージョー外での交流はあまり…」 7

2016-05-02 21:43:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そもそも暇さえあれば訓練してるせいか、特定の誰かと仲良くするってことが無いんですよね……」吹雪は深く深く溜息を吐いた。「……マジで友達いなかったか」葛葵は質問を後悔した。「可笑しいな…結構基地内ではいい噂を聞くんだがな…」「提督、もしや吹雪=サン、高嶺の花扱いなんじゃ…」 8

2016-05-02 21:46:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あー…」葛葵は得心が行ったように頷いた。今でこそ自己嫌悪に陥り、沈んでいるこの吹雪は、鹿屋唯一のカラテ嚮導官・リカルドの直弟子としてカラテの薫陶を受けた艦娘であり、「死神」と称されるほどの恐るべきカラテ力量を誇る戦士でり、ストイック極まりない努力家である。 9

2016-05-02 21:51:45
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

鹿屋でカラテを志す者にとって、吹雪はまず間違いなく憧れを集める対象である。加えて吹雪自身が自分の自由時間を他者と共有しないとなると…「そりゃ、友達は出来ないか」「えー、この吹雪ちゃん友達いないの?」「そうなんだよ…ん?」独り言に応えられ、葛葵は声の方に視線を向けた。 10

2016-05-02 21:57:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

見れば、吹雪の目の前に島風がしゃがみ込んでいた。「いつの間に」吹雪が驚きの目で島風を見る。「だって島風だもん」「それ答えになってないような」「私だから答えになってるんだよリベア提督」「だからその渾名で呼ぶな…」抗議を続けようとした葛葵を無視し、島風は吹雪の手を取った。 11

2016-05-02 22:00:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「えっ」「一緒にお話ししよ!」そう言って、島風は吹雪の手を引き、駆け出した。「貴方にもお礼を言いたかったんだ!」島風は振り向き、花が咲くように笑った。「一杯お話してさ、それで、友達になろう!」「……」吹雪は目を丸くして島風を見た。「全く…貴方には勝てませんね」 12

2016-05-02 22:07:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪はただの少女のように微笑み返した。二人は夕張と天津風の元へと駆ける。葛葵はその光景を見、何かを言おうとして、止めた。代わりに目を閉じ、眠りに落ちた。翔鶴はただ優しく葛葵を見守った。秋の日差しはただ優しく鹿屋を照らした。 13

2016-05-02 22:13:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ブレイク・ザ・ケージ・オブ・ゴッドスピード」 おわり

2016-05-02 22:13:58
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