「ブレイク・ザ・ケージ・オブ・ゴッドスピード」

スピードの向こう側、その先に何が待つのか
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#1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

走る………走る……走る…走る。走る。走る。走る。走る。走る走る。走る走る走る。走る走る走る走る。走る走る走る走る走る走る!走る!全ての景色を置き去りにして、少女は遮二無二に走り続ける。少女の視界には最早何も映ってはいない。膨大な色が流れては消えていき、濁流となる。 1

2016-04-08 20:59:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

走る!走る!走る!何たる自由!何たる開放感!少女と少女に宿ったソウルが歓喜に打ち震え、高揚する。少女は更に速度を上げた。流れ消える景色はもはや色付きの線と化し、全てが等しくなった。少女は笑った。そしてこの速さの果てに何が見えるのかに興味を持った。 2

2016-04-08 21:01:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

好奇心の赴くままに、少女は更に走ろうとした。だが、何も変わらなかった。それどころか、景色は段々とあるべき姿を取り戻し始めていた。少女は訝しみ、初めて網膜IRCに記載された文字に気が付いた。『現在船速100ノット』『心拍数:異常』『バイタルサイン:異常』『至急行動ヲ停止セヨ』 3

2016-04-08 21:02:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

認識すると同時にIRCチャットにメッセージ。『#KAIGI_test:nolem:これ以上の続行は危険。即刻中止を』少女は即刻返信。『#KAIGI_test:tester1:問題ない。続行します』『#KAIGI_test:nolem:馬鹿言わないで!』少女は更に速度を上げた。 4

2016-04-08 21:03:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

少女はただ只管に速く走ろうとした。高速の先の景色を見るために。だが、足は言う事を聞かず、無慈悲に縺れた。「あっ」少女は宙に浮いた。『#KAIGI_test:nolem:島風ちゃん!?』IRCチャット越しに悲鳴が聞こえた。少女は100ノットの速度で海面に叩き付けられた。 5

2016-04-08 21:04:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

倒れ込む瞬間に少女が気付いたのは、自分が目鼻から血を流し、心臓が鼓動が聞こえぬ程に早く鼓動していたという事実だけであった。((あれ、これ死))ソーマト・リコールすら許されず、海面は100ノットの速度で少女を出迎えた。 6

2016-04-08 21:06:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ブレイク・ザ・ケージ・オブ・ゴッドスピード」

2016-04-08 21:06:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」ZANK!「イヤーッ!」ZANK!「イヤーッ!」ZANK!「イヤーッ!」ZANK!正午、鹿屋基地工廠。若葉がピストルカラテの演武を行っていた。「イヤーッ!」ZANK!「イヤーッ!」ZANK!空撃ちながらも主砲の反動は確実に若葉の体を動かし、カラテを振るわせる。 7

2016-04-08 21:07:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イヤーッ!」ZANK!反動を活かし回避。「イヤーッ!」ZANK!砲撃から肘打ち派生。「イヤーッ!」ZANK!ブリッジ回避からの砲撃。「イィイイイヤーーッ!」ZANK!砲撃反動を利用してのサマーソルト・キック!若葉は着地し、ピストル型主砲を見て、満足げに頷いた。「悪くない」 8

2016-04-08 21:09:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「それは良かった!」若葉からタタミ数枚分離れて観察していた女が歓喜し、歩み寄る。彼女は緑色の長髪を緑色のリボンで纏めたおり、左腕には「海技研」と刺繍された腕章をつけていた。「夕張」若葉は女の名を呼び、ピストル型主砲を手渡した。「特に問題は無かった。反動もこちらの希望通りだ」 9

2016-04-08 21:14:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「それは当然よ」夕張は主砲を受け取り、自信に満ちた笑顔で言った。「海技研の技術とこの私の頭脳を持ってすれば、最高峰のオーダーメイド品質を約束できるわ」海技研、正式名称「海軍技術研究本部」呉に本拠地を置く鎮守府最高峰の艤装技術研究外縁組織である。 10

2016-04-08 21:16:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

通常、艦娘の持つ艤装は鎮守府自身で賄うか民間軍需企業に委託するかの二つに一つ。海技研は前者の中の最高峰であり、その特色は生体工学や人間工学を最大限活用することによって完成した艦娘一人一人にフィットした艤装技術である。即ち、個人としての艦娘の技量を高める艤装技術。 11

2016-04-08 21:18:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

若葉のピストル型主砲も海技研の技術によって造られた物だ。主砲の放つ反動を徹底的に調整し、若葉の体に負担を掛けず、かつ若葉のピストルカラテを最大限に活かす反動を実現した艤装技術も海技研の物だ。「頼もしいことだ」若葉はニヒルに笑い、懐から煙草を取り出そうと…「ここ、禁煙ですよ」 12

2016-04-08 21:19:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

背後から声が掛かる。若葉は煙草をしまって振り向いた。そこには白黒セーラー服の少女と、額に呪符めいたメモを張り付けた髭面の男がいた。「珍しい組み合わせだな」若葉はまず率直にそう呟き、アイサツした。「ドーモ、吹雪=サン。そして葛葵中将」「ドーモ」「ドーモ」二人もアイサツを返す。 13

2016-04-08 21:20:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「珍しい…確かにそうですね」吹雪は頷き、若葉に答える。「丁度そこでばったりお会いしたので」「何か用事があったのか?」「ええ、ちょっと夕張=サンに呼ばれて…」吹雪は若葉の背後に居た筈の夕張を見た。そこには誰もいなかった。「あれ?」「キャー!葛葵中将ーッ!」黄色い声が聞こえた。 14

2016-04-08 21:21:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

声は横から、葛葵の傍から聞こえて来た。見れば、葛葵の右腕に夕張が纏わり付いているではないか。「またか」「またですか」若葉と吹雪は呆れたように言った。「葛城中将お久しぶりです!3日と16時間12分34秒ぶりですね!」「あ、ああ。そうね…」葛葵は冷や汗をかきながら応じた。 15

2016-04-08 21:23:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「今日お会いできたのは幸いでしたね!」夕張は満面の笑みを浮かべる。浮ついた話の無い男ならば一瞬で篭絡できそうな艶やかな笑顔であった。だが葛葵はその笑顔の奥にあるモノを知っていた。夕張は満面の笑みのまま「今日はどうします?解剖?手術?実験?それともホルマリン漬け?」と言った。 16

2016-04-08 21:24:40
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

彼女は兵装実験巡洋艦娘・夕張。海技研所属の艦娘であり、優秀なバイオテクノロジー研究者である。彼女は決してサイコパスやマッドサイエンティストの類ではない。ただ、彼女は嘗て葛葵がついた「自身はキョンシーである」と言う嘘を真に受けるほどに純真であるだけであった。 17

2016-04-08 21:26:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

呪術によって動く生前の意識を保つ死体。バイオテクノロジー研究者である夕張にとってこれほど魅力的な研究材料もない。故に彼女は隙を見ては葛葵にハニートラップ誘惑めいて纏わり付き、篭絡して研究しようと試みているのだ。葛葵は難儀しているが、周囲はインガオホーであると断じている。 18

2016-04-08 21:27:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ああもう、離れて!暑苦しい!」「アーン!」葛葵はどうにか夕張を引き離し、吹雪と若葉に恨めしげな視線を送る。「インガオホー」「そういうことだ」吹雪達はただそう言った。「全く…私は天津風の迎えに来ただけだと言うのに」「え!天津風ちゃんまだなのー!」工廠入り口から声が聞こえた。 19

2016-04-08 21:29:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

4人が声の方へと顔を向ける。そこには、3機の自立型連装砲を従えた金髪の少女が居た。その衣装はきわめて過激である。「貴方は」夕張は一瞬、少女に対して複雑な視線を向けた。「……島風君」葛葵は少女の名を呼び、言った。「暫く執務室で待っていなさいと言った筈だが」「えぇ、ヤダ」 20

2016-04-08 21:31:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ヤダって」葛葵は眉間に皺を寄せる。「だってそんな遅いの性に合わないもん」「遅いって高々10数分」「おっそーい!もう!一体いつ天津風ちゃんは帰ってくるのリベア提督!」「私をそのあだ名で呼ぶな!」葛城は不快げに吐き捨てる。彼は自分が認めた相手以外から渾名で呼ばれる事を嫌う! 22

2016-04-08 21:33:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「お前がその渾名で私を呼ぶ資格はないと言っているだろう!」「私が貴方をどう呼ぶかなんて、私の勝手でしょリベア提督」「コイツは…」葛葵は力なく肩を落とす。どうやら目の前の少女の奔放さに振り回されているらしい。「珍しいものだな」と若葉。「そうですね」吹雪も同意する。 23

2016-04-08 21:35:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は言い争う葛葵と島風を尻目に、夕張を見やる。夕張は暫く呆然と島風を見ていたが、やがて吹雪の視線に気づいた。「アッ…何?」「何か私に用件があると聞きましたが」吹雪は淡々と言い、夕張に発言を促す。「あ、ああ!用件!用件ね!」夕張はそう言って工廠奥の艤装置き場へと駆けだす。 24

2016-04-08 21:36:55
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