（仮称）瑞加賀の鎮守府

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

その病室の、扉を開けるのが怖かった。 この向こうに加賀さんが居るのかと思うと、恐怖で足が震えた。

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飛龍と相談して、ここへは二人で来ることにした。請け負って、おめおめ帰ってきたのは二航戦の私たちなのだ。だから、二人で行くのが筋じゃないか。 勿論言い訳だ。本当は、一人で加賀さんに会うのが怖かったんだ。たぶん、飛龍も。

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だって、どんな顔をして会えばいい？ なんて言って、謝ればいい？ 「作戦は成功したけど、”しらね”は沈んで提督は戦死しました」なんて、どうやって加賀さんに報告すればいい？ 出撃前に「赤城さんと私達が居るから大丈夫」なんて言ったのは、この口なのだ。

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報告したとして、その後は？ 悲嘆に暮れて泣き崩れるのか？ それとも憎悪もあらわに罵倒してくるのか？ ”あの”加賀さんに憎まれるなんて、考えただけでも背筋が凍る。一航戦の一角、鉄面皮の彼女が感情もあらわに怒り狂う様を想像すると、今ここで死んだ方がまだ楽なんじゃないかとさえ思える。

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飛龍に促されて、ようやく私は扉を開けた。怖かったけど、覚悟を決めて。 でも、扉の向こうの景色は、想像したものとは違っていて……。 やっぱり、あそこで死んでおくべきだったんだ。そっちの方が、まだ楽だった。

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ビー むやみにやかましい警報が、瑞鶴の鼓膜を叩いた。 （敵！？） 警報音に混じってブザーが動く音がガラガラと聞こえるほどに騒がしい警報は、厳密に言えば接敵の警報ではない。後方に展開している艦娘母艦が、接近する船舶を探知したのだ。

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だが瑞鶴たちは今、人類が保持するものでは最北端の港から出港し、北進している最中だ。ここはすでに深海棲艦の支配領域で、民間船が進出するにはあまりに危険すぎる海域。友軍の作戦計画もない。 接近する船舶とやらが、敵艦以外である可能性は、限りなく低かった。

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『目標探知、目標六隻、徐々に接近中』 妖精さんが、母艦から送られてきた情報を読み上げる。動静盤に方位が示され、海図にもシンボルが書き込まれる。 不明目標（アンノン）とされた目標が６つ。 『目標群をA（アルファ）と呼称する』 海図上の6つともを円でぐるっと囲み、Aと記述。

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『目標群A、AIS情報なし』 質問信号には応答なし。交戦規定を思い出す。確か、AISのない船舶は…… 『目標群Aを、敵性目標（ホスタイル）と認定』 目標のシンボルが書き換えられる。不明目標から、敵性目標へ。

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（敵だ） 遂に、と思いながら、瑞鶴は不敵に笑う。 数度の哨戒の末、遂に奴らを捕捉したのだ。6隻とはそれなりの規模、ここで撃滅できれば、アルフォンシーノの海上優勢は大きく傾く。

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「航空隊、発艦準備。戦爆攻連合を……」 『警告、交戦命令が下令されていません。交戦規定第4条7項によれば……』 あんたは加賀さんか。妖精さんに出かけた不満を、口をへの字に曲げて呑み込む。 妖精さんはいつも細かい指摘をしてくる。まるで教導の頃の加賀さんみたいに。そういえば、あの人も……

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『どうしたの、瑞鶴さん？何かあった？』 そうだった、こっちも忘れていた。 「敵よ、衣笠」 瑞鶴が今までいた南方方面艦隊と違って、北方方面艦隊では艦娘母艦と常に通信できるクラスの通信機は殆ど配備されていない。旗艦と連絡が取れれば艦隊は動かせると、そういう発想で先送りにしているのだ。

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そんな彼女達には、敵が現れたことを知るすべはない。瑞鶴が伝えない限り……艦娘と母艦では捜索能力に相当の差がある。瑞鶴が伝達しなければならなかったのだ。

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「任務部隊各艦に達する。母艦が、敵艦発見を報じた！全艦第二戦闘配置！」 些かフライング気味ではあるが、確かここ北方の交戦規定でも、交戦命令なしでも戦闘配置への移行は禁じられていなかった筈。

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何をもたもたしているのかは知らないが、敵を発見したと言うのに交戦命令を出さない司令部を、いつまでも待っている気はなかった。とりあえずは自分の権限で許される範囲で、準備を整えておきたい。

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「妖精さん、気流信号。艦隊、単縦陣。本艦先頭、衣笠、阿武隈……の順。即時発動法」 『気流信号、即時発動法』 「発動用意、発動！」 瑞鶴の気流信号を受けて、艦隊の各艦が陣形を変えるべく動き始める。衣笠が音頭をとって、危なげなく、速やかに。

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「母艦へ通信。目標群Aへの攻撃を進言（リコメンド）」 戦闘態勢に入る艦隊を見ながら、司令部をせかす。 交戦命令を、はやく寄越せ！