- chrishna_c2
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「細けぇことは気にするな。きっかけが先か、なりゆきが先かの違いってやつだ」 「どういうこっちゃ」 ……あの二人のコントは最初から見なかったことにしましょう。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:14:07浦風姉さんが見せる巧みな包丁さばき。キャベツの部位によって食感をバラけさせず均等にするためには熟練と呼べる腕前を要求されます。 繊細かつ大胆さを併せ持つ切れ目は、これまで数えきれないほどのキャベツを刻んできた証。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:14:46充分に熱された鉄板の上。くろがねのキャンパスに放られるキャベツ。 洗練された動き。瞬く間に両手に持ち替えカシカシと鳴るヘラの音。 キャベツの甘みが出るほど柔らかくなったところで手際よく具材を入れていく音。じゅうじゅうと熱が通り、食材それぞれの旨味が開く音。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:17:16耳を凝らしそれらの音を確かめ、充分に熱が通ったことを確認すると水を差して蓋を締め、一気に蒸し焼きにする。 やや時間をおいて蓋を開けると、ふわっと蒸気とともに吹き出す香ばしい旨味の香り。 それは、お好み焼き職人としての経験とカンのみが成せる手際と時間配分。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:18:12芳醇なソースをかけてヘラで薄くのばし、桜吹雪のように舞う青のりをかけてできあがり。 傍に置かれたマヨネーズはお好みで。 浦風姉さんのヘラさばきを間近で見たのは久しぶりです。 わずか10分ほどの調理工程がわずかな時間に思えるほど見事なお手前でした。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:19:30「……ま、ざっとこんなもんじゃ」 ドヤ顔で勝ち誇る浦風姉さん。その道に精通した人だけが持ちうるある種の達成感。 本当はここで拍手を送りたかった……けれど、いまの姉さんは対戦相手。だからこの想いはまだ私の心の中だけに留めておくことにします。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:21:15心から楽しそうに焼きあげていた姉さん。この一連の調理工程を通して姉さんの気持ちが伝わってきて――はっきりと分かりました。この人は本当にお好み焼きが好きなのだと。 なるほど浦風姉さんのお好み焼きにかける情熱と自負。確かに見させていただきました。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:22:18ですが私だって、いままで指をくわえて見ていたわけではありません。 同じ10分間をフルに使って。 私もたったいま、この勝負に相応しいとっておきのお好み焼きを焼きあげたところです。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:24:01「ほな、お二人さん。調理のほうも粗方オッケーみたいやし、そろそろ実食タイムといこか」 私たちの料理ができあがるところを確認した龍驤さんが、実食開始の合図をしてくれました。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:25:06「ほんじゃ、まずはうちのお好み焼きから食べてみんさい」 先攻は浦風姉さんです。鉄は熱いうちに打て。の諺通り、できたてをあつあつのまま提供するのが浦風流。 その何もかもが、私の記憶にあるあの浦風姉さんそのものでした。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:26:24「お、こいつぁ浦風がさっきまで店で出してたお好み焼きそのものだね」 「悔しいけどあの姉ちゃん確かな腕しとる。思わずほっぺが落ちそうになるで」 谷風と龍驤さんが実食をはじめ、思い思いの感想を言い合っています。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:27:11ですがこの勝負、二人の評価はまったく勝敗に影響しません。 「はむはむもぐもぐ……」 今回の勝負のルール。姉さんのお好み焼きをすべて私自身の舌で味わい、私自身の言葉で味の評価をしなくてはいけないのです。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:27:39私はお好み焼きを口の中に頬張り、ゆっくりと噛みしめながら嚥下します。 「……おいしい」 この食感と香り。なにもかもが、あの頃の姉さんのお好み焼きと同じ味わい。勝負のことを忘れ、私は思った通りのことをそのまま言葉として口にします。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:29:02「さすがは姉さんです。ふっくらとしていて水っぽくない焼き加減。キャベツの旨味をここまで引き出せるなんて」 「ふっふ~ん♪ そうじゃろそうじゃろ? 身体に優しい食事を作るんが、うちのモットーじゃけぇね」 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:29:43さっきまでのツンケンしていた雰囲気が嘘のように明るい。まるで天使のような。見ているだけでこっちも嬉しくなる浦風姉さんの笑顔です。 「! ちょっと甘い顔したらすぐ調子づきよって」 つられて微笑む私の視線に気がつくと、姉さんはまた元の怖い顔に戻ってしまいます。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:30:39「ま、これでうちの実力は思い知ったじゃろ? なら、そろそろお前に引導を渡しちゃるけ。はよ作ったもんを食わせてみんしゃい」 そしてついに、私のお好み焼きを食べてもらえる瞬間がやってきました。 緊張に胸が高鳴る瞬間です。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:32:02泣いても笑っても、これがこの場で私にできる精いっぱい。 これが、私が浦風姉さんへの想いを籠めて焼きあげた一枚。 「「「なんじゃ、こりゃあ……」」」 ですが姉さんも、谷風も、龍驤さんも。 みんなが私のお好み焼きを見て、なぜか驚きを隠せない様子でした。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:33:40えぇと? みなさんいったいどうしたのでしょう……? えぇっと、もしかして。 できあがったお好み焼きは、浦風姉さんが焼きあげたお好み焼きと、調理工程も、使用した具材も、焼き加減も、寸分違わず同じものだったからでしょうか。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:34:51「うちもそれなりにお好み焼き食うてきたけど、ここまで完全な丸パクリを見たんは生まれて初めてやで……」 「さすがの谷風さんもびっくらこいたよ」 「? 弟子が師匠の真似をして何がいけないんですか?」 開いた口が塞がらないといった様子の二人に真顔で私は言います。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:35:53まったく同じ内容で、まったく同じ調理工程のお好み焼きができあがる……それは、私が浦風姉さんのお好み焼きを見てこれまでしっかり腕を磨いてきたことの証。なにより私にとって思い出の味。 私がこれを出してくることくらい、師匠である姉さんなら当然予測済みのはずで。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:39:02さて、あとは中身。 私のお好み焼きに対する想いや心構えといった中身の勝負となるわけですが。 「……ふ、ふふふ」 やはりと言うべきで。浦風姉さんといえばさすがです。私の作ったお好み焼きを見てもまったく動じていません。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:40:09相互採点方式という今回の勝負における本当の意味。 最も正しく理解しているのは他の誰でもない、姉さんだと言えるでしょう。 同じ重油と設計思想を分けあった姉妹。やっぱり心の底ではわかりあっていた……! ある意味、確信さえ持てる瞬間です。 #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:40:36そんな私の憧れ。浦風姉さんの、開口一番に言い放ったセリフがこれです。 「う、うちのお好み焼きのパクリじゃー!?」 えっと……あの、その? #お好み焼き屋浜風
2016-03-27 09:41:19「?? はい? なにか? 私、なにか間違ったことでもしましたか?」 真顔で私は問います。 「ま、まぁええわ。広島お好み焼きの真価は、どがぁに美味しゅうキャベツを食わすかじゃ。小手先だけの真似事なら食べてみたらすぐにわかることじゃ」 #お好み焼き屋浜風
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