ドボク鎮守府 起重機船と駆逐艦のこどもチャレンジ事業　其の七　Maizuru Arsenal

まも（C102お疲れさまでした） @Kojimamo

《緊急　緊急　舞鶴に入渠中の筆頭秘書艦大潮　出渠の気配アリ！弾道弾搬送班出動用意！》 構内放送が慌ただしく告げる中、私も急いで余りクローゼットから出さない 第3種軍装を羽織り、執務室を飛び出す。朝潮と荒潮を呼び出し、同行させる。 #ドボク鎮守府

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「大潮もおめでたねぇ～」 荒潮は相変わらず、飄々とした口調だが、長姉である朝潮は口をキッと結んだまま何も喋らない。緊張しているのだろう。なんせ姉妹艦初の子供だからな。 本社ビル前に止められた送迎車にいそいそと乗り込む。 #ドボク鎮守府

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「出してくれ」 運転手の黒潮は黙って頷くと、サイレンと警告灯のスイッチを入れ緊急走行で弾道弾のサイロ基地へと向かう。 「朝潮、弾道弾に乗るのは初めてか？」 「はい…」 「緊張するな、ここから舞鶴までは10分チョイで弾着だ」 #ドボク鎮守府

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京都府舞鶴市　統合海軍舞鶴工廠 「ハァハァ…はぁああ…はぁ～」 大潮が開放式のドックで横たわり、息を荒げている。 全長118ｍの実艦体Modeと呼ばれる軍艦時代だったその姿…。 彼女はこの姿で出産するのだ。 #ドボク鎮守府

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＜＜大潮ちゃ～ん。さっきアンタの提督さんもう直ぐ来るって連絡あったから頑張るんだよぉ～＞＞ ドック前の建屋のスピーカーからしわがれた声が木霊し、周りを工廠妖精や工員ら、そしてフォークリフトに運搬車らが慌ただしく駆け回る。 声の主は舞鶴工廠そのもの。工廠娘だ。 #ドボク鎮守府

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「ドボクの提督さんはまだかい！？」 ドックを望む建屋の望楼から工廠娘…というより100歳をゆうに越える老女が 隣にいるクレーン娘へ尋ねる。 ゴライアスクレーン20歳、まだまだ若い起重機娘だ。 「弾道弾でここ、舞鶴東港の中に降りると言ってましたが…」 #ドボク鎮守府

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「本当に港内にまともに降りるんだろうねぇ？ミサイルなんだろ？それは！全く物騒なモンで駆けつける夫も居るもんだ。工廠に当たらんでくれよ…」 工廠娘…いや工廠婆は腕を組んで港の方を眺めた。 #ドボク鎮守府 pic.twitter.com/BwWtPOLi2H

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「あそこの鎮守府さんは特殊ですから…」 クレーン娘がｵﾄﾞｵﾄﾞした声で答える。 ＜＜ｻﾞｻﾞｻﾞ…　ｺﾁﾗ海軍設営隊…　ﾏﾓﾅｸ到着…＞＞ 「いよいよ、おいでなすったか！」 工廠婆が膝をポンと叩くと立ち上がり、マイクで放送をかけた。 #ドボク鎮守府

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「はい～、ドボクさんがまもなく到着だよー！」 やがて東の方から飛行機雲が真っ直ぐ港の上まで飛んできたかと思うとバラバラに 飛散。あわやと思いきや、落下傘でゆっくりと人員輸送ポッドらしき銀色の三角系の 金属体が水面へ落ちてきた。 #ドボク鎮守府

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＜＜さぁ、ランチだして迎えにいっておやり＞＞ 放送がかかるが早いが、岸壁からポンポンと小気味良い音を立てて内火艇が港内に漂うポッドまで駆けてゆく。 「ようやくご到着ですね。では私は出渠作業へ参ります‥･」 クレーン娘が下へ降りてゆくと望楼は静かになった。 #ドボク鎮守府

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工廠婆は腰に手を当てグルグルと腰をまわすとボソリと呟いた。 「相手は起重機船、そして患者さんはウチが昔産んだ大潮…か」 しかも夫は機械【雄】と船【娘】の間の子。前例のない掛け合わせだ。 #ドボク鎮守府

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「こりゃぁ、とんでもない子が産まれそうだよ。アンタ」 工廠の魂を持つその老女は、向こう岸の桟橋にいる小さなジブクレーンに話しかけるように顔を向ける。 そして感じた。 きっと前代未聞の進水式になるに違いないと。 #ドボク鎮守府 pic.twitter.com/7euCXrrPFC

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今日の工事区間はここまで 通行の方々、ご協力ありがとうございました #ドボク鎮守府 pic.twitter.com/6dwvVd8NjN

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大潮の「改装まだですかね」の視線攻撃を受けつつ、執務室に入ると部屋が弩級ピンク状態。卯月の仕業らしい。 あのな、高速インター傍に林立するラブホでも建てるつもりか、この内装は…。 「ラブホな鎮守府もあるらしいぴょん」 #ドボク鎮守府 pic.twitter.com/KnHansqg42

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「うちはドックが、作業船や艦艇のラブホですから」 「司令かぁ～ん、今日も大潮とガッコんだぴょーん？ｸﾞﾌﾌ…」 卯月と大潮の『今日も造船作業ですか？おめでたいですね』な視線を浴びつつ、勲章蒐集作戦の日報作成。あと２個…2個だ…。 #ドボク鎮守府

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机の上の兎が時折《敵の潜水艦を発見！》とか《貴様は強くない》等と喋る。 BGMはエドウィン・スターの『黒い戦争』…。 「WORWORぉ？戦場太郎は、うーちゃんの恋人だぴょん！どうだぁい！このナパームの匂い」 室内で油脂焼夷弾を芳香剤代わりに焚くのは止めなさいっ！ #ドボク鎮守府

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「しれいかぁ～ん！卯月から、ナロー電車あげるぴょ～ん！」 卯月がタブレットを弄って見せた画面は、鎮守府の職員団地の構内電車がド派手な塗装になっている画像が映し出されていた。 「おまぁ！設営隊標準塗装がぁ！？」 #ドボク鎮守府 pic.twitter.com/AOcwyP6k21

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「あー、これは塗装簡略化じゃないぴょん！卯月カラーに…」 設営隊職員送迎鉄道が何処ぞの幼稚園の遊具みてぇな事になっとるぞ。 駆逐艦によって勝手に鎮守府の電車の塗装を弄られるとか、どうなっとるんですかねぇ、此処は…。 #ドボク鎮守府 pic.twitter.com/ZLcaCFegDu

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このまま黙って兎に喰われる草になる訳にもいかんので卯月に反撃を試みる。 「ところで卯月。お前の生まれ故郷は？」 「東京石川島造船だぴょん」 「起工したのは？」 「えっーと1924年1月11日！びしーっ！」 海軍式敬礼で二ヒヒと笑いながら答える。 #ドボク鎮守府

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その笑顔も終わりだ。 「その時、一緒に同じ造船所の艤装岸壁にいた娘は覚えているかな？」 「…えっ…えっと…確か陸さんのフネだったような…気がするぴょん」 卯月の顔が考え込む表情になる。 いいぞ、止めを刺してやろう。 #ドボク鎮守府

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「卯月。おまえ、進水して早々、一緒に産まれた起重機船とガッコンしたんだってな？おばさん、同じ起重機船だから知ってるぞぉ」 卯月の顔がピンクから京浜東北線ブルーに変わってゆく。 「ぅあ……あ…」 「相手の名前、蜻州丸」 「ひぃ！？」 「陸軍さんの船とガッコン」 #ドボク鎮守府

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東京石川島造船所 海軍　第25号艦駆逐艦卯月　進水1925年10月15日 陸軍　特殊起重機船蜻州丸　進水1925年2月23日 #ドボク鎮守府

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世界の艦艇1964年10月号　より 特殊軍用起重機船の話（上）福井静夫 「東京石川島造船所の艤装岸壁を（略）第25号駆逐艦の艦尾に蜻州丸が船尾を向けて一列に並び、2隻が同時に艤装中であって進水直後の蜻州丸は…」 #ドボク鎮守府