【ミイラレ! 青行燈のこと】

リメイク版な。不可思議な存在、怪異が押しかけてくるお話です。
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ほんのわずか、巡の顔に驚愕と動揺の色が浮かんだように見えた。が、その変化はすぐにしかめっ面に取って代わられる。「たしかに。そこをはっきりさせておかないといけませんな。正直に申しまして、あたしはその後のことは考えておりません」「どうして?」「必要がないからです」42 #4215tk

2016-04-27 21:28:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

驚くほどきっぱりと巡は断言した。「と言いますのも。あたしは別に百鬼夜行を率いて大きなことをしでかすつもりなんざないんですよ。そも、他の連中をまとめ上げるなんて柄じゃありません。あたしはただ組を復興させて恩義を返し、落ち着ける拠り所を取り戻したいだけですから」43 #4215tk

2016-04-27 21:32:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その言葉を頭の中で咀嚼した四季は、ゆっくりと口を開く。「……つまり、人間に対してどうこうする気はないんだね?」「ええ、ええ。下手に関わったらこちらが貧乏くじを引きますからね。退魔師どもとのやりとりで身に染みましたさ」ひどく苦々しげに言われた。44 #4215tk

2016-04-27 21:36:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

一方の四季としては、喉の引っかかりが取れた気分だ。「わかった。そういうことなら手伝うよ」「はあ。……は?」反射的に頷いたらしい巡が、驚いたように目を見張る。「手伝う?と、おっしゃいました?」「言った。というか、そっちがそう頼んできたんじゃないか」45 #4215tk

2016-04-27 21:39:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

少しばかり咎めるような眼差しを向けてやる。鬼女が狼狽したように見えた。「いえ、言いましたけども!こう、もう少し渋られるものとばかり」「人間に迷惑かけるつもりがないんなら、別に迷うこともないよ。ただの怪異(ひと)助けなら全然問題ないし」46 #4215tk

2016-04-27 21:43:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あくび混じりに答える四季。巡がそれを気味悪げに眺めている。「……別にそんな顔しなくてもいいじゃない。俺だってたまには助ける側に回りたいんだよ」「と言いますと?」「いつも怪異のみんなには助けられて……というか、子ども扱いされてばっかりだからさ。もう高校生なのに」47 #4215tk

2016-04-27 21:48:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

思わず口調が非難がましくなる。巡はと言えば、なにやら納得した様子で頷いていた。「ははあ、なるほどなるほど。難しいお年頃というわけですな」「なんだよ」「周囲に自分の力を認めてもらいたいと。なんとも微笑ましい……いや、いい心がけですな。利害の一致が見込めます」48 #4215tk

2016-04-27 21:52:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

言い直したのは、むすりと口を結ぶ四季を見たからか。巡は大きく息を吐いた。「なんにせよ、こちらは大助かりです。では次に」「まだなんかあるの?」「すぐ終わりますってば。……こいつの出番というわけで」そう言って掲げてみせたのは、あの小槌である。49 #4215tk

2016-04-27 21:56:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季が見守る中、鬼女は軽く小槌を放り投げた。小槌はくるくると回転しながら二人のちょうど中間に着地。驚くべきことに直立した。緩やかに取っ手を軸に横回転し、メトロノームのごとく振れ始める。そして最終的に……四季の方へぱたんと倒れた。微かな溜息が漏れる。50 #4215tk

2016-04-27 22:00:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なるほど。まあ、こうなるだろうとは思いましたが」溜息の主……巡が言う。その意味を問おうとした四季の目が小槌へと引き寄せられた。いつの間にか、小槌が自分の手元へと移動している。「そいつは貴方の方が組を率いるにふさわしいと判断したようですよ、若旦那」51 #4215tk

2016-04-27 22:04:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「若旦那?……え、俺のこと?」「そうですとも。やれやれ、やっと肩の荷が下りた」目を丸くする四季の前で鬼女が笑う。安堵と寂しさの入り混じったような、複雑な笑み。「今この時より、若旦那が山ン本組の頭領です。とはいえ、動ける部下はあたししかおりませんが」52 #4215tk

2016-04-27 22:08:57
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

呆然とする四季の前で、巡は丁寧にお辞儀した。顔を上げた彼女は、どこかさっぱりとした様子で言う。「なにか用件があれば忌憚なくお言いつけください。できる範囲であればこなしてみせましょう」「そ、そう……えーと、なんだ。その、よろしくお願いします」53 #4215tk

2016-04-27 22:12:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

なんとなく四季も頭を下げ返す。目を丸くした巡が、ややあってから噴き出した。「そう畏まられると照れますねえ。もっと気楽になさってくださいな」「う、うん。……あ、そうだ。早速頼みたいことがあるんだけど」「ふむ、なんでしょう?」「まず一つ。ここから出してくれる?」54 #4215tk

2016-04-27 22:16:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ああ、はいはい。お安いご用で」巡が床を叩く。そこに大きな穴が空いた。ここから降りろ、というのだろう。四季は息をついてから、巡を見やる。「ありがとう。で、もう一つ。ちょっとついてきてもらっていい?」「はあ。どこにです?」「広間」巡が怪訝そうに首を傾げた。55 #4215tk

2016-04-27 22:18:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

さすがに説明が必要だろう。四季はそう判断する。「ええと、御影に会って欲しいんだよ。あいつ、他の怪異が無断で家の中に入ると機嫌悪くするから」「はあ。別にあたしは外で寝泊まりしますが」「長い付き合いになるかもしれない相手に、そんなことさせるわけいかないでしょ」56 #4215tk

2016-04-27 22:20:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう言ってやると、巡が意外そうな顔をした。しばらく呆然としていたらしい彼女は、ややあってから言う。「……なるほど。噂で聞いていた以上に変わり者なようで」「噂の俺はどんなことになってるんだ……まあいいや。ほら、行こう」「かしこまりました。お供いたしましょう」57 #4215tk

2016-04-27 22:24:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

無造作に立ち上がった巡は、四季の首根を掴んで持ち上げる。そして彼が文句を言う前に出口から飛び降りた。……後に残された青白い鬼火がその勢いを弱め、やがて消える。ただ暗闇だけが辺りを包み込んだ。58 #4215tk

2016-04-27 22:28:07
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