招くもの、来たるもの

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次です! 今回はちょっぴりホラーテイストなお話。 暖かくなってきた今日この頃にひやっとする何かをどうぞおたのしみください! 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

こんこん、と小さなノック。 「司令。開けてください」 ボロ小屋こと司令官臨時居室のドアの向こうにいるのは不知火らしい。 「どうした、何かあったか?」 割とお嬢様的なプライドが高い不知火がこの部屋に来るのは珍しい。寝転んでパチスロ雑誌を読んでいた兵頭は身を起こす。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:33:36
竹村京 @kyou_takemura

「料理を作ったので、毒見を」 上官に対して毒見とは、素直というか不知火らしいというか。まだ自分の想定通りのものではない試験段階だから毒見、という事なのだろう。 「おう、鍵はかかってねえよ」 「開けてください」 「自分で開けろよ」#落ちぬい二次

2016-04-28 22:36:18
竹村京 @kyou_takemura

「不知火の料理を地べたに置けと?」 それもそうか、と腰を上げて、部屋がだいぶ散らかっている事に気付く。浜風ならむすっとして勝手に掃除をするだろうが、不知火はおそらく機嫌を損ねるだろう。自分を上げるのにこの汚い部屋は何事か、と噛みつくに決まっている。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:37:46
竹村京 @kyou_takemura

「ちょっと待ってろ」 乱雑に放り出された衣類を洗濯籠代わりの買い物かごにまとめ、ギャンブル雑誌や不知火には少し早い雑誌を押し入れにまとめて放り込む。カップ麺や弁当のゴミはとりあえずゴミ袋に突っ込んで部屋の隅へ。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:39:26
竹村京 @kyou_takemura

手早く掃除をしている間も、不知火は神経質にノックを続けていた。 よし、大体こんなもんか。 「待たせたな」 待たせすぎて怒っているかもしれない、と少し怖くなるが、まあ汚い部屋を見せるよりはいいだろう。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:42:37
竹村京 @kyou_takemura

「入りますよ、兵頭さん」 ノブに手をかける直前に外からドアが開いた。戸口からひょっこり顔をのぞかせたのは不知火ではなく浜風である。料理を持って突っ立っているはずの不知火はいなかった。 「あれ、浜風一人か?」 「そうですけど?」#落ちぬい二次

2016-04-28 22:44:33
竹村京 @kyou_takemura

勝手に上り込む浜風からは微かに石鹸の香りがした。既に自主トレを終えて入浴も済ませたのだろう。下は制服のスカートだったが上は涼やかな白のブラウスで、足元も運動靴ではなく綺麗に手入れされたローファーだ。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:46:14
竹村京 @kyou_takemura

艦娘の服装規定はかなり緩く、基地内であってもいわゆるジャー戦の延長としてこのようなラフな格好も許されている。 「そこに不知火いなかったか?」 「いませんでしたよ」#落ちぬい二次

2016-04-28 22:48:15
竹村京 @kyou_takemura

「変だな、ついさっきまでノックしてたのに」 痺れを切らして、というかキレて帰っちまったか、と不安になる。だが不知火は忠犬らしく待てはいつまでも出来るし、キレたら狂犬らしく必ず暴れる。勝手に帰るだけの大人しいタマではない。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:49:58
竹村京 @kyou_takemura

「不知火さんを外で待たせてたんですか?」 「料理を下に置くのは嫌だから中から開けろって言って待ってたはずなんだが」 「でも、不知火さんならさっき食堂で見かけましたけど。磯風と一緒に長門さんから料理を習ってましたよ」#落ちぬい二次

2016-04-28 22:51:44
竹村京 @kyou_takemura

「今の今までそこにいたと思うんだが、入れ違いってことはないか?」 「ないです。ここに来る途中で見たんですから。それに、料理で両手がふさがってるのにどうやってノックするんです?」 「言われてみりゃ確かに。なんか変だな」#落ちぬい二次

2016-04-28 22:53:39
竹村京 @kyou_takemura

料理を持って来ていたはずの不知火が浜風によればまだ料理を習っている最中。ではドアの向こうにいたのは誰だったのか。黒潮あたりの悪戯かもしれないが、オチがないのが気にかかる。 もう一度ドアを開ける。やはり不知火はおらず、夜の闇があるばかりだ。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:55:34
竹村京 @kyou_takemura

「何だ?」 足元でびちゃりと水音がした。屈んでみるとドアの前に水溜りができていた。 「くっせえ」 その水からは魚や藻が腐ったような澱んだ悪臭が漂っていた。よくよく闇に目を凝らしてみれば、水溜りから海の方に点々と小さな水溜りが続いている。#落ちぬい二次

2016-04-28 22:57:21
竹村京 @kyou_takemura

「それ、誰かが廃水でもこぼしたんでしょうか。変な臭いがします」 「……みたいだな。ちょっと洗うから待ってろ」 そう言うと、近くにある蛇口からホースを繋いで水溜りを洗い流した。#落ちぬい二次

2016-04-28 23:01:16
竹村京 @kyou_takemura

室内に戻ると、ごとん、と浜風がボロテーブルに大きな鉢を置いていた。鉢は十七駆が揃った時にみんなで食卓を囲めるようにと珍しく奮発して買ったもので、中身は得意の塩肉じゃがだった。#落ちぬい二次

2016-04-28 23:01:30
竹村京 @kyou_takemura

「それで、用って何ですか?」 「ん?」 「用があるから来てくれって、わざわざ伝言をよこしたんじゃないですか」 食事にはもうちょっと遅い方がいいかと思ってたんですけど、と浜風。 「伝言なんてさせてねえよ」#落ちぬい二次

2016-04-28 23:02:58
竹村京 @kyou_takemura

浜風は若年性痴呆ですか、という問いを危うく飲み込んで改めて問う。 「初めて会う艦娘だったんですけど、提督が急用だからすぐに来てくれって言ってたと……あれ?」 浜風ははたと言葉を切って首を傾げる。 「どうした?」 「変です、その子の事がうまく思い出せないです」#落ちぬい二次

2016-04-28 23:04:18
竹村京 @kyou_takemura

兵頭はいくらなんでもそれはないだろうと思う。確かに浜風は人付き合いが苦手で今でも陰口を叩く者もいるが、さすがにまだ顔と名前が一致しない艦娘はいないはずだ。 「艦娘だったんだろ? 背格好や制服はどんなだった?」 「ええと……」#落ちぬい二次

2016-04-28 23:06:25
竹村京 @kyou_takemura

浜風が眉根にしわを寄せて覚えている特徴をぽつぽつと告げていくと、兵頭の表情が神妙なものに変わった。 「ああ、そいつは昔ここにいたやつだ。今はちょっと遠くに行ってる」 「そうだったんですね。じゃあここには何かの任務で?」#落ちぬい二次

2016-04-28 23:08:00
竹村京 @kyou_takemura

「連絡任務だそうだ。浜風、もし後でそいつに会ったら俺が礼を言ってたと伝えてくれ」 「自分で伝えればいいじゃないですか」 「それがあいつちょっと恥ずかしがり屋でさ。任務が終わったら俺に会わずに帰るつもりっぽいんだわ。もしかしたらお前には会いに行くかもしれないからさ」#落ちぬい二次

2016-04-28 23:09:24
竹村京 @kyou_takemura

納得できたようなできないような微妙な顔で浜風が頷く。これでも一応は上官からの頼みである。 「よくわからないけど、分かりました。お礼を言えばいいんですね」 「頼む。助かったと伝えてくれ」#落ちぬい二次

2016-04-28 23:11:20
竹村京 @kyou_takemura

言い終わると相好を崩し、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。いつものだらしなさである。 「それで、急用って何ですか?」 「肉じゃが食いてえなって」 「もう、私は出前じゃありません!」 浜風は怒ったふりをしながらも少し嬉しそうだった。#落ちぬい二次

2016-04-28 23:13:06
竹村京 @kyou_takemura

どうせ米は炊いていないだろうと浜風が持って来ていたおにぎりと肉じゃがで夕食を摂り、ビールを二本開けた。食事を終えると浜風は残った肉じゃがにラップをかけてから寮に帰って行った。#落ちぬい二次

2016-04-28 23:14:49
竹村京 @kyou_takemura

浜風が去って殺風景になった部屋に寝転がる兵頭は、いつになく遠い眼をしていた。 「助けちゃくれたが、許しちゃくれねえか」 やにが染みついた天井を眺めながら呟く。#落ちぬい二次

2016-04-28 23:16:27