このクソ暑い日にあなたの力を借りたい#2 彼を呼ぶ声◆1
_薄暗い倉庫の中で、男は怪しい取引を持ち掛ける。 「あんた吸血鬼だろう? 牙で分かる。金は2倍出す。協力してくれないか?」 男が説明することによると、吸血鬼にウィルスを感染させ、効果を確かめるということだ。吸血鬼が咬むことでウィルスは感染するという。 31
2016-05-02 17:25:40_吸血鬼には無毒であり、インペリアル人やエシエドール人など灰土地域に多い人種に効果的に症状が現れるという。この二つの人種は、帝都の人々の7割を占める。 「蚊は確かに感染力があるが、飛行能力が小さいせいで初期封鎖の恐れがある。自ら感染路を拡大できる吸血鬼は魅力的だ」 32
2016-05-02 17:31:33_倉庫内部の足音や実験器具のカチャカチャした音が遠く感じる。メアレディは決断を迫られていた。ウィルスという証拠を手に入れるには絶好のチャンスだ。だが、もし毒物だったら? 潜入がばれているのかもしれない。そうでなくても、本当は強い症状が出るのに隠しているのかもしれない。 33
2016-05-02 17:38:37「身を捧げる気はないよ。ワクチンはあるんでしょうね」 「もちろんだ」 無意味な質問だ、とメアレディは思った。相手が正直に話す義務はどこにもない。しかし、毒物探知の魔法を使う危険性よりははるかに「おいしい」機会がそこにはある。迷いで揺れるメアレディ。 34
2016-05-02 17:46:24「感染した吸血鬼に会える?」 言葉では何とでも言える。しかし、無いものを示すことはできない。つまり、示してみよ、と問いかける。 「いいや、吸血鬼なんて希少種、なかなかいなくてね……君が最初の被験者だ」 35
2016-05-02 17:51:17_メアレディは片眉を上げる。 「なら、どうして吸血鬼に無毒だって分かるの? ま、この業界騙す騙されるなんて日常茶飯事だから、話は聞かなかったことにしてあげる」 今回はナシだ。そう判断したが、相手はそうは思わなかったようだ。首筋に殺気。 36
2016-05-02 17:56:25_とっさに飛来物防護の魔法! 何か固く小さいものがメアレディのすぐ後ろで弾かれた。机の陰に、筒を持った男が隠れている。 (吹き矢だ!) これは明らかな敵対行為であり、反撃で暴れても許される。ただ、そんな力は彼女にはない。そして、テレパスで助けも呼べない。 37
2016-05-02 18:04:38_急いでその場を離れようとする。掴みかかってくる男。相手の勇み足の理由は何となく分かる。吸血鬼というあまりにも希少な実験材料が、突然迷い込んできたのだ。メアレディは愚策だな、とは思ったが、ピンチなのには変わりない。 机を蹴飛ばし、椅子を投げ、さらに奥へと逃げる。 38
2016-05-02 18:09:56_どこまでも逃げられるほど、倉庫は広くはなかった。壁に追い詰められたメアレディ。輪になって取り囲む盗賊ギルドの男たち。捕まったら人体実験させられるだろう。 「呼べば来るだなんて、こんな大事な時、来ないんじゃ何の意味もないじゃない!」 つい恨み節が漏れる。 39
2016-05-02 18:16:13「クソ魔法使い、呼ぶから今すぐ来なさいよ!」 叫んだと同時に、隣の壁が崩れ落ちる。そこから姿を現わしたのは、山羊のような顎鬚……アルコフリバス! 「来てやったぜ、クソ女!」 40
2016-05-02 18:16:39【用語解説】 【ワクチン】 生き物の免疫を利用して感染への耐性を付与するもの。魔法式のものと、培養式のものと2種類ある。魔法式のものは高価だが圧倒的に便利で、魔法物品を身に着けるだけで効果を発揮するものもある。服の上からでも魔法が浸透し、免疫を作る。病原ごとに調整を要するのは同じ
2016-05-02 18:25:27