【光の剣は宿命を断つ】

弱さを認めるのは成長の近道
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

弱さを認めるのは成長の近道

2016-05-05 22:06:28
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

時刻は21:00。高雄は眉間に皺を寄せながら大量の伝票と格闘していた。任務の達成による報酬や、演習で使用する弾薬、艤装の修理に使う修復材や開発資材など、鎮守府には毎日大量の荷物が運ばれてくる。事務を主な仕事とする高雄はこれらを全て確認し把握していなければならないのだ

2016-05-05 22:08:35
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故に作業は非常に時間がかかる。今日もかなり遅い時間までもつれ込んでしまった。ここでミスがあったら後々面倒なことになる。コーヒーを飲み干して睡魔を追い出し、深呼吸をして再び伝票を睨む。その時、彼女は伝票の間に挟まっている小さな便箋を見つけた

2016-05-05 22:09:49
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

どこからか紛れたのだろうか。高雄は便箋を手に取った。梵字のような、ただの記号のようなよくわからない文字が書かれている。差出人もわからない。ただ一つ、宛先と思わしきところに書いてある文字は、なんとなく「瑠奈花」と読めるような気がした

2016-05-05 22:11:06
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某日…雪花の司令官、瑠奈花は僅かな書き置きを残し姿を消した。書いてあったのはただ一つ。「数日後に帰る」とだけだった。当然雪花は混乱したが、吹雪と高雄はなんとか混乱を収めた。行き先もわからぬ今、彼女達にできるのは待つことだけだ

2016-05-05 22:12:40
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その頃瑠奈花は、操縦士を1人連れ、小型の船で海を走っていた。彼は船首に立って目を閉じ、右手に握られた小さな便箋の送り主について思考した。いったいこれは、何のために送られてきたのか。自分になんの用事があるのか

2016-05-05 22:14:13
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手紙の文字は瑠奈花も見たことがない言語で書かれていたが、不思議と彼にはなんと書いてあるかが理解できた。そして、送り主が誰かもわかっていた。手紙に名前が書いてあったからだ。何故か読むことのできた、知らない言語で

2016-05-05 22:15:09
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やがて、船は目的地へたどり着いた。海中から突き出た、牙のように鋭い岩に囲まれた小さな島である。空は常に薄暗い暗雲が立ち込め、不気味な色に染まっていることから「終末の海」などとも呼ばれている海域である。手紙の主は、瑠奈花をここに呼び出したのだ。ご丁寧に地図まで添付して

2016-05-05 22:16:51
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「3日だ」 瑠奈花はローブを翻して船から飛び降り、操縦士に向かって言った 「3日経っても戻ってこなかったら雪花に戻って報告してくれ」 操縦士が瑠奈花の背中に何か叫んでいるのが聞こえた。報酬は弾むと言い捨て、瑠奈花は顔を向けず歩いていった

2016-05-05 22:18:29
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島には廃墟と化した街並みが広がっていた。かつては人が住んでいたのかもしれない。ほとんどの建物は崩れかけ、原型すら保っていないものもある。そんな中、瑠奈花の目は一際目立つ巨大な円形の建物を捉えた。かのコロッセウムを彷彿とさせる建物に、瑠奈花は吸い込まれるように歩いていった

2016-05-05 22:19:49
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建物の中を進むと、広大な円形のアリーナと、それを囲む観客席が見える。瑠奈花は頭上に開けた不気味な空に一瞬見とれていたが、すぐに視線を正面に戻した。コロッセウムの中心に巨大な十字架のようなオブジェクトが突き刺さっている。その上に誰かがいる!

2016-05-05 22:21:32
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瑠奈花は咄嗟にライトセイバーに手を伸ばし、人影に近づく。足音が立っていたが、別にこそこそする必要はなかった。相手はどうせ自分に気がついている。 「やはりあんたか」 人影はゆっくりと顔をこちらに向けてきた。彼女と会うのは何十年ぶりだろうか 「ウィッチレイド…!」

2016-05-05 22:23:09
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「覚えていたのか」 ウィッチレイドと呼ばれた女性が透き通るような声で答えた 「当たり前だ」 忘れもしない。この女こそが、かつて瑠奈花の故郷を焼いた敵そのものだ。ウィッチレイドは十字架のオブジェクトから飛び降り、瑠奈花の顔を見つめた

2016-05-05 22:23:39
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「成長したな。少年」 「ふん…」 「手紙が読めたのか?正直来ないかと思っていたが」 「何故だか知らんが、生憎読めてしまってな」 瑠奈花は持っていた手紙をウィッチレイドに見せつけたあと、ライトセイバーを投げつけた。ウィッチレイドはそれをキャッチする

2016-05-05 22:25:19
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「これは」 「ライトセイバーだ。お前のな。これが目当てなんだろ?」 このライトセイバーは元々、ウィッチレイドから奪ったものだ。今思えば、当時子供だった瑠奈花からライトセイバーを奪い返すなど造作もないことだったような気がするが、彼女がそうしなかった理由はわからない

2016-05-05 22:26:17
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「これは驚いた」 ウィッチレイドはライトセイバーを懐かしむように眺めた 「私のたった一つの至高の作品…また出会えるとは思ってもいなかった」 彼女は感動的にそう言った 「君がこれを使っていたのか?」 「ああ」

2016-05-05 22:27:13
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「奪っておいてなんだが、だいぶ世話になっている」 「そうか…ふふふ」 ウィッチレイドは満足げに笑みをこぼした。ライトセイバーを隅から隅まで見つめた後、彼女は親指で観客席を差して言った 「少し話をしないか?」

2016-05-05 22:28:49
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暫しの間、2人は他愛ない話に花を咲かせた。瑠奈花はウィッチレイドが本来は武器職人であったことや、今は深界を離れ放浪していることを聞いた。彼は当初ウィッチレイドを警戒していたが、話が進むに連れて、彼女に敵意がないことを見抜いていた

2016-05-05 22:30:27
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「君は、私を憎んではいないのか?」 「憎む?」 「私は君から故郷と家族を奪った。君の人生を大きく狂わせてしまった。私が憎くてもおかしくないはずだ」 ウィッチレイドは真っ直ぐ瑠奈花を見つめた。彼女はどんな答えを求めているのか?

2016-05-05 22:32:31
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「恨んでいない。と言えば嘘になるかもしれないが。別に憎いとは思っていない。過ぎたことだ。それにそのおかげで、手に入れられたものもある」 瑠奈花は本心からそう言った。「過去は振り返らない」 「そうか」 ウィッチレイドはライトセイバーを瑠奈花に投げ渡し、真剣な眼差しで彼を見た

2016-05-05 22:33:24
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「私がお前を呼んだのは、ライトセイバーを返してもらうためではない。それは今や君のものだ」 「ではなぜ、私を呼んだんだ」 ウィッチレイドは立ち上がり、腰に手を当てた。彼女のマントの下に曲がった筒のようなものが2本ぶら下がっているのが見えた

2016-05-05 22:34:31
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「私はあの時、君に素質を感じたのだ。そのライトセイバーを持つに相応しい者として、君の未来に賭けた。そして君は、おそらく私の想像を上回る最高の剣士となったはずだ」 ウィッチレイドは腰にぶら下がったそれを──カーブ=ヒルト・ライトセイバーを抜き、赤い光刃を瑠奈花に突きつけた

2016-05-05 22:34:56
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「それを確かめるために君を呼んだ。そのライトセイバーを作成した者として、それに最も相応しい剣士を見つけることが私の生き甲斐だった!」 瑠奈花もゆっくりと立ち上がり、ウィッチレイドの顔を見た。その瞳は今や深海棲艦ではなく、1人の剣豪、職人のそれであった

2016-05-05 22:35:39