【ミイラレ! 屋敷幽霊のこと】
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「なんていうかな……怪異的な道具?そういうのを作ってはばら撒いてる連中。けど、退魔師ホイホイなんて代物を作ってるとは思ってなかったよ。よっぽど私たちを敵視してるのかもね」淡々と説明しながらも、彼女は携帯電話を取り出す。仲間への報告だろうか。54 #4215tk
2016-05-19 21:04:18が、彼女は画面を見て困ったような眉を下げた。「……圏外。ねえ、えーと……家の怪異さん」『新屋敷(あらやしき)って名前がある』「じゃあ新屋敷さん。その、電話を使わせてもらってもいい?ここ、電波が入らなくて」『ああ、うん。ウチが遮断してるしね』55 #4215tk
2016-05-19 21:08:20思いがけない返答に、怜は目を細めて受話器を見つめた。四季が首を傾げる。「なんでそんなことを」『だって……キミらの会話を聞いてると、電話かけさせたら誰かに迎えに来てもらうつもりだったでしょ?』「そうだね。それが?」『その、それが嫌だったというか……』56 #4215tk
2016-05-19 21:14:14急激に歯切れが悪くなる。四季と怜は黙って言葉の先を待ち続けた。雨が屋根を打つ音が響く。やがて、溜息のような音が受話器から漏れた。『さっきも言ったけど、そもそもウチを見れる人間って少なくなっててさ。こういう風に人間を迎えるの、本当に久しぶりで』57 #4215tk
2016-05-19 21:21:07二人は口を挟まない。受話器の言葉はなおも続く。『だからなるべく長くいてほしいというか……もっとゆっくりしていって欲しかったんだ。だから、その、ごめん』「……謝るのは私の方かもね」肩を竦めて怜が言う。「ちょっと疑い過ぎてた。うん。素直に歓迎されることにしよっか」58 #4215tk
2016-05-19 21:24:03振り向きながら彼女は言った。四季はその視線を受け止め、微笑しながら頷く。受話器から吐息のようなノイズが漏れた。『あ……ありがとう!』ついで感極まった声。怜は小さく笑い、受話器を切らないままに台の上へ置いた。新屋敷と会話をしながらゆっくりするつもりなのだろう。59 #4215tk
2016-05-19 21:28:01四季の隣の席へ戻った彼女は、コーヒーカップに手を伸ばそうとして……止める。「ねえ、新屋敷さん」『なあに?』「このコーヒーとかクッキーとか、どうやって用意したの?」受話器からの声が沈黙した。気まずい空気の中、雨の音だけが響く。四季は机の上を一瞥した。60 #4215tk
2016-05-19 21:32:07「この家全体が、なんだ、新屋敷さんなわけだよね」四季の言葉に返事をするものはいない。彼はゆっくりと言葉を続けた。「なら、やっぱり、その……このコーヒーとクッキーも」『だ、大丈夫だよ!食べられてもウチはなんともないから!』「やっぱりあなたの一部なの!?これも!」61 #4215tk
2016-05-19 21:36:05怜が音を立てて椅子を引き、距離をとる。受話器を介し、新屋敷が慌てたような声を上げた。『平気だよう!さ、最近人間の食べ物とか生み出してなかったけど、たぶん味はいい!食べれる!』「聞きたくない!どんどん食べたくなくなってくるじゃない!?」怜が叫ぶ。62 #4215tk
2016-05-19 21:40:06『大丈夫だよ!ほら食べて!きっとやみつきになるから!もうウチから離れたくなくなるくらいに!』クッキーとコーヒーカップが揺れ始める。放っておくと飛んできそうだ。「黙れ!というか本当に食べても大丈夫なの!?変な精神汚染とかされないよね!?」『しないよぅ!』63 #4215tk
2016-05-19 21:44:02……その後、怜を落ち着かせてコーヒータイムを終わらせるまで相当の時間がかかった。結局その間に雨はあがり、二人はぐったりしながら新屋敷の元を後にした。ぐずる彼女を遊びに来るという約束で宥めてから。コーヒーとクッキーは、普通に美味しかったことを付け加えておく。64 #4215tk
2016-05-19 21:48:02