【ミイラレ! 屋敷幽霊のこと】
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彼女が小さな声で言った次の瞬間。バン、と。彼らの背後で壁を叩くような大きな音がした。不意の物音に振り返った四季は目を見開く。その先の壁に貼り付けられたのはまたもメモ用紙。『入ってません!!!』と、やたら大きな字で記されている。「……だそうだけど」38 #4215tk
2016-05-17 20:32:04四季は幼馴染の方を見やる。彼女は顔をしかめていた。その額に冷や汗が浮かんでいる。「最初から私たちの側に……?おかしいな。御前さま、捉えられた?」『うんにゃ。漠然とした霊気が漂っておるのはわかるが』不意に第三の声が割って入る。四季は彼女の首元に視線をやった。39 #4215tk
2016-05-17 20:36:26首回りを覆うようにして漂う白い靄。ゆっくりと凝固したそれは一匹の白蛇の姿をとる。怜のお憑きの蛇神、朽縄御前だ。『はっきりとした影はないの。さて妙なことじゃ。坊主、ぬしゃどう思うね?』しわがれた声とともに鎌首をもたげる蛇神に、四季は小さく肩を竦めて見せる。40 #4215tk
2016-05-17 20:40:28「御前さまにわからないものを俺に聞かれても」そう返しつつ、机の上を眺める。そこにはメモが1枚。『冷めないうちにどうぞ』と書かれている。無論、振り返る前までそこには影も形もなかった。ちなみに怜の前にも『退魔師ホイホイと一緒にするな』と書かれたメモが出現していた。41 #4215tk
2016-05-17 20:44:05「なんというか、近くにいるのは間違いないみたいだし……本人に聞いた方が早いんじゃない?」「簡単に言ってくれるけど、答えてくれると思う?だいたい、どこに潜んでるかもわからないんだよ?」苦い表情を浮かべ、怜が反論する。四季が言葉に詰まったそのときだ。42 #4215tk
2016-05-17 20:48:02プルルルルルル!突如部屋中に響き渡った電子の爆音に、二人はびくりと体を震わせた。慌てて音源を見やる。入口脇に置いてある固定電話。「……出ろ、ってことかな」「そうなんじゃない?私が出る。四季はここで待ってて」鳴り続ける電子音に顔を歪めつつも、怜が席を立った。43 #4215tk
2016-05-17 20:52:15電話機の前で、彼女は逡巡したようだった。が、決意も新たに受話器を取る。「もしも」『ウチは最初からあなたたちの前に顔出してたよっ!』途端、女の金切声が木霊した。どうやらスピーカーホンになっているのだろう、離れた四季からも充分に聞こえる音量だった。44 #4215tk
2016-05-17 20:56:04「うるっ、さいな……!玄関からここまで誰もいなかったじゃない!」耳元で怒鳴られたのが腹に据えかねたのだろう、怜が受話器に向かって怒鳴り返す。するとそれより大きな声が戻ってきた。『なんて鈍感な!あなたたちが私の軒先に入ってきてからずっといたんだ、ウチは!』45 #4215tk
2016-05-17 21:00:15後ろで彼女らの会話を聞いていた四季は眉をひそめた。天井を見上げ、ぐるりと部屋を見渡す。そこでようやく合点がいったように呟いた。「ああ、なるほど。そういうこと?ここ自体が『あなた』ってことでいいの?」『そっちの少年は察しがよくて助かるね』幾分か嬉しそうな声。46 #4215tk
2016-05-19 20:32:21怪訝な顔で受話器を見つめていた怜は、ややあってから口を歪める。「……家そのもの、が。道理で本体らしい実体が見当たらなかったわけだ」『だからいるでしょ!?この電話機とか!そこのテーブルとか!床とか壁とか天井とか!ぜんぶひっくるめてウチなの!』47 #4215tk
2016-05-19 20:36:08怒鳴り声と同時。大きな揺れが四季たちを襲った。「うわっ!?」「きゃっ」倒れそうなほどの勢い。一瞬で収まらなければ、身の危険を感じるほどだった。「わ、わかった。わかったから!ごめんなさい、最初からあなたはここにいた。うん、理解したよ」『わかればいいのよ』48 #4215tk
2016-05-19 20:40:18『家』が受話器を通し、満足気な声を響かせる。溜息をついた怜はそれでも警戒を解いていないように見えた。「でも、いったいなにが目的?わざわざ私たちを中まで誘導して」『なにって……雨宿りするならウチの中の方がいいでしょう?』「それだけ?」『それ以外になにがあるの?』49 #4215tk
2016-05-19 20:44:24しごく不思議そうな声を返され、かえって退魔師はたじろいだようだった。首元の蛇神がぽつりと呟く。『どうやら育ちのいい付喪神のようじゃの。本心から人間の役に立とうとしておるか』『そうだよ!なのに最近ウチを見れる人間は少ないし、タチの悪い退魔師は増えるしでさー!』50 #4215tk
2016-05-19 20:48:06その言葉に、四季は怜へ視線を向ける。「退魔師にタチがいいとか悪いとかあったの?」「……まあ、怪異ってだけで除霊しにかかる連中がいるのも事実だよ」『そうそう!そういうのが増えたからって、街の怪異たちが垂乳根産業に妙なの頼んでさー!困ったもんよね本当!』51 #4215tk
2016-05-19 20:52:09垂乳根産業。四季にとっては耳馴れぬ単語。だが、退魔師にはそうでなかったようだ。怜が顔をしかめる。「垂乳根が関わってたのか。人食い屋敷の噂の元はそれだね」『その呼び方やめてくんないかな。あれと一緒に見られるのは我慢ならないの……退魔師ホイホイのやつらね』52 #4215tk
2016-05-19 20:56:09怜の眉間のシワが深くなる。やつら。すなわち、人食い屋敷とやらは複数体街に出回っているらしい。四季にもそれだけはなんとなく理解できた、が。「あの、怜。垂乳根産業って?知ってるの?」「退魔師内で危険視されてる団体の一つだよ」退魔師は簡潔に答えた。53 #4215tk
2016-05-19 21:00:09