【ミイラレ! 屋敷幽霊のこと】

オカルト存在である『怪異』とそれに好かれる少年の日々のお話。幼なじみと一緒だろうがやつらはくるのだ。
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は振り返った。視線の先では雨が降り続いている。その勢いはむしろ強まっているようにさえ感じられた。「これで傘なしで帰るのはちょっと。お言葉に甘えて、少し休ませてもらうのがいいんじゃないかな」怜の眉間にさらに深いシワが刻まれる。が、渋々といった様子で頷いた。21 #4215tk

2016-05-16 19:44:50
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……玄関ドアを開け、真っ先に飛び込んできたのはタオルの山。そしてその上に置かれたメモ用紙。『洗面所は入ってすぐ右です』と書かれている。四季は首を傾げ、家の奥を覗き込もうとした。「……なんか、人の気配がないね」「いるかも怪しいけどね」淡々と怜が言う。22 #4215tk

2016-05-16 19:48:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季はきょとんと彼女を見つめる。視線は彼女が黙って指差した先へ。そこは玄関の脱靴場。靴一つない。靴一つ……「あ」「わかった?まあ、棚の中に入れてるのかもしれないけど」怜は肩を竦め、タオルを取った。四季も慌ててそれに続き、服や鞄の水分を拭き取る。23 #4215tk

2016-05-16 19:52:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

気づくとタオルの下にもまたメモ用紙。『使ったタオルは洗面所の洗濯カゴへ』四季は黙って怜と顔を見合わせた。彼女は眉根を寄せたまま、靴を脱いで家の中へと入っていく。四季は溜息をついた。結局のところ、そうするよりほかはない。彼もまたそれに続く。しかし、これは……24 #4215tk

2016-05-16 19:56:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

洗面所につくと、また怜が難しい顔つきのまま立ち尽くしていた。「どうかした?」「あれ」視線で指し示された先にあったのは、洗濯機の上に置かれた数枚の衣服。そしてメモ用紙。『よければ濡れた服を着替えて下さい』さすがに四季も眉をひそめる。準備がいいどころの話ではない。25 #4215tk

2016-05-16 20:00:29
きゃんてら @Cantera36

迷い人が二人、いちいち細かい指示のメモ。 まさかこれは…注文の多い料理店? #ない #たぶん #4215tk

2016-05-16 20:04:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……よければ、ってついてるし。これは遠慮させてもらおうか」「だね」そう結論付け、タオルを洗濯カゴの中へ放り込み、手を洗う。そして廊下へ振り向いた二人は思わず硬直した。向かいの壁にまたもメモ用紙。『リビングでお茶でもどうぞ』内容は普通だ。しかし、いつの間に?26 #4215tk

2016-05-16 20:04:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「さすがに気味が悪くなってきたね……」怜が小さく呟く。自身の体を抱くようにしているのは、濡れた身体が冷えてきただけではないだろう。無言で頷き同意を示していた四季は、ふと思い出して彼女に問いかける。「そういえば怜はさ」「なに?」「もうお化けは大丈夫なの?」27 #4215tk

2016-05-16 20:08:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ぴたり、と。リビングに向かおうとしていた怜の動きが止まった。「……四季。言っておきたいことがあるんだけど」「う、うん?」「退魔師っていうのは警戒心と見極めが大事なの。どんなに間抜けそうに見える怪異でも、踏み込み方を間違えると命にかかわるから。わかる?」28 #4215tk

2016-05-16 20:12:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

彼女は首だけ振り向いた。その目の鋭さに、四季は思わず口を噤んで勢いよく頷く。「わかるよね。私もそれに則ってちゃんと警戒してことに当たってる。別にただ怖がってるだけじゃないから」「……怖いは怖いんだね……」「わかった!?」「は、はい!わかりましたごめんなさい!」29 #4215tk

2016-05-16 20:16:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そんな他愛のない会話を交わしながらも、二人は無事にリビングへ到達した。丁寧なことに、道案内となるメモ用紙がところどころに貼り付けてあったからだ。リビングは驚くほどに整頓されている。目につくのは、机の上にあるコーヒーカップと手作りらしいクッキーだけだった。30 #4215tk

2016-05-16 20:20:07

鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

二人はそれを無言で眺める。家の中は無音だ。生活音の一つすら聞き取れない。ただ外の雨音だけがむなしく響く。「……とりあえず、座る?」「それくらいなら平気、かな」ややためらいながらも、コーヒーカップの用意された椅子に腰を下ろす。そして用意されたもてなしを凝視した。31 #4215tk

2016-05-17 20:04:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

コーヒーカップの中身は、まだ湯気が立つブラックのホットコーヒー。そして大きめの皿に盛られたクッキー。多少不揃いな点からして、手作りだろうか。なるほど、家主の真心が見て取れるようだ。しかし。「さっきから誰も出てこないよね」四季はぽつりと呟いた。32 #4215tk

2016-05-17 20:08:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜が呆れたように彼を見やる。「一応聞いておくけど、気づいてるよね?この家、間違いなく怪異がいるよ……怪異しかいないって言った方が正しいんだろうけど」「それくらいは、まあ」四季はあっさりと頷く。彼にしては察するのが遅くなってしまったのは事実だ。33 #4215tk

2016-05-17 20:12:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

靴一つない玄関といい、いつの間にか先回りして貼られているメモといい、ここまでくればどんな鈍い人間も勘づく。とはいえ。「いや、俺が言いたいのはさ。どんな怪異にしろ、そろそろ姿を見せてもいいんじゃないかってこと」「相手の目的によるよ」怜は言った。34 #4215tk

2016-05-17 20:16:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

彼女は目だけを動かしてリビングの中を見渡す。「……最近の退魔師内で少し話題になってるんだよね。人食い屋敷」「なにそれ」「いろんな手段で人間を中に誘い込む。誘い込まれた人間は二度と戻ってこない……そんな類の怪異が街に紛れ込んでるって」四季は目を丸くした。35 #4215tk

2016-05-17 20:20:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そんな噂聞いてて、よくここの中入ったね……!?」「入ろうって言ったのは四季だよ」彼女はそっけなく言った。少ししてからふっと笑みを漏らす。「ごめん、冗談。むしろ聞いてるからこそだよ。また見つけられるかもわからない相手だもの。チャンスは逃せない」36 #4215tk

2016-05-17 20:24:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そんな無茶な……けどさ」四季は怪訝な顔で部屋の中を観察する。「ここがその人食い屋敷だとすると、なんというか……おとなしすぎない?」「初めは油断させて、っていう手順なのかもよ。ああ、コーヒーとかお菓子とかには手をつけないでね。毒が入ってるかもしれないから」37 #4215tk

2016-05-17 20:28:03