Precious(前編)

りえぷぅ @riem124blue

426 横山「あ？」 親父「おまえはその２人から逃げたやんけ。どの口がそないなこと言うてるんや。ほんま笑えるわ！」 親父が下品に笑った。 それを言われたら……クソッ。 親父「あの２人はおまえと違ごーて、よー分かってんねん。俺から離れて、えぇ事なんかないってな。」

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427 親父「これっぽっちの借金返したくらいでデカイ顔すんなや？あんなクソみたいなアパート住んで、たったあれだけのちっさい会社やっとるぐらいで……おまえと俺と、女がどっちに付いてくか、考えんでもわかるやろ。おまえみたいなアホでもな。」 そしてまた病室に響く下品な笑い声。

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428 ほんま腹立つ……！ 親父「なんや、図星すぎて、反論できひんか？」 横山「……っ、」 親父「フンっ、おまえに心配されんかて、さっさと退院したるわ！早よ帰れ！おまえの顔見とったら血圧上がってしゃあないわ！」 横山「誰が心配しとるんじゃ！言われんでも帰ったるわ！」

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429 腸が煮えくり返るとは、このことや。 勢いよく病室出て、人通り少ない病院の裏口を出た。 ＊＊「お兄ちゃん！」 妹が追いかけてきて、俺の腕を掴んだ。 振り返ると、泣き腫らした顔。 頬に手を当て、涙が通ったであろう目尻を親指で少し撫でた。 横山「大丈夫か？」

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430 ＊＊「お兄ちゃんこそ……。」 横山「……おかんは？」 ＊＊「眩暈がひどくて……とりあえず休んでもらってる……。」 横山「そぉか……。」 妹の手が俺のスーツをギュッと握ってる。 横山「おまえ……あのウチ出ろ。」 ＊＊「えっ……？」

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431 横山「あんな親父のそばにおる必要なんかないやろ。行くとこあるやろ？おまえを好きやゆーてる男もおるやんけ。」 ＊＊「へっ？？」 横山「おかんは俺がなんとかするから。」 ＊＊「なに言うてるん、お兄ちゃん……。」 横山「なんならおまえかてお兄ちゃんが、」

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432 ＊＊「もぉ、お兄ちゃん！」 ちょっと怒った顔の妹。 ＊＊「あたしをいくつや思てんの！もし家を出るんやとしても、あたし１人でなんとするよ！これでも会社では役職持ちなんよ！もし……この前の弱音を気にしてるんやったら…それは、ごめんなさい……。」

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433 睨んでた目をフワッと伏せた。 ＊＊「そんな簡単に辞められへんよ……責任もあるし……なのに、あんなん言って……お兄ちゃんにはつい甘えてしまう……ごめんなさい……。」 横山「……や……俺はえぇねん……。」 ＊＊「お兄ちゃんは……責任感じすぎなんよ……。」

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434 横山「へ？」 ＊＊「あたし置いて家出たこと……今も責任感じてるんやろ？」 横山「それは……、」 そりゃ、感じてるよ……かなり……。 ＊＊「お兄ちゃんがあの時出てっても、出てかんでも、お父さんは変わらへんかったし、どのみちこぉなってたんよ。」

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435 まぁ、あの親父が変わるとは、到底考えられへん…。 ＊＊「お兄ちゃんはそのことに囚われたまんま……あたしは……それに甘えっぱなし……。でもあたし……っ、そのことでお兄ちゃんを縛るのはもう止める！だってあたしはそのことを根に持ったりはしてへんし……！」

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436 妹は俺の両腕をがっしり掴み、涙目ながらも、しっかりとした口調で言うた。 ＊＊「あたしもお母さんも、大丈夫やから！お兄ちゃんも普通に幸せなって！今までと変わらずお兄ちゃんのことは大好きやけど、あたしらのことより、もう自分の幸せ考えて！ね、お兄ちゃん……！」

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437 ブラコン卒業宣言……ってとこですか……。 そぉやなぁ…確かに……。 妹はもう立派な大人で…妹、妹、って構いすぎとるんは、俺の自己満ってゆーか……どこかで「俺がおらなあかん」って勝手に思ってたんかもしれん。 早よ大倉と……なんて……ほんまは思ってへんかったんかな…。

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438 ちょっとした喪失感で呆然としてたら、妹が思いっきり抱きついてきた。 ＊＊「あたしも……自分の気持ちに正直になる……。だから、お兄ちゃんも……。」 無意識に…静かに…涙が零れた。 寂しいけど、どこかカラダがラクになった感覚やった……。