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【ヨジ・ハマミツの手記】

SUMIYU=サン(@SUMIYU1987)のテキストカラテ イクストリーム・フライト・イン・ネオサイタマはこちら 前半 http://togetter.com/li/946982 続きを読む
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SUMIYU @SUMIYU1987

「そうですねえ、ご家族との関係もぐっとよくなったようだし、それはわたしも悦んでいるのですけれど…でも…」 彼女は視線をせわしなく動かす。 「でも…?」 「でも、この世界での話でしょう?」 「えっ」 #smytxt

2016-06-14 18:40:27
SUMIYU @SUMIYU1987

「この世界。あなたが見ている世界、嘘なんですのよ」 彼女はじっと私を見て言う。 私の顔は曇った。何を言い出すのだろう、悪い冗談か冗談にしてはつまらない。 返す言葉も見つからず、眉間にシワをよせる私を見て彼女ははっとしたように笑顔をつくる。 #smytxt

2016-06-14 18:44:37
SUMIYU @SUMIYU1987

「ごめんなさいね! でも、どこからお話しするか難しいんですけど、わたしの言ったことは本当なんです。このままではあなたがかわいそうでね」 「はあ」 「あなた、世界の成り立ちについてお勉強したことあります?」 「成り立ち? あの、ビッグバンとか、生命進化の…」 #smytxt

2016-06-14 18:48:48
SUMIYU @SUMIYU1987

なんと彼女はプッと吹き出した! 「アハハ、ごめんなさい! そうよね、でもそれは学校で習っただけでしょう? それもみんな造られたものなのよ」 「造られた…」 話が全くわからず、相槌を打つしかない。 「そう、わたしたちを支配して利用しようとする者たちにね。全部嘘」 #smytxt

2016-06-14 18:52:23
SUMIYU @SUMIYU1987

その後彼女の語ったことの概要はこうだ。 現在のメガコーポや政治、宗教はすべて互いに密に結託した巨大な悪の組織であり、民衆にかりそめの幸福を提供して飼い慣らしている。そのヴィジョンに甘んじる限り人間本来の幸福は得られない。わたしは本当の世界の姿を知っている。#smytxt

2016-06-14 18:57:10
SUMIYU @SUMIYU1987

「そ、それはもしかしてニンジャが裏で支配しているとかいう陰謀論ですかねえ」 私は自分でも何を言っているかわからなかったが、早く会話を終わらせたかった。正直怖かったのだ。 「アハハ!そんな、ニンジャなんて、カトゥーンじゃないんだから!」 「あはは……」 #smytxt

2016-06-14 19:02:07
SUMIYU @SUMIYU1987

彼女はすっと穏やかな表情に戻り、私にほほえみかけた。 「なんだかごめんなさいね、唐突に。でも、大切なことなんです」 そういうと彼女は上着のポケットからすっとポストカードのようなものを出し、私に差し出した。#smytxt

2016-06-14 19:05:12
SUMIYU @SUMIYU1987

「わたしはね、ご存じの通り、今の日々を豊かに暮らすヒントを教えるだけ。でも、もっと良いこと、すべての解決法を教えてくれる人がいます。よかったらここにいらっしゃい。ぜひ奥さんと娘さんも連れていらしてね」 そう言ってコガネ=ゴゼンは人懐っこい笑顔を向けた。 #smytxt

2016-06-14 19:07:26
SUMIYU @SUMIYU1987

クリーム色の和紙に金箔で縁取りされたカードには、立派な古式建築の建物の写真。屋根には金色の太陽の飾りだ。 こうあった。 「グレート・アカルヒカリ・ジンジャ へようこそ」 #smytxt

2016-06-14 19:10:49
SUMIYU @SUMIYU1987

【ヨジ・ハマミツの手記】 つづく #すみゆ忍 #smytxt

2016-06-14 19:11:52
SUMIYU @SUMIYU1987

【ヨジ・ハマミツの手記】 つづき #smytxt #すみゆ忍

2016-06-15 22:47:57
SUMIYU @SUMIYU1987

(これまでのあらすじ:怪しい副業に手を出ししっぱいした平凡なサラリマン、ヨジ・ハマミツは不思議な女性カウンセラー、コガネ=ゴゼンの助けで妻子との幸福な生活をとりもどしつつあった。だが、コガネ=ゴゼンはこの世界は嘘だ、陰謀だ、という。一体...) #smytxt

2016-06-15 22:52:10
SUMIYU @SUMIYU1987

老若男女。人々の、歓声、笑顔、絶叫、笑顔、笑顔。 手に手に緑葉も真新しい枝を持ち、振る。群衆の視線の先には、光があった。人々の希望、救いの光明だ。 光り輝く純白のミコ・ローブに身を包んだ美女が、人波をかきわけてゆっくりと歩を進める。 #smytxt

2016-06-15 22:58:16
SUMIYU @SUMIYU1987

一種異様な、完璧な美しさのミコ・プリーステスだが、笑顔は柔和であった。人々の手を取り、語りかける。感激のあまり落涙する老女、ひれ伏しておがむ青年、失神する者もいた。恐るべき熱狂だ。ミコ・プリーステスは歓声に揉まれながらジンジャ・カテドラルの奥の別塔へと消えた。 #smytxt

2016-06-15 23:04:27
SUMIYU @SUMIYU1987

ヨジはその様子を呆然と見つめ、ミコを見送った。別塔には信者は立ち入れず、ただミコと、許された者たち...。そう、救いに到達した者たちだけが入室を許される。救われ、この虚構の世界の枷を打ち払った者たち。 ミコが去ると信者たちは口々に感謝を述べながら散ってゆく。 #smytxt

2016-06-15 23:08:21
SUMIYU @SUMIYU1987

人々は力と希望を得て、幸福を充電しまた日常生活に戻るのだ。救いを目指して。 ヨジはグレート・アカルヒカリ・ジンジャの境内をゆっくりと歩きながら、今日の説法に思いをめぐらした。「真の世界、か...」くすんだ夕日が貼り落とす建物の影を踏みしめながらつぶやく。 #smytxt

2016-06-15 23:13:33
SUMIYU @SUMIYU1987

コガネ=ゴゼンに手渡されたカード。アカルヒカリ・ジンジャ。ヨジはもともと信心深い方ではなくブッダへ祈りをささげることもほとんどなかったが、コガネ=ゴゼンへの礼の意味もあり、一度だけでも説法を聞いてみる気になったのだ。ジンジャはネオショーナンの山奥にあった。 #smytxt

2016-06-15 23:18:13
SUMIYU @SUMIYU1987

ヨジは、てっきり偉ぶった老人がたいそうな説教をするのだろうと思っていたが、肩透かしを食った格好になった。昔ながらのジンジャの中庭で、笑顔を絶やさぬ若いミコによる穏やかな話があった。彼女は鳥の歌うような美しい声の持ち主だったが、説法の内容は鋭かった。 #smytxt

2016-06-15 23:25:01
SUMIYU @SUMIYU1987

ミコによると、ヨジを含めた皆が暮らすこの世界、見える世界は虚構なのだという。本来の人間の暮らしは牧歌的で豊かであり、つつましくも幸せなものだった。緑があり、正しい神がおり、善い信仰と感謝があった。 #smytxt

2016-06-15 23:28:18
SUMIYU @SUMIYU1987

しかし民衆をコントロールし搾取しようとする支配者が現れ、神を殺し、自然を破壊し、都合よくシステムを作り替えた。おとぎ話のニンジャ伝説などはその真実に基づくという。嘘で塗り固めた歴史を作りだし、旧来の善いものをすべて覆い隠した。 #smytxt

2016-06-15 23:32:08
SUMIYU @SUMIYU1987

メガコーポ、政治、宗教は結託して真実を葬り去ったのだ。しかし、とミコは熱を込める。救いへの道は閉ざされていない! とうに滅ぼされたと思われた聖なる神器が、存在するのだ。それは真の世界への扉を開くものであり、虚構を暴くものだ。#smytxt

2016-06-15 23:36:54
SUMIYU @SUMIYU1987

ヨジはその夜、フートンに入ったまま暗い天井をずっと見つめていた。 (まさか、そんなことが...)(いや、もう一度話を聞こう。聞いて、確かめてみよう。) 一睡もできぬまま朝を迎え、難しい顔をしたまま家を出ると、仕事を休み電車に乗り込んだ。ネオショーナンへ。 #smytxt

2016-06-15 23:41:44
SUMIYU @SUMIYU1987

びっしりと吸盤の並んだどす黒い触手が流れるように蠢き首のわきにたたみ込まれてゆく。かわりにぐちゃぐちゃと不格好な肉塊が姿を現し、溶けながら、人間の顔に展開していった。黒い髪がするすると伸び、ぽっかとり空いた眼窩の奥からじゅるじゅると音を立てながら眼球が這い出てくる。#smytxt

2016-06-15 23:51:06
SUMIYU @SUMIYU1987

その"もの"が完璧な肉体と美貌を持った女の形をとると、ショージ戸が音もなく開かれ、薄暗い室内に別の女が入り、跪いた。 「お着物を」 両手に黄金のバングルをはめた女はミコ・ローブと袴を取り出し、裸であった"それ"に着せてゆく。 「今朝はまた冷えますね」 「ハイ」 #smytxt

2016-06-15 23:57:39
SUMIYU @SUMIYU1987

その"もの"が完璧な肉体と美貌を持った女の形をとると、ショージ戸が音もなく開かれ、薄暗い室内に別の女が入り、跪いた。 「お着物を」 両手に黄金のバングルをはめた女はミコ・ローブと袴を取り出し、裸であった"それ"に着せてゆく。 「今朝はまた冷えますね」 「ハイ」 #smytxt

2016-06-15 23:57:39