ここに人はいない。
@nezikure 27.窓からアパートに帰宅し 腰からハーネスを外し、足先から装備とテープを外していく。 じわじわと上がってきた気温が薄着を求めても、ポーチの中身が不安材料で在り続ける限り絶対に露出は増やせない。
2016-06-20 23:00:49@nezikure 28.10分ほどかけて着替えを終えてから 今度は薄手のゴム手袋を嵌めて、ポーチの中身を改めていく。 ジップロックの中身は、そう多くない数の…潰れた蚊の死体だ。
2016-06-20 23:02:56@nezikure 29.それを、コピー用紙の上に一匹づつ並べて 苦心して足を伸ばし、ホームセンターから拝借してきた顕微鏡で順番に改めていく。
2016-06-20 23:05:20@nezikure 31.蚊の生態には諸説あるのだと、かき集めた電子書籍の中で知ることが出来た。 種類や個体によってその移動範囲も定かでなく 国内で見つかる種類ですらわかっていない事が少なくない。 それでも、今年最初に見つけた恐怖の夜からこちら 一匹も、一度も蚊の中には『いない』
2016-06-20 23:10:04@nezikure 32.安全、なのだろうか 安全なのではないかと、踊り上がりそうになりながら それでも、まだ確証を持てずに居る。 これから夏がくるというのに、だ。
2016-06-20 23:11:31@nezikure 33.手製のカレンダーに『発見なし』の印を付けつつ 他の日課をこなして行く事にする。 異常な状況も、一年続けばルーチンワークに変わるのだ
2016-06-20 23:13:24@nezikure 34.ハンスの纏めた『ケイン・レポート』と同じ姿の病原を、自分の目で確認したことは実は無い。 あの、血液の中で這いまわる微細で異様な線虫の様な存在が 気づかない内に自分の身体の中で蠢いているのではないかと、夢に見て飛び起きたことは一度や二度では無かったけれど
2016-06-20 23:17:34@nezikure 35.或いは、外のあれらの中を改めれば確認できるのかもしれないけれど ゲームや映画じゃあるまいしそんなリスクを犯す気には、到底…
2016-06-20 23:19:45@nezikure 36.それでも、アレらの燃えカスを改める機会は何度もあった。 表面はミイラの様に乾いていても、芯の部分は以外なほど瑞々しいのはアレらの働きだろう。 室内に閉じ込められた個体が、外の個体よりも比較的動きが素早いのも身を持って知っている。
2016-06-20 23:21:42@nezikure 37.物資を探してとあるアパートに侵入した時の事だ。 電柱を伝い、窓から入った部屋の中で あれらに変わっていない男女四人の死体が転がっていて 侵入した事を後悔させる様な異臭が漂っていた。
2016-06-20 23:24:42@nezikure 38.部屋の中は形の残ってるものが殆ど無い程徹底的に破壊しつくされていて 男の一人は水道の蛇口に縋り付いて枯死していた。 多分、その男が最後まで生きていたのだと思う。
2016-06-20 23:27:02@nezikure 39.ベッドの上の女だけが、人らしい姿で眠るように腐っていた。 目張りされた窓からは虫も入れなかったのか、蛆やハエの類は見られない ただただ醜く変色して、汚臭と汚液をシーツに吸わせていた。
2016-06-20 23:29:36@nezikure 40.正直その女から漂っていた異臭を嗅いだ時点で撤収を考えてはいた。 それでもその日は雨で、改良前の空中経路の移動はそれなりに労力がかかり 腰を下ろせる場所で休みたかった。 だから安全確認をするために、部屋内を改める羽目になったのだ 万が一あれらがいたら、と
2016-06-20 23:32:52@nezikure 41.最初に見つけた死体は『混ざって』いた。 確認するまでは『二人分の死体』だと気づかなかった程に『混ざって』いた。 『足りない部品』があり、『重複している部品と骨』があり 明らかに『男女の性差』が見て取れて、はじめてそう気づく有様だった。
2016-06-20 23:35:07@nezikure 42.「くったのか…」と言った様な気がする。 その時点ではわからなかったが、頭蓋骨が割れていて、殺してそうした痕跡があった。 ただ、その作業はとても稚拙でしかも彼らは『発電手段』を持っていない。 それでキッチンを覗いて、水道にすがりつく男を見つけた。
2016-06-20 23:38:16@nezikure 43.哀れみは沸かなかった。男も腐っていて異臭はしたが それよりも悍ましいのは、その背後で開いたままの冷蔵庫だ。 黒い、大きな 単身者用ではなく、一家族の生活を賄える冷蔵庫。 その中で
2016-06-20 23:41:35@nezikure 45.もうさけんだりしなかった。 ただ、ただ近づいて蓋を閉め 水道の前の男の死体を蹴り砕いた。 哀れみなど、湧くものかよ
2016-06-20 23:43:54@nezikure 47.安全を確保してから比較的臭いのマシな本棚のある… おそらく男性の部屋を見つけ、倒れていた椅子を起こしてようやく休憩を取れた。 異常な死体が4つも転がる部屋で『マシな環境』を探して休憩するのだから 相当にイカれているとは思ったが、それでも疲れには勝てない。
2016-06-20 23:48:08@nezikure 48.瞑目し、この部屋の住人に何が起こったのか おぼろげにでも理解してしまったせいで、身体よりも頭が痺れた様に疲れが染み出す。 おそらく自分と選択が少し違ったのだ、この部屋の人達は。
2016-06-20 23:51:01@nezikure 49.実際、行動範囲を広げてから『殺しあった形跡』は無数に見ている。 感染していたのかそうで無かったのか、明らかに人為的な原因で命を喪った様な死体や コンビニや商店の物資を奪い合った形跡 件の壊滅した避難所の周囲などはあれらの姿よりもその形跡がおぞましい程に
2016-06-20 23:53:13@nezikure 50.そんな中で『何が起こったのか』が察せられるこの部屋の中は もしかしたら『地獄の中では少しだけマシ』なのかもしれない。 あのアパートから1kmも離れていないここは、あまりにも先の無い籠城場所で…
2016-06-20 23:55:00