【HYDE】Reunion -再会-

その想いは、運命は、彼女が望んだもの。 もう一度、貴方に逢えたら。
0
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ぐっ......っ!!」。身体が言うことを聞かない。全身を駆け巡る痛みは思考回路を断ち切り、意識さえ飲み込まんとする。息も絶え絶えに、立つのもやっとのハイドを目の前にして尚。《.....お前の力は》。白く煌めく祖龍は、出会った時のまま。《その程度か》。傷一つ、見つからない。19

2016-07-06 23:53:39
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「っ...!」。胸が苦しい。呼吸する事もままならない。ハイドを襲うダメージと疲労感は、徐々に彼女の視界をも奪う。「待ってくれ...!私は、わたし...は、...」。ぷつり、と。糸が切れるように言葉は途切れ、ハイドの体は地に伏した。支える力を失った双剣が、カツンと音を立てた 。20

2016-07-06 23:58:46
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《...主達の力が加われば、確実に我に届いたろうに》。静寂が訪れた地に、祖龍の声が響く。いや、正確には"対象へ声を届けた"と言うのが正解かもしれない。《...見守っていてくれ、と》。地に落ちた双剣、その内の青白く輝く短剣から、声と共に"古龍"が姿を現した。《彼女の、願いだ》。21

2016-07-07 00:09:07
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《...久しいな、クシャルダオラ。...そして、お主も》。祖龍の視線が、紅の短剣へと移る。刹那、眩い紅蓮の炎の中に、もう一つの魂の鼓動。《...炎王龍よ》。魂を具現させ、ハイドを護るかのように鎮座する同胞とも呼べる存在達を、祖龍は懐かしむように見つめる。殺意は、消えていた。22

2016-07-07 00:24:09
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《...私達を、知っているのですか》。クシャルダオラは、伝説上でしかその存在を見受けた事がなかった"祖なる者"へ、静かに尋ねた。そして同時に、先ほどの質問が愚問である事は甚だ自覚していた。古龍の祖と謳われし存在であるという事は、当然、自分達を知っているはずだ、と。23

2016-07-07 00:46:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《...無論。我は祖であり、全てを見、悟る。運命を導き、時に正し、時に...歪める》。ミラルーツが紡ぐ言葉は、どことなく切なさを感じさせた。悠久とも呼べる時の中、彼は様々なものを見、聞き、生きてきたのだ。何度生を見、何度死を見ても。決して開くことのない、永遠という監獄の中で。24

2016-07-07 00:55:08
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《...あぁ、この者は》。不意に、祖龍の紅い眼が閉じられた。シュレイド城に、再び静寂が訪れた。《ーーー、》。同時に、二つの魂の脳内に、閃光が走る。違和感や痛みは一切感じず。どこか、暖かさを覚えるようで。《......彼女の運命は、こんなにも残酷で...哀しきものだったのか》。25

2016-07-07 01:06:02
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《......記憶の、共有》。炎王龍の心と、風翔龍の心。そして、双方の記憶。それは、時と共に刻んでいた。ハイドの記憶を、運命を。彼女が見てきたもの、彼女が背負うもの、彼女の抱く痛みをーーー全て、全て。《.........無自覚にも我を呼んだお主の心は、こんなにも歪で、脆い》。26

2016-07-07 01:17:02
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

だが、と。祖龍は続けた。《...この者が心壊さずに居られたのは、ひとえに主達のお陰とも言えよう》。彼女の記憶の中、共に運命を歩んできた相棒達の存在は本当に大きいもので。《...先の我へ向けた剣の切っ先、並大抵の覚悟ではなかった》。己へ双剣を向けた、ハイドの小さき姿を思い出す。27

2016-07-07 01:27:06
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《......彼女は、お主達が消える事は望んではいない》。祖龍の言葉の意は。すぐに、相棒達は理解した。"運命を歪める"ということは、時に"存在するものをも消す事"もある。それは、彼女の剣を握る理由を"歪める"事で執行される、非現実な結末。ただ、その歪曲を彼女の本心は望まない。28

2016-07-07 01:42:38
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

たとえ傷を負い続けても、相棒達と共に生きたい。そして何より、己を断罪するために。そう、"死するため"に、自らを生かしていた自分の愚かさ。それを、気付かせてくれた者に。《......会いたい。それが、彼女の意思の叫び。我を望んだ、心の涙》。ハイドの指、小さく光る指輪が宙に舞う。29

2016-07-07 01:46:48
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《....汝の願い、聞き入れた》。轟音。祖龍の遠く響く咆哮が、暗く澱んだ空から稲妻を呼ぶ。刹那、眩く光る一筋の赤い雷が指輪を貫いた。光の中、指輪が少しずつその姿を変えていく。少し、また少しと。確実に"人"の姿に変わっていく。《目覚めよ。其方の死の運命は今、亡きものとなった》。30

2016-07-07 01:52:14
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

光の粒子が散り、そこには一人の人物の姿。金獅子の装備に身を包んだその者は、ゆっくりとその瞳を、開く。「......ここは、」。《......人の子よ》。頭上から声が振る。"彼"は声の主を探して、空を見上げた。そこには、晴天が広がっている。《我の気紛れは、もうないやもしれん》。31

2016-07-07 01:55:20
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《その娘の想いが、お前の死の運命を殺した》。彼女に、感謝する事だーーー。声が、遠ざかる。その姿を捉える事は、出来なかった。己の手を見やる。そこには、"生きていた頃"と変わらない、自分の手があった。「......」。生きている。あの時、確かに俺は死んだ。その運命が、歪んだのか。32

2016-07-07 02:01:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《...久しぶり、だな》。ふと、声がする。聞いた事は無いはずなのに、どこか懐かしい。振り返ると、そこには。「...クシャルダオラ、」。風翔龍が、鎮座していた。その隣には炎王龍の姿もある。そして。「...っ!」。弾かれるように、彼らに護られるようにして横たわる人影に走り寄った。33

2016-07-07 02:09:35
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「......ハイド...」。素顔の彼女を、久しぶりに見た。肌は雪のように白い。陽の光を浴びて銀色に光る髪を、風が撫でる。少し視線を遠くへ移すと、いつも身につけている仮面が転がっていた。《...運命を歪める為に、ハイドはその覚悟を示したのだ》。炎王龍の言葉が、彼の胸に刺さる。34

2016-07-07 02:14:39
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

所々に見受けられる傷跡が、その情景を物語るようで。「......こんなに、」。ハイドの体を抱き起こし、小さく唇を噛む。《...大丈夫だ。命に別状はない。ただ意識を失っているだけだ》。クシャルダオラの声は、静かだった。その言葉に安堵しつつ、彼はハイドを抱えて立ち上がる。35

2016-07-07 02:19:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...クシャルダオラ、テオ・テスカトル」。シュレイド城を吹き抜ける風を受け、彼の銀色の髪もまた、煌めく。未だ現世に具現する古龍達へ、彼は言葉を紡いだ。「あの時は、たくさん迷惑を《...さぁ、覚えていないな。もっとも、ハイドも同じ事を言うだろうさ》。36

2016-07-07 02:22:22
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

言い終わる頃には、古龍達の魂はあるべき場所へと帰っていて。主人の帰還した双剣は、ゆっくりと持ち主の背に戻って来る。「......ああ」。ハイドを抱く青年は、小さく微笑む。あの頃の"死を求める"自分の愚かさに気付けた、"今の自分"として。彼女に今一度会えた事を、確かめるように。37

2016-07-07 02:30:33
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ーーーありがとう」。38

2016-07-07 02:31:10
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

目を覚ますと、見慣れた天井があった。ゆっくりと体を起こす。夢、だったのだろうか。余りにも現実離れした出来事だったため、夢の中の物語だったとさえ思えた。《......無茶をしたな、ハイド》。頭の中に聞き慣れた声が響いた。その声に安堵感を覚え、彼女の表情が綻ぶ。「...クシャ」。40

2016-07-07 02:38:05
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ハイドさん!」。続けて、部屋の入り口から一際大きな声が。たたたっと走り寄ってくる少女は、弾けんばかりの笑顔でハイドを見やる。「良かった!目が覚めたんだね」。今にも飛び跳ねそうなセーレの頭を撫でながら、ハイドもつられて笑った。「...迷惑、かけたな」。41

2016-07-07 02:41:08
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ただでさえ、自分が突然居なくなった事で心配をかけたはず。暖かく受け入れてくれるセーレが、心地よかった。ふと、ある疑問が頭をよぎる。「...そう言えば、私はいつの間にここに...」。ハイドの質問に、セーレは「あ、それはね」とすぐに返答した。「あ!ちょうど来たよ!」。足音がする。42

2016-07-07 02:54:50
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「あの人がね、連れて帰ってきてくれたんだよ」。セーレの視線の先、そこには。あの日"失ったはずの未来"があった。望み求め、恋い焦がれた。「......遅いぞ」。主を失っていた金の鉄槌は"彼女の指"を離れ、再び真の持ち主の元に帰っていた。「...ごめん。...ただいま、ハイド」。43

2016-07-07 03:00:59