【仇怨の炎、神風に煌めく】前日譚

栄光の下には忌まわしい影が付き纏う
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ふーん♪ふふーん♪」清霜はご機嫌に、雪花の執務室を掃除していた。手に1本、得意のキネシスで更に2本の箒を巧みに操り、鼻歌を歌いながら埃という埃を殲滅していく。彼女の通った後には僅かなゴミも残らない

2016-07-08 00:04:28
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「たーったひとーつの〜♪ほしくーずーのレター♪」お気に入りの歌を口ずさみ、掃除は最終局面に入る。たった今「甲板掃除槍」と名付けた箒を槍の如く振り回し、部屋の中央に集めたゴミに狙いを定める。 「いざ!総力突貫!ずどーん!」

2016-07-08 00:05:25
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

執務室から鈍い音が響く。せっかく集めた埃は霧散し、清霜はけほけほと咳を立てる 「失敗しちゃった。てへ」瑠奈花の机は引き出しが吹き飛び、中身が飛び出てしまっていた。怒られる前に片付けなきゃ、と散らばった小物を片っ端から片付けていく中、清霜は一枚の写真を拾い上げた

2016-07-08 00:06:13
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「写真…結構昔のみたい」写真には心なしか若く見える瑠奈花と、他数人の艦娘が写っている。だがその中に清霜の知る人物はいなかった 「この人誰だろ?」清霜は瑠奈花と親しそうに腕を組み、頭を肩に預けている女性が気になった。この人、どう考えても友達とかそういうレベルの人には見えない

2016-07-08 00:07:35
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「しれーかんには吹雪さんという人がいるのに、この人…!」清霜は写真の女性を睨む。この女性は1体何者なのか。こうなっては清霜の好奇心は止まらない。清霜は舞い散る埃を放ったらかしにして、瑠奈花を探し始めた

2016-07-08 00:09:02
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「彼女は“吹雪”だよ」「えっ」 写真を見せつけて尋ねた清霜に対する答えは、彼女をますます混乱させた。 「この人は吹雪さんで…でも吹雪さんは…んん?」「ああ、そうか」 瑠奈花は訓練中の艦娘達に「休憩」とハンドサインを送った。「君にはまだ話してなかったな。“吹雪”の話」

2016-07-08 00:10:20
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

聞けば、この女性は瑠奈花が兵士時代に出会った艦娘であり、彼女もまた吹雪という名前だったという 「てことは、昔のお知り合いさんですか?」「まあ…そうだな。せっかくだから清霜にも話しておこう」 瑠奈花は場所を執務室へと移し、清霜に昔話を聞かせた

2016-07-08 00:11:20
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

時は第一次深海大戦の最中、それは「艦娘」と呼ばれる兵士が初めて組織され、世を乱す装甲空母姫と争っていた時代である。ある事情から艦娘に遺恨を持っていた瑠奈花は、志を同じくする幼馴染み、シュン・タクト・ユイと共に艦娘への復讐計画を立てていた

2016-07-08 00:12:59
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

海軍の施設を襲撃し、爆破する。彼らの計画は派手で、実に過激なものだった。遺恨は抱きつつも過激な思想を持たない瑠奈花は彼らの元を離れ、横須賀へと向かった。彼はその目で艦娘の本質を見極めるため、整備員を偽って海軍に潜入したのだった。

2016-07-08 00:14:42
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

瑠奈花はそこで、真の敵は深海棲艦であることを改めて認識した。だが、彼には今更艦娘を信じることもできなくなっていたのである。整備の傍ら、艦娘の艤装の装着、使用方法を身につけていた瑠奈花は、いつしか密かに海へ出て、艦娘に頼らず自ら深海棲艦を倒すようになっていた

2016-07-08 00:15:26
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

幸いにも、瑠奈花にはどの艤装よりも強力な武器「ライトセイバー」と、拙いながらもそれを使いこなす勘を持ち合わせていた。組織が発足したばかりで管理が甘かった当時は、艦娘が出撃した後に母艦を抜け出し、日没までに帰ってくれば瑠奈花の行動が露見することはなかった

2016-07-08 00:16:36
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

そんな生活が数ヶ月続き、孤独な戦いに瑠奈花の精神も疲弊していた頃、ついに瑠奈花は見つかり、不審人物として拘束され、艦娘組織の創設者の元へと連れていかれた 「創設者?それって…」「門川龍興殿だ。彼こそが艦娘という組織を作り上げ、深海棲艦に対抗する体制を整えた功労者だ」

2016-07-08 00:18:17
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

門川龍興とは酔狂な人物であった。彼は瑠奈花のことを特に問い詰めることもなく、戦力になるという理由で自分の元に置いたのだった。その時、パートナーとして門川が瑠奈花に付けさせたのが、“吹雪”だった

2016-07-08 00:19:55
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「じゃあその“吹雪”さんとはその頃からの付き合いなのね」「そういうことだな。結論から言ってしまえば、かなり親密な仲になった」「ね、その話もっと聞かせて!2人はその後どうなったの?」 清霜は子供のようにせがんだ。瑠奈花はその後夜になるまで“吹雪”との様々な冒険の話を聞かせたのだった

2016-07-08 00:20:38
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「…そこで、私と“吹雪”は深海軍の秘密の地上攻撃プランを盗むことができた。それが、第二次深海大戦を戦う上で、私の標となったのだ」 瑠奈花の話は佳境へ迫っていた。「司令官、その先は…」隣で一緒に話を聞いていた吹雪が遠慮がちに呟いた。瑠奈花は手で吹雪の言葉を抑えた

2016-07-08 00:22:36
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「この先も話しておこう。プランを盗んだ後、私と“吹雪”は深海軍の基地を脱出することになる。その道中、“吹雪”は負傷してしまった」「負傷…?」 それまでとは一転、瑠奈花の口調は低くなった。清霜も静かに話に聞き入った

2016-07-08 00:24:43
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

そこは敵の本拠地。更に仲間もいない。手負いの吹雪を連れての脱出は困難を極めた。その時、“吹雪”はプランを瑠奈花に託し、殿を申し出たのだった 「お願い、行って」「何を言う!その傷では!」「そう、この傷ではどうせ、先は短い。ならば私の命、あなたを守るために使うわ」

2016-07-08 00:25:46
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「君を置いて行けるものか!」「置いていくのよ!そのプランは人類の命運を左右する物!命と引き換えにでも守り抜き、持ち帰らねばならないの!」 結局、瑠奈花は“吹雪”の意志を汲み、彼女を置いて脱出した。その後“吹雪”の消息は完全に途絶えてしまった

2016-07-08 00:27:59
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「じゃあ、“吹雪”さんはそこで…」「死んだろうな。彼女は最後まで凄絶に戦い、私という希望を繋いだ。誰に知られることなくとも、第二次深海大戦終結の一番の功績者は“吹雪”に違いない」瑠奈花は写真を感慨深げに見つめた

2016-07-08 00:31:40
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「さあ、話はここまでだ。もう遅いから寝なさい」「はーい」「吹雪もお疲れ様。残った業務は明日片付けよう」「はい。先に寝室に行ってますね」 清霜と吹雪を見送った後、瑠奈花はもう一度写真を見た。彼の視線は手前でピースしながら笑顔を見せる、赤紫の髪の少女に向けられていた

2016-07-08 00:32:37
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その少女は“吹雪”と親しく、彼女を慕っていた艦娘である。彼女もまた、かつて瑠奈花と共に戦った戦友でもあった。聞いた話によれば、瑠奈花が一時期海軍を去った後、音信不通になったという。その後の消息は、今も不明のままである

2016-07-08 00:33:30
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「彼女はどうしたのだろうか…」 開け放った窓から、季節に合わない冷たい風が流れ込む。瑠奈花はしばし外を見つめると、そっと窓を閉じた。その胸に、この先起こる騒乱の予感を宿しながら。

2016-07-08 00:34:11
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

【仇怨の炎、神風に煌めく】前日譚終わり

2016-07-08 00:34:35