今年はパピルスにヒエログリフで書いたレポートが…芸大ならではのユニーク提出物について教授に聞いた

毎年届く、珍奇な手紙の数々
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Twitterに投稿された一枚の画像に写るのは、パピルス※1にヒエログリフ※2で書かれた手紙。「古代遺跡からの出土品か?」と思われるかもしれないが、実はこれ、現役の芸大生が授業のレポート課題として自ら制作したものである。

※1 パピルス草からつくられた紙の一種。古代エジプトでは各種の文書作成に使用された。
※2 古代エジプトで使われた象形文字。エジプトの遺跡に多く記されている。

何がどうしてこうなった

この手紙の画像を投稿したのは、京都市立芸術大学美術学部の教授である田島達也(@tajimaxG)さん。田島教授は同大学で「日本絵画史特論」の講義において「画家の手紙・日記を読む」というテーマの授業を毎年行っており、そのレポートとして「手紙を書く」という課題を出しているそう。

画像の手紙は、授業を受けた学生の大西由羽さんが提出したものだ。

田島さんがツイートしたように、この授業のレポート課題では「芸大らしく意表をつく形式の手紙」がたくさん届くそう。

2023年のツイートでも言及された、木簡に万葉仮名で書かれた手紙。中辻真尋さん作
万葉仮名、こちらもなかなかに読めない

一体どんな授業を行ったらこんな手の込んだ手紙が届くのか、田島さんに話を聞いた。

「人と違ったことをしてやろう」という芸大生の飽くなき探究心

「画家の手紙・日記を読む」の授業はどのような内容ですか?

私の専門は日本絵画史なので、江戸時代から昭和までの画家の手紙や日記を提示し、それを私が解説する授業です。

たとえば与謝蕪村※1の手紙では、お金に困って少しでも絵を高く売ろうとしている様子、本学の先輩でもある土田麦僊※2の手紙では、自身の売れたい思いや売れている画家へのやっかみなど、手紙に書かれた本人の言葉を通じてありありと伝わってきます。

受講対象は修士課程の大学院生ですから、ある程度高度なことをと思い、実物の資料にチャレンジしてもらっています。江戸時代の言葉遣いもそのままで読んだり、くずし字をそのまま出したりもします。

※1 江戸中期の俳人・画家。
※2 大正~昭和期の日本画家。

課題レポートを手紙で提出することにしたのはなぜですか?

今回ツイートした学期末レポートは、「授業の中でたくさん読んだ過去の画家たちの魂の叫びに触れて、同じ芸術に取り組む君たちも感じるところがあるだろうから、それを表現してほしい」という気持ちで課してます。

それと、芸術家の卵である今の学生の言葉を収集しておくことで、未来の美術研究者の資料になるだろうという気持ちもありました。授業の感想を聞くアンケートでは、歴史上の画家の悩みが今の自分の悩みと近いものがあって共感したという声が多いです。

この課題はいつごろから始めたのでしょうか?

もともとは、絵画理論の文献を読む授業だったのですが、少しずつ内容が変わり、手紙が中心になったのは2017年頃だと思います。そこからはレポートを「手紙形式で」としたように思います。

初めのうちは、オリジナルの絵を描いた絵はがきなどはありましたが、基本的にほぼ紙でした。それが2020年に陶器の皿が来てしまいました。

2020年、届いてしまった皿の手紙。宇野湧(@uoy_onu)さん作
中心かららせん状に感想をびっしりと書き込んだあと、焼いたことが分かる

レポートというものは公開するものではない、というか、公開すべきではないものなのですが、これを私一人で見て終わりというのは逆にこの手紙に申し訳ないと思い、我慢できずに2020年から公開し始めました。 

変わった形の手紙での課題提出は、学生側から自然発生的に始まったのでしょうか。

そうですね。変わったものが来ると私が面白がって紹介するので、それを見た学生たちによってエスカレートしてきた感じです。「何か人と違ったことをしてやろう」という芸大生の飽くなき探究心には、いつも感心します。

レポート提出用にかわいいポストと、規格外のものに備えた段ボールを設置

「変わった形の手紙」でレポート提出をされる学生は全体の何%くらいでしょうか?

例年の受講生は20〜30名。どこまでを「変わった形」とするかは難しいのですが、体感では50%くらいです。年々溜まっていく手紙の保管が課題ですが、そのうち展覧会をしたり、本学の博物館である芸術資料館に伝えたりしていけたらと思っています。

筆者もたわむれにヒエログリフ手紙の解読を試みたが、一行目の「TAJIMASENSEIE」を翻訳したところで力尽きてしまった。ただ、内容が読める作り込みには感動を覚えた。

芸大生の探求心はどこまで行ってしまうのだろう…と思うと同時に、さらなる突飛な手紙の登場に期待したい。

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