- hukurou_nayuta
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フールウィルムとゴシップミルはどうやらウマがあい、夜になるまで各地を駆け回り遊んでいた。会話は出来ていないものの、両者とも楽しそうだった。ヨカッタネ!「アー、もうこんな時間だぜ、どうする?」「GRR…!」「だよな、まだ遊び足りん!」ゾンビードラゴンと召喚士はまだまだ元気。1
2016-07-20 22:04:07だが知らない。彼らはこの街の夜にそぞろ歩く恐怖の軍団を。そして今はまさに、彼らの時間であることを。「アレェ。急に人気なくなってきたな?」「……?」気がつくのが遅かった。「人気がないっつうよりこれ、人々の元気なくないか…?」そうだ。周囲の者はみな一様にうなだれ、力なく立ち尽くす。2
2016-07-20 22:07:13様子がおかしい。なにかがおかしい。誰も、異変に気付かない。誰一人として、声を上げない!「…マズイぜ。よい子は寝る時間じゃあないかよ」「GRRRR…!」ゴシップミルは頭を掻き、油断なく魔方陣を描いた。フールウィルムは不快そうに唸る。「イヤーッ!」カラテシャウト。現れる小柄な影!3
2016-07-20 22:09:41二人はそれを知っている。「ロトンテイル=サン!?」「GRr…!?」左様。二人にアンブッシュを仕掛けたのは尾の生えたゾンビー少女、ロトンテイルである。「アバー…」彼女の様子もおかしい。視点は定まらず、足元もおぼつかない。何より、前へ力なく突き出された両腕と額の御札。…これは。4
2016-07-20 22:13:06「キョンシー…」召喚士の呟きに答える者あり!「エエ。そういう呼び方のほうが馴染み深いと思います」そいつはゾンビー達の群れをかき分け、姿を現した。「キャヴァリーチャージ=サン。じゃあないな。貴様は何者だ」ジャージの男はオーバーにオジギをする。「ドーモ。コボリージャージです」5
2016-07-20 22:16:09「ドーモ。ゴシップミルと、そちらはフールウィルム=サンだ。コボリージャージっつったな。お前は何だ?」ゴシップミルはフールウィルムを制しながら聴いた。彼はロトンテイルの頭を撫でながら答えた。「私。私は彼らの主。これからここは我らの王国となる」「バカげた真似をォ」6
2016-07-20 22:19:29「アマクダリとか色んな組織とかカチグミとかいるの知った上でそれか?そんなら勝手に潰えるのを待ってもいいんだが」「GRRrrr!!」フールウィルムが吼えた。コボリージャージは肩を竦める。「だよな。こいつが黙ってないよ。それと、アタシもだ」「残念だ。誠に残念だ。」7
2016-07-20 22:22:33「貴女が死体であったのならば有効に扱えたでしょうに。ニンジャゆえに、死体が残らない」コボリージャージは手を広げた。ゾンビー達が一斉に動く。さながらジョルリめいて。「でもそちらのドラゴンは別ですねェ。今すぐにでも欲しい」コボリージャージは舌なめずりをする。「お断り!」「GRR!」8
2016-07-20 22:25:05「イヤーッ!」飛び掛かるロトンテイル!それに対応するのはフールウィルムだ。「…!!」友人が、自分を攻撃している。友人が、何者かに操られている。友人が……自分のことを、わからない。フールウィルムは怒りを感じた。ジャージの男に対する、激しい怒り。しかし、それを彼女にはぶつけられぬ。9
2016-07-20 22:28:07ゴシップミルは詠唱に専念している。その間、完全に無防備となる。非力な召喚士の弱味。フールウィルムには、つらい思いをさせているだろう。だが、耐えてくれ。アタシが、状況を引っくり返す素敵な何かを喚び出す!「アバー」「アバー…!」ゴシップミルの元にもゾンビーの手が伸びる。数が多い!10
2016-07-20 22:31:09召喚士は詠唱を途切れさせることなく木製の杖をフルスイングした。要は、これが途切れさえしなければいい!何かを呟き続け…あるいは叫んだまま、彼女は杖を振るった。あともう少し!「イヤーッ!」そこへ油断なく攻め込むコボリージャージ!蹴りが襲い来る!「!!」命中。だがなお、詠唱は続く。11
2016-07-20 22:34:08吹き飛ばされたゴシップミルは、地面に落下したのち、ゆっくりと身を起こした。「…ゲホッ……残念だったな、詠唱はキチンと読み終えた」コボリージャージは片眉を上げる。「大したものです。心から惜しい。貴女をユーゲン・ドーシに迎えられないことが」彼は光る御札を手にした。12
2016-07-20 22:37:05身構えるゴシップミル。だが、コボリージャージは彼女を通り過ぎた。シマッタ。振り返り、手を伸ばすが遅かった。彼は速い!「イヤーッ!」ジャージの邪仙は、フールウィルムの額に御札を貼り付けた。「GRRRRrrrr!!」「アア……!」へたり込むゴシップミルを男は歪んだ笑みのまま見た。13
2016-07-20 22:40:08キャヴァリーチャージは走る。深夜のネオサイタマを疾走する。ジャージの男を探して。「どこだ、どこにいる……」ここに居るのは確かなのだ。その為に、わざわざキョートからネオサイタマにまでやってきたのだ。「人気が無さそうなところなど、オススメです」背後から声。彼は呆れて溜め息をつく。15
2016-07-20 22:44:06「あのさ、神父。なんで俺の背中にいんの」おお、なんたる奇妙な光景か!キャヴァリーチャージの背には、ゴッドファーザーが背負われているのだ。「重い。走りづらい」「エェ~?」とぼけつつ、ゴッドファーザーは鳩型のサブレをかじる。「人の背中で食わないでくれる?腹減ってきた…」16
2016-07-20 22:47:09サクサク聞こえる耳元に苛立ちながら、彼はもう一度問う。「だから、なんでアンタまで付いてきた」神父は缶コーヒーを胸元から取り出し、悠長に答えた。「なぁに。ただ単に興味からです」漂うコーヒーとサブレの香り。これは古来より恐れられし、メシ・テロ!「そうかい!コーヒーまで飲むな!」17
2016-07-20 22:50:18「っつうか、本当にただの興味なんだな、あんたらしいやゴッドファーザー=サン」「エエ…そんなふざけた名前のニンジャ、見ておきたい。あ、そのあとのフォローはヨロシクお願いします」何しろ彼も、ゴシップミルと同類なのだ。召喚士。「嫌だぜ。あんな厄介なののフォローなんざ」 18
2016-07-20 22:54:10キャヴァリーチャージは鼻を鳴らした。ゴッドファーザーが肩を竦め、こっそり彼のポケットにルマンドを詰めた。それから少し遠くの路地を指差す、「ほうら、あちらを。怪しげな人影がちらほら見えてきたでしょう」黒い虚ろな影が、両手を前にずるずる歩いているのが見えた。あれは間違いなく。19
2016-07-20 22:57:08「キョンシーだ」「ハイ。フィクションのみの存在かと思っていましたが…いやあ面白い」キャヴァリーチャージは速度を上げ……「重たい!!」上がらない!「ガンバレ、ガンバレ!気持ちの問題だ、イケル!絶対出来るって、積極的にポジティブに!」神父の激励!「ウルセェよ!!」20
2016-07-20 23:00:07「ヤメローッ!やめてくれ、フールウィルム=サン!」ゴシップミルの悲痛な訴え。心が通じあったはずのゾンビードラゴンも、コボリージャージの手に堕ちてしまった。ロトンテイルも、依然ユーゲン・ドーシのまま。「ARRRGH!」「イヤーッ!」襲い来る二つの尾!「グワーッ!」22
2016-07-20 23:03:49直撃は避けた。だが、こちらから攻撃は出来ない。彼女の甘さゆえの、圧倒的不利だ。「ンンー。ロトンテイル=サン、フールウィルム=サン。あまりやり過ぎないように。衰弱死させ、手駒に加えるので」コボリージャージの言葉に、二人のゾンビーは頷いた。ゴシップミルは歯を噛み締めた。23
2016-07-20 23:06:11まだか。詠唱は完璧だった。召喚は成った。だが、完全な術式には、時間がかかる。それは承知している。しかし、このままでは後にも先にも行けぬ!「アア、早く、早く、早く!」祈るように繰り返しながら、ゴシップミルは折れた杖を捨て、鉄パイプを手に取った。「フフ、よい焦燥ですなァ」24
2016-07-20 23:09:09コボリージャージは不気味な笑みを絶やさない。大量の戦力を有り余らせる余裕による、その慢心に満ちた笑み。「しかしいつまでも遊んでいるわけにもいきません、遊んでいたいのも山々ですが」「ならもうちょいグダグダしようぜ…」「ダメです。続きは死んでから、ですよ」ゾンビーたちの攻撃!25
2016-07-20 23:12:22