ヴォイドアクセラレーター#2 加速する時◆2(終)
_メアレディ……日傘を差した長髪の女吸血鬼。彼女がいまいるのはルーデベルメ工廠ギルドの実験地だ。 帝都の大きな空地を利用した実験区域。元は巨大工場だったという更地にはいくつもの爆発の跡。メアレディはミクロメガスに命じられてここにきた。 41
2016-07-21 20:32:12「よろしく頼むよ」 メアレディの隣にいるくたびれた研究者は、ゼミールだ。その両手には奇妙な小手がはめられている。 「こんなに早く完成したと聞いて、ミクロメガス様はお喜びです」 天使のように笑うメアレディ。 「期待してくれよ」 42
2016-07-21 20:37:01「それで、ヴォイドアクセラレーターに必要不可欠なものって、何なのでしょうか」 メアレディは天使の表情のまま首をかしげる。ゼミールはまるでいたずらっ子のように牙をむいた。 「教えたら止めるに決まってるからな。さぁ、魔力を加速させるぞ!」 ゼミールは突然小手を掲げる! 43
2016-07-21 20:44:31_魔力の風が巻き起こり、土煙を立てた。青空が、視界が霞む。メアレディは止めようとしたが、逆にゼミールは彼女の動きを止めた。 「魔法陣が発動している。ここはおれのルールで動いてもらう」 「なるほど……完璧な性能ですね。お遊びをする理由はなんです?」 44
2016-07-21 20:50:58「研究資料はおれの家に全部まとめてある。家ごと寄付する。もういらないからな」 「どういうことです?」 「おれは加速された魔力の先へと行く……」 ゼミールの目はもはやメアレディを捉えていない。その先、ずっと先を見ていた。 「言いたいことが分かってきました」 45
2016-07-21 20:56:20_カビのようなものがゼミールの全身に広がっていく。ゼミールは独り言のように解説した。 「生贄が必要なんだ。神の力を借りるからね。電力くらいなら生贄はいらない。けれども魔法陣を制御するとなると、さらに一段階上の権限が必要になる。ヴォイドに身を捧げる必要がある」 46
2016-07-21 21:00:58「もちろん毎回じゃあない。最初の1回だけだ。試作型を二つ、この世に残すよ。後は好き勝手やってくれ」 メアレディは眉をひそめて、笑った。 「しょうがないですね、旅の先でも、お元気で」 ゼミールは手を振った。そして……消えた。 47
2016-07-21 21:04:59(旅の先か……) 超高速で加速していく魔力の流れの中を、ゼミールは泳いでいた。まるで流星雨を一束にまとめたような光のチューブを、彼は進む。 (これを予知したんだ、見てしまったんだ、あいつは) 助手とはいえ、同じ道を進む同志だった。 48
2016-07-21 21:09:52(そりゃあ、時を加速させたくなるよ。きっとあいつは待っている、この光の先で……必ず!) 光の粒子が加速する先に……巨大な暗黒が口を開けていた。 「これが、ヴォイド……」 「そう、あなたが辿り着きたかった場所」 49
2016-07-21 21:15:45_見知った声が傍にあった。 「いいや、違うよ」 巨大な暗黒は、まるで暖かいスープのような、優しさに満ちていた。 「二人で、辿り着く場所だ」 そして、二人は加速していった。まだ見ぬ、ヴォイドの深淵へと……。 50
2016-07-21 21:23:29【用語解説】 【生贄を好む神】 神によって生贄を好むか好まぬかは個人差があるが、大抵は喜ぶ。ベルベンダインは好む方の神で、特に生娘の生贄を喜ぶ。殺された生贄はヴォイドと同化し、ベルベンダインの騎士と呼ばれる配下になる。暗黒の鎧に無数の眼球が開く、異形の天使である
2016-07-21 21:31:08【次回予告】 願いが叶う泉を観光しに現れた一組の新婚夫妻。井戸の底で二人が見たものは……闇に待ち受ける罠、そして追跡する吸血鬼! 次回「願いが叶う井戸の底で」 全50ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-07-21 21:36:07