第8話 「閉じ込められた龍」 パート4

脳内妄想艦これSS 独自設定注意 雲龍さん大暴れ
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-4-20「本当だったらなぁ殆ど一方的に心が喰われちまって碌に対話なんざ出来はしない。だが何の因果かお前の心は彼女を加えてもなお残ったんだ…だったらその拙い頭と口を使ってちゃんと向き合ってやれ」 「…」 黙りこくる照海に、風見は最後の『鍵』を投げる。 「…彼女まで『殺す』なよ」

2016-07-23 22:14:09
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-4-21 …一瞬の視界のホワイトアウトの後…彼、『照海』は施設の中に立っているのに気付いた。 …どこだかは嫌でも直ぐに思い出せる風景だ。 「高重要性観察房か…」 呟きを漏らし、ふと喉に手を当てる。 あの日から変わってしまった『雲龍』の声ではない。元の自分の声だ。

2016-07-23 22:15:16
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8-4-22 彼は改めて観察房を見回す。見た目こそ数日前まで自分の居た場所とそっくりだが、何かが決定的に違う… そして、手近な独房に近づいて中を覗いて、驚いた。 独房の中は全く違う外の景色になっていたうえ…そこには幼少の頃の照海が居て、虚ろな目で此方を見返していたのだ。

2016-07-23 22:15:45
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8-4-23「…っ!」 照海は反射的に独房の窓から目を逸らす。 …見えたのは小学生時代の自分。喧嘩だけは滅法強かったが、ひたすら孤独に苛まれていた頃の… 「…」 彼は唐突に理解した。この独房が自分の心象風景である事を。そして、自分が目を逸らしてきた記憶が収監されていることを。

2016-07-23 22:16:32
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8-4-24「…」 出来るだけ独房の中を見ないように、照海は歩を進める。 …いつかは向かい合わなければいけない。分かっている。だが、今の目的は其方には無い。 言い訳がましく脳内を納得させ、彼はある場所を目指した。 T-83号独房…数日まで彼が押し込められていた、その場所だ。

2016-07-23 22:16:57
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8-4-25 彼がT-83号独房に辿り着くと、そこだけは様相が他と違っていた。 扉は重厚な物では無くガラスの様な扉に変わっており…そして、独房内にはガラス扉に背を預けて座り込む女性の影が見えた。 …言うまでも無くその姿は、ここ数日の『自分』が鏡で見て憎らしさを感じていた姿。

2016-07-23 22:17:37
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8-4-26 独房脇まで辿り着くと、照海は彼女とガラス越しに背を合わせる形をとった。 何となく、彼女の事を見ながら喋るのは気まずかった。 …だが、その先が浮かんでこない。 「あー…っと…」 「…ほんとに、貴方は戦う事以外には頭が働かないのね」 口火を切ったのは雲龍の方だった。

2016-07-23 22:18:21
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8-4-27「聞いてたのかよ」 「同じ身体なのだから、当たり前でしょう」 雲龍は小さく嘆息する。 「こんな人間が私の身体を動かしていると思うと、だいぶ複雑ね…」 これに、照海も苦笑する。 「俺なんて自分の身体自体が無くなっちまったんだがな。お前の身体、動かし辛くて仕方ないぜ」

2016-07-23 22:19:02
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8-4-28「それで、どうするの?貴方がこの扉を開ければ、私は外に出る。それはつまり、貴方が私と混じり、貴方が貴方では無くなるという事を意味している」 「…」 分かっている。艦娘の身体となったその時、それを照海の心は本能的に察知し、雲龍を封じ込める事で逃げて回避したのだ。

2016-07-23 22:19:38
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8-4-29「上官がよ、いい加減逃げるなっつーのさ」 照海はへらりと笑うと、ゆっくりと話し始める。 「自分以上に自分の事を理解している人間に説教たれられちまったよ…あぁ、そうだ、人生の色んな分岐を独りよがりで進んだ結果がこれだ。とうとう逃げ場も無くなった。本当、理不尽なもんだ」

2016-07-23 22:20:11
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8-4-30「貧乏くじを引いてるのは何も貴方だけじゃないのよ」 雲龍はちらりと肩越しに照海の背中を見た。 「私なんて、選ぶ権利すら与えられてないんだから」 「はは、そうか、そうだよな…『配属先』が俺なんかで悪かったな」 自嘲気味にそう言う照海の笑いは、既に乾ききっている。

2016-07-23 22:20:47
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ーそこまで話すと、照海はガラス扉から背中を離して雲龍の方へ向き直り…両膝を地面に着けた。

2016-07-23 22:21:46
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8-4-31「こんな所に押し込めて済まねぇ」 そして、続けて自ら両手と額を観察房の地面に着ける。 「どうか、雲龍、協力してくれ。割に合わない事を言っているのは分かってる。余計なものまで一緒に持ってもらう事になるのもだ。だが、お前が力を貸してくれなかったら俺は今度こそ行き止まりだ」

2016-07-23 22:22:44
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8-4-32 照海の嘆願に雲龍は再度小さく溜息をつく。 「謝ったってどうなるものでもないでしょう…」 立ち上がり、ガラス扉越しに照海と向き合う雲龍。 …自分を拒み続けた扉は目の前で溶けるように消えていった。 雲龍は扉のあった場所を通り抜け、未だ頭を下げ続ける照海の前に進み出た。

2016-07-23 22:23:39
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8-4-33「ほら、顔を見せて頂戴」 「…」 雲龍は彼の前で同じように膝を着いて座ると、頭を上げるように促す。 そしてー 「ぶはぁあっ!!!?」 …頭を上げた彼の顔面に、全力の平手打ちが飛んできた。 強烈な一撃を無警戒で食らった照海はバランスを崩して横倒しになりそうになる。

2016-07-23 22:24:26
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8-4-34「女性をこんな目に合わせておいて、いつもこの程度で許してもらえるなんて思わない事」 …これだけ言い終えると、彼女は頬を押さえて苦悶の表情を浮かべている照海に対し、今度は手を差し出した。 「いいわ、私が手伝ってあげるから…ここから変えていきましょう。不本意だけど、ね」

2016-07-23 22:26:06
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8-4-35「…そうかい…有難うよ」 差し出した手のひら同士が重なると…心の中の景色は歪み、溶け、消えていった。

2016-07-23 22:26:47
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8-4-36 ふと我に返ると、装飾された電灯が視界に映り込んできた。 …どうやら自分は横になっているらしい。身を起こすとそこは執務室のソファの上。 「終わったのか?」 声のした方に首を向けると、先頃同様に書類業務を進める風見の姿があった。 時計を横目に見ると、経過した時間は僅か。

2016-07-23 22:27:49
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-4-37「それで」 風見は書類の上を走らせていたペンの動きを止めると、ソファの上の人物に目線を合わせる。 「今そこに居るお前は、一体誰なのかな?」

2016-07-23 22:28:14
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8-4-38 沖ノ島近辺の海上…『鳶』の4人は作戦通り、伏兵達との交戦を開始。奇襲は功を奏し、順調に勝利を重ねた。しかし、離散した敵同士がひとたび陣形を組み直すと、形勢は悪くなり始めていた。 「綾波!そっち!狙われています!」 浜風が『自身も余裕が無い』とすぐ分かる調子で叫ぶ。

2016-07-23 22:29:16
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8-4-39「うわっ!?」 浜風の注意が無ければ危なかった。砲撃準備に入ろうとしていた綾波の進路にリ級の砲撃が落ちてくる。 「出来るだけ進行方向を変えなさい!後、絶対に立ち止まらないように!」 対空機銃で掃射を行いつつ、五十鈴が声を張り上げる。 苦々しく見やる空には…敵の観測機。

2016-07-23 22:29:49
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-4-40 敵が陣形を組み直した時、空母と共に戦艦と重巡をひと所に集めてしまったのが失策だった。 敵は制空を確保すると、前衛に此方の進路を阻ませながら執拗に弾着観測射撃を繰り返し、此方の動きを徹底的に制限しにかかる。 それに加えて敵機の爆撃までもが絶えず襲い掛かってきていた。

2016-07-23 22:30:33
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

8-4-41「(奥の戦艦達を何とかしなくては回避行動以外まともに取れない…のに、爆撃と前衛が阻んでくる…!)」 もう何度目か、遠目のリ級に狙いをつけようとした扶桑にイ級と爆撃機が襲い掛かり、またしても対応を余儀なくされる。そして、振り払おうとする内に今度は危険な主砲弾が降り注ぐ。

2016-07-23 22:31:06