- walpurgis_marry
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善良なることが美徳であるのではない その命の在り方に沿うことこそが美徳である 命は廻るためにある 力は廻すためにある その招待状はその命に捧げた献身に対する報酬である そして来たれよ強者共よ その命の在り方に沿う者等こそをこの地は歓迎し、祝福するだろう #ヴァル華
2016-08-01 20:00:01褐色の女人はローブの裾を正しながら一つ呼吸を置いた。 そうして幾つかの秒数を扉の前で往生していたが、やがて扉のノブを回す細い指先。 そうして、目にした光景は常識的な光景ではなかった。 華々しい光に満ちたエントランスホールなどではなく、光も差さない暗闇ばかりの森の中。
2016-08-01 23:40:35ノブに手をつかんでいた手を放して、瞼を落とす作業を数度。 「……ほほう」 したり顔で甘い蜜めいた声色を響かせた。なるほどここはこうなっているのか、と。 沈殿した闇をかき分けて、妖精のよに戯れる足取りに迷いはなかった。 杖を振りながら、面白いものをみていて夢に浸る童を真似て逡巡。
2016-08-01 23:42:12時折足元がよたつくしぐさが目立つ。顔を隠すフードが邪魔だ。ここには誰もいないのかと取ってしまおうか迷ったが。 「……さて、誰ぞ妾(わたし)以外にいるのか」 逡巡した先を、ひとつの方向へと定めた。
2016-08-01 23:44:20「……ふむ」 巨大な四角い岩に似たものを見つけた。これが屋敷とやらだろう。そう彼は思う。…森の中で暮らしていた彼には、建築物というのは、かなり縁がなかったのだ。ここへと来る道すがらにも大きさは違えどヒトの出入りする岩、にしては岩ほど硬そうでもないし色味も様々な、
2016-08-02 01:24:43ヒトの出入りすることのできる何かは見かけていたので、アレがヒトの家か、と彼は一つ賢くなった気がした。数百年生きてみるもんである。 のっぺりとしたそれの前に立つ。でっぱりがあったので(彼はドアノブという名称を知らない)、それをとりあえず引っ張ってみる。
2016-08-02 01:25:13見かけたヒトビトは、こうしてこの中へ入っていた気がしたので。案外すんなりと開いたので中を覗き込んで、目を瞬かせた。数歩下がって屋敷を見上げる。もう一度中を覗き込む。……なんだか、見た目より中の方が広くないだろうか。
2016-08-02 01:25:52ああでも洞窟なんかは見た目よりずっと広く出来ていることが多いから、きっとそういうものなんだろう、これも。 区切られていても中の方が広いなんてよくあることだ。うん。 ひとり納得し頷いて中へと踏み入れた。さくりと踏みつけた草の感覚に微笑んで、そのまま進む。 よく繁った森だ。
2016-08-02 01:26:30今は夜のようだけれど、きっと昼であっても光の刺すところのほうが少ないに違いない。懐かしさに彼はまた笑う。今は見る影もないけれど、彼の森も、昔はこんな姿だったのだ。ここに来るまでに見かけた自然は多くあって、そのどれよりも深い緑に彼は満足げに笑みながら進む。
2016-08-02 01:26:47進む中、森の中に在るに相応しいが、しかし何か違和を感じるものを見かけた気がして彼はそちらへと進む向きを変えた。さくりさくりと微かな脚音が梢の揺れる音に混ざっている。
2016-08-02 01:27:01わずかな夜光の陰を残す葉を踏みしめる。人を模した装飾品は遅れて踏み入れた気配を察知して確信する。 蜘蛛は元来臆病な生き物だ。鋭く神経質な感覚はあまりあるほど警戒の武器として優れている。 足音が響く、梢の揺らぐ音が響く。装飾品は景色と同化した糸を手繰り寄せながら森の奥へと足を運ぶ。
2016-08-02 01:42:40勝手気儘な妖精のようにして、森の奥へと誘い込むよに。 彼からすれば気配は遠ざかれど、すぐに追いつくことは叶うであろう。女人はゆっくりと探検するように歩くのだから。 果たして、その姿を捉えた頃合い。目に付く範囲までに迫っていたのならば。
2016-08-02 01:43:03「吾(わたし)、食事の時間だ」 十の眼が覚醒し、六つの足が地を這い上がり、苔の生えた大地を隆起させて地を割った。 巨体に似つかぬ跳躍力で向かってくる彼を食らわんと大口を開けた。純然たる動物の捕食行為に他ならない、原始的な欲求のままに。
2016-08-02 01:45:02捉えたのは白い影だ。面白がるように速度を変えず追いかける。ぴろぴろと耳が揺れる。追いかけていたそれがヒト型である、と視認した瞬間、 「――!!」 足下、気配を感じて地面を蹴り上げ後方へと跳ぶ。背が総毛立ったのがわかる。外套と括られた砂色の髪が揺れる。
2016-08-02 02:05:54着地、すんでのところで回避したそれをしっかと見据えた。地を割り出現した彼の倍かそれ以上程の大きさの、 「……蜘蛛か。巨大蜘蛛。この森に住まうもの、ではなかろうて。この森に緑はあれども生き物の姿はない。なるほど、なるほど。……であらば、であらば!」 招待状を受け取ったものだろう、
2016-08-02 02:06:33そう彼は思う。呼ばれたのは強き者ら。…互いに強さを示すには何をするか。決まっている。 「しかし出会い頭に斬りかかられたことは数あれど、食いつかれることはそうあらなんだ!我はリーズヴォルプ、朽ちた森の捻れた大樹!名乗ることすら久々だ、故に無礼は幾らか見逃していただけると有り難い!」
2016-08-02 02:07:31殺すなどとは考えない。ただ己の力を全力で振るうことを。相手もそうだろう。その結果、どちらかが死に至るだけ。それだけのこと。……それだけのことを、ああ、どれだけ願ったか。 前脚を振り上げ朗々と言い切り、勢いよく駆け出した。狙いは蜘蛛のその頭へ、跳びかかり一撃踏みつけんとして。
2016-08-02 02:09:19対象を失った大蜘蛛は宙を舞い、六肢を木の幹に食い込ませて固定する。 獲物を逃すまいと見据える多眼が一斉に彼の姿を捉えた。 言葉通り、この蜘蛛は野性のものではない。当然ながら"参加者"であり、目の前にいる鹿風貌とて森の狩人というモノでもなかろう。
2016-08-02 20:03:30強き種がいるならば、それこそ示すものがなんであるかは明白。 昆虫特有の節々で"カマ"を掛けてみれば食いでのありそうな――種までしっかり食えそう、な。 あぁ、あの怪物(オトコ)はどんな味がするのだろう。
2016-08-02 20:04:14「それについては妾(わたし)も同じ意見ね。矜持も誇りも持ち合わせない手前、吾(わたし)の無礼を妾(わたし)に免じて許してほしい」 跳躍した蜘蛛に遅れて、木の枝へと浮かぶように降り立った先の白い影が跳躍する。 杖を片手に太い枝をこんと叩いた女人は、ローブを直しつつ明瞭に笑んだ。
2016-08-02 20:04:53「しかしその意気や良し。礼として破壊の後に、樹にも似た角をしゃぶりつくす」 跳びかかる彼はそのまま本体の頭を踏みつけようといらっしゃる。蜘蛛から少し離れた位置より杖を振るうと、蜘蛛の糸を先端から射出する。 動きの抑制と攻撃に加わる力の軽減を目的とし、その身を拘束しようとする。
2016-08-02 20:05:34代わりに、蜘蛛は一歩も動くことはせず、防御態勢も回避も取ろうとしない。蜘蛛へ一撃を見舞うだけの算段があるのなら、それも甘んじて受け入れるといわんばかりに。
2016-08-02 20:06:10ぎょとりと向けられた十の目にきひ、と彼は笑う。駆ける速度はいや増して。 聴こえた声にまた笑う。なるほど、無礼者はどちらも同じか。――一般の礼節など不要とは知りながらも。誇りも矜持も持ち合わせぬと白い女は言う。それは彼も同じこと。そも、力こそが全てであるのだから。
2016-08-02 21:21:42「承知した!重ね、全力を以って返答としよう!」 駆ける、駆ける、駆ける――跳ぶ。蹴り飛ばした地面が抉れ土が舞う。けれどあくまで軽やかに、跳躍は高く――高く。無防備な空中、白い女から糸が伸びる。邪魔だ、と糸を払うため外套を掴み振るって糸を絡め取る、払いきれなかった糸に絡め取られる。
2016-08-02 21:23:38だが。 「食らえるものなら食ろうてみろ!大人しく食われてはやらぬ、食われたとして腹を裂いて出てきてやろうとも!」 挑発するように堂々叫ぶ。そう易々と食われてやらぬと。糸の絡みついた外套を振り捨てながら、彼は蜘蛛めがけて落ちていく。 愚直に真っ直ぐに。駆け引きも何もなく真っ直ぐに。
2016-08-02 21:24:46