(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)
2016-08-08 21:02:0701の風がフスマの隙間から流れ込む。ナンシー=リーはここがコトダマ空間であることを確認すると、目の前の人物に向けて言った。「それじゃあ、奪われたニンジャスレイヤー=サンのソウルが、今はあのオイランドロイドの中に入っているのね?」「正しくはその1/5だ」1
2016-08-08 21:03:03今、ナンシーはIRCチャットでとあるニンジャとコンタクトを取っていた。ニンジャの名はバシリデス。かつてヨロシサン製薬で邪悪なリー先生の助手の一人として、ヨクバリ計画に参加していた男だ。今はフリーランスのニンジャとして、アゲウミ・ストリートで何らかの研究を行っている。2
2016-08-08 21:06:04ニンジャスレイヤーが6人のニンジャの卑劣な奇襲を受け、タマ・リバーから這い上がった後、ナンシーはすぐさま情報を集めこのニンジャの所在を突き止めた。ニンジャスレイヤーはすぐに彼の家に向かったが、彼はバシリデスを殺さず一台のオイランドロイドを持って帰ってきた。3
2016-08-08 21:09:08はたしてニンジャスレイヤーとバシリデスの間でどのような会話があったのか、ナンシー=リーに知ることはできない。そこで彼女はバシリデスに聞くことにした。直接のコンタクトは自殺行為だが、IRCを通しての会話なら、そうそう遅れは取らない。そしてバシリデスは、予想外に話好きだった。4
2016-08-08 21:12:02「私のカラテドレインは、ニンジャからソウルそのものを奪うことができる。リー先生がズンビーに再現させたものとは格が違うぞ。奪い取られたソウルは力だけになるのが普通だが……ニンジャスレイヤー=サンのソウルは実に面白い。ソウルの人格が未だ残っておった」5
2016-08-08 21:15:03「そこでそれらのソウルを記憶素子に封じ込め、あのニンジャたちに分け与えた。結果、彼らはUNIXを通してニンジャスレイヤーの力を部分的に再現できる様になったというわけだ。久しぶりに面白いデータが取れたよ。ニンジャになってまで研究を続けた甲斐があるというものだ」6
2016-08-08 21:18:01ニンジャスレイヤーは5人のニンジャにソウルを奪われた。今の彼は縄めいた筋肉も、不浄の炎も、禍々しい武具を作成する力も、怪物的反射神経も、内なるナラクの古代ニンジャ知識も持たぬ、僅かなカラテだけが残ったただのニンジャに過ぎない。7
2016-08-08 21:21:01「……わざわざオイランドロイドにソウルを保管しないで、ニンジャスレイヤー=サンが直接ソウルを奪うことはできないの?」ナンシーは1つの疑問を口にした。バシリデスの提案は、妙な回りくどさがあったからだ。「できる」バシリデスはあっさりと認めた。「だが、危険も伴う」8
2016-08-08 21:24:09「どういうこと?」「ハッカーの世界に例えて言うなら、そうだな。バックアップの取れない分割したファイルを統合する時、エラーが出たら最悪だろう?」「……そうね。ならあのドロイドには、そのエラーを修正する機能があるってこと?」「ああ。特注の器だ。材料不足で、小さくなってしまったがね」9
2016-08-08 21:27:01バシリデスは淡々と語る。だが、その態度がナンシーには不可解であった。「もう1つだけ質問させて。なぜ一度はソウルを奪ったニンジャスレイヤー=サンに協力するの?彼が力を取り戻せば、きっと貴方を殺しに行くわよ」その問いに対して、バシリデスがあっさりと答えた。10
2016-08-08 21:30:07「それは勿論、研究のためだよ。意志の分割と統合。モータルのものではあっさり発狂して役立たず。だが、ニンジャスレイヤー=サンのような強い意志を持ったソウルなら、あるいは成功するかもしれんからな」バシリデスも、やはり例外なくニンジャであった。11
2016-08-08 21:33:02「アバーッ!アババーッ!」人が燃えている。赤黒い不浄の炎に焼かれた女が、悲鳴をBGMに不細工なブギを踊る。彼女の服が溶け落ち、皮膚が炭化し、その場に崩れ落ちて動かなくなる。「……フゥー」その光景を見ながら、ラクシャーシーは達した。13
2016-08-08 21:36:01退廃オイランバー『オシチ』のVIPルームで、ラクシャーシーは今日も渇きを癒していた。ニンジャスレイヤーの不浄の炎を手に入れてから、彼女がここに足を運ぶ頻度は倍増した。焼かれる女は店員ではないものの、誘拐と掃除の手間は、店長も顔をしかめるものであった。14
2016-08-08 21:39:05だが、ラクシャーシーはこの店のヨージンボとして、損失以上の利益をもたらしている。そして彼女はニンジャだ。誰も逆らうことはできぬ。「……もう一人だ」「アイエッ!?」それでも、今日の申し出には、店長も悲鳴を上げざるを得なかった。「ラクシャーシー=サン!でも女がいません!」15
2016-08-08 21:42:04「誰でもいい。早く連れてこい。外のクローンヤクザを使ってもいいぞ?」頬を上気させているが、その目はまるで満たされていない。「この際、顔が良ければ男でもいい。ああ、お前でもいいぞ?」「アイエエエ!す、すぐに連れてきます!」焼かれては敵わぬと、店長は失禁しながら部屋を出て行った。16
2016-08-08 21:45:05「……情けないねえ」ソファに深々と身を預けながら、ラクシャーシーは呟いた。店長のことではない。モータルは歯牙にもかけていない。彼女が考えているのは、先日爆発四散したダイヤシュラのことだ。下手人は調べるまでもない。ニンジャスレイヤー以外あり得ない。17
2016-08-08 21:48:02ダイヤシュラはラクシャーシーと同じく、バシリデスのカラテドレインで奪ったニンジャスレイヤーのソウルを分け与えられていた筈だ。彼が手に入れたのはソウル由来の強靭な肉体。それを土台に更にサイバネを増設したというのに、まるで抵抗もできず爆発四散したらしい。それが情けない。18
2016-08-08 21:51:14「所詮はサイバネ頼りのサンシタだったってわけかい」ラクシャーシーは不浄の炎を手の中で弄ぶ。ダイヤシュラに対する同情など一片もない。それより、あんなサンシタを殺してニンジャスレイヤーが粋がっていることに虫酸が走る。衝動のままに炎を握り潰すと、黒い炎は飛び散り霧散した。19
2016-08-08 21:54:10「イヤーッ!」「グワーッ!」ラクシャーシーのサイバネ聴覚が、鋭敏なカラテシャウトを捉えた。部屋の外からだ。客の誰かが騒動でも起こしたのだろうか。「イヤーッ!」「グワーッ!」「「「ザッケンナコラー!」」」クローンヤクザの声。店側としては当然の対応だ。20
2016-08-08 21:57:16BLAM!BLAM!「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」「……おやおや」ラクシャーシーは身を起こした。銃撃を掻い潜り、3人のクローンヤクザを同時に殺害。只者ではない。その足音がこちらに向かってきているとなれば、彼女が出迎えるしかないだろう。21
2016-08-08 22:00:26ラクシャーシーはソファにかけてあったジャケットを羽織り、ドアを見た。「イヤーッ!」マカボニーのドアが強引に蹴破られた。ラクシャーシーは首を傾け、飛んできた破片を避ける。現れたのは、赤黒の装束のニンジャであった。ニンジャはラクシャーシーの姿を認めると、アイサツした。22
2016-08-08 22:03:05