(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)
2016-08-10 21:01:16「フジキド。フジキドー」肩を揺さぶられ、フジキド・ケンジは目を覚ました。目を開ければ、カビの生えた安アパートのコンクリ壁が見える。「おきろー、フジキドー。ひまだぞー」「……ヌウーッ」彼を揺り起こそうとしているのは、白髪の少女ドロイドだ。手を振り払い、フジキドは体を起こす。1
2016-08-10 21:03:05ドロイドはPVCレインコートを脱ぎ、ウェットスーツめいた黒いシャツとレギンスを身に纏っていた。バシリデスのラボから引き取った時に着ていた服のままだ。しかし、このドロイドはよく動き回るので、着飾った服を着せることは出来まいと、フジキドは思っていた。2
2016-08-10 21:06:03「おきたか。よし、はやおき!」5つに分かれたソウルのうち、2つを収めたナラク入り少女型オイランドロイドは、幼児めいた振る舞いを見せていた。フジキドが手を焼くほどに元気である。「……ナラクよ。すまぬが、私は夜出かける。それまで大人しくしていてほしい」3
2016-08-10 21:09:03「ぬうーっ!?ナンデ!?」「オヌシのためだ」フジキドはナラクを相手にせず、朝食の支度を始める。ナラクは昨晩からこの調子だ。自分が身体から分離されたソウルだということにすら気付いていない。そのことを昨日説明したのだが、ナラクは「よくわからぬ」と言ってそのまま眠ってしまった。4
2016-08-10 21:12:02眠る機能がついているドロイドなど、フジキドは聞いたことがなかった。ならば、ソウルの休眠状態の一種なのだろうか。バシリデスから渡されたこの少女型オイランドロイドには謎が多い。怪しさは募るばかりだが、今のフジキドにはこれを使う以外の選択肢が残されていなかった。5
2016-08-10 21:15:01食事を終えたフジキドは、UNIXを立ち上げ、とある人物にノーティスを送った。『オハヨ』すぐさま返信があった。フジキドは今夜の襲撃計画を慎重にタイピングしていく。「……だれ?」「オヌシは知らなくて良い」「わるいやつ?」「そうではない」「そっかー」6
2016-08-10 21:18:07今までの2人とは違い、今宵の電子防御は硬い。慎重に、かつ大胆に事を進めていく必要があるだろう。UNIX上に、傍から見れば狂気じみた、しかし緻密な作戦が展開されていく。その内容は分からないが、とにかくナラクはフジキドの肩越しにモニタをじっと見つめていた。7
2016-08-10 21:21:05『安い!安全!オナタカミの自動運転システム!』『今なら損害保険料が月々減額で、実施搭載費無料!』マグロツェッペリンが流す広告は、オナタカミ・オートメーションのジョルリ・ドライブ。日本で初めて政府に認可された、大衆向け自動運転システムだ。8
2016-08-10 21:24:03親会社であるオナタカミのマネーパワーが可能にした大規模な通信設備と複雑な交通整理AIは、他社に真似できるものではない。事実上、市場を独占したオナタカミ・オートメーションの株価はウナギ・ライジングである。この会社は、今まさにこの世の春を謳歌していた。9
2016-08-10 21:27:01「1ヶ月で株価3倍増か。実際メデタイ!」オナタカミ・オートメーション本社45階。社長室のデスクに足を投げ出し、電子画面に目を通す男がいた。オールバックに撫で付けた髪と、ストライプ柄のスーツがあいまって軽薄そうな雰囲気を醸し出しているが、彼がこの会社の社長である。10
2016-08-10 21:30:05「でも、オナタカミ本社からお叱りが来てない?儲かりすぎるのも大変だよ?」社長室にはもう1人。来客用のソファに寝転がり、ハンドベルトUNIXを操作する少女がいる。黒いチャイナドレスを身に纏い、紫色の長髪を後頭部でシニヨンにまとめている。その胸は平坦であった。11
2016-08-10 21:33:03「モーマンタイ。次の手は打ってある」社長の頭の中には、既に次の絵図面が浮かんでいる。オナタカミ本社が来期に発表する市街戦用ロボニンジャ、シデムシ、そしてハイタカ。これらの指揮プログラムに、ジョルリ・ドライブを発展させたものを使う。もちろん、市民の安全のため、無償提供だ。12
2016-08-10 21:36:02「さっすが、社長。野心に知性も備わってる。いいねえ、惚れちゃいそうだぞ」「やめてくれ」悪戯っぽく笑う少女に対し、社長は真顔で答えた。「むう、つれないなあ。暇なんだし相手してよ」「暇か……暇なんだよな、確かに。2人が殺られたってのに、クローンヤクザも動かせねえ」13
2016-08-10 21:39:02ダイヤシュラとラクシャーシーがニンジャスレイヤーに殺されたことは、既に社長に伝わっていた。当然、アマクダリも知っている。だが、彼の共犯者であり、オナタカミ・オートメーションとアマクダリの窓口役であるアクシスのニンジャ、アブラクサスは待機命令を下していた。14
2016-08-10 21:42:03命を狙われていることは明らかなのに、ニンジャスレイヤーの動向も追おうともしない。「とっくにケジメものだってのに、何考えてんだアイツは。狂ったか?」「……どうしよう」急に、少女の顔が青ざめた。「僕たち、このままだとネオサイタマの死神に殺されちゃうよ?」15
2016-08-10 21:45:03少女はかの死神の圧倒的な暴力に怯えているように見える。それに応えて、社長は言った。「安心してくれ。このビルの警備は万全だ。オムラ残党の犯行声明をでっち上げて、警察にも応援に来てもらった。ニンジャスレイヤー=サンが入ってきても、逃げ出す時間ぐらいは稼げるさ」16
2016-08-10 21:48:05オナタカミ・オートメーション本社ビルには、社長が手ずから手がけた警備システムが採用されている。各所にはタケヤリやズワイガニプールが設置され、異変があればクローン警備員が対処する。それらで足止めしてる間に、屋上のヘリか地下の車で逃げ出せばよい。17
2016-08-10 21:51:07「それに、ニンジャスレイヤー=サンは先にアブラクサス=サンの方に行くかもしれん」「どうして?」「……アイツ、何も備えてないらしい。最終的に全員殺すとしても、楽な方から殺しに行くだろ、普通」「そうだねえ」「アブラクサス=サンが死んだら、この件、アマクダリに知らせる」18
2016-08-10 21:54:05「自分で解決しないんだ?」少女が身をよじり、社長にイタズラっぽい笑みを投げかけた。「アマクダリから支援を引き出して、野良ニンジャもかき集めて、ニンジャスレイヤーを物量圧殺する。アブラクサスより有能だってことを、アクシスに見せつける」「つまりゲコクジョだね?」「おう、まあな」19
2016-08-10 21:57:12死神に命を狙われてなお、社長の野心の火は消えない。この状況を逆手に取り、自身がアクシスに就こうとするそのゲコクジョ精神は、モータル時代、スラムを根城にハッカーをしていた頃から、目の前の少女によって培われたものだった。尤も、当の少女は気付いていないだろうが。20
2016-08-10 22:00:20「いいねえ、知性だけじゃなくて、野心もある。流石、僕のカチモトだよ。惚れちゃいそう」「よしてくれ、今の俺はワームトキシンだ」「ごめんごめん、ワームトキシン=サン」少女はデスクからウイスキーのグラスを取り、一口煽ると、千鳥足めいて室内を歩く。21
2016-08-10 22:03:05「アクシスかあ……いいねえ。そしたら、もっともっと会社を大きくできるね!楽しみだなあ」防弾ガラスに寄りかかり、少女はネオサイタマの夜景を見下ろす。感極まったように目を閉じ、ウイスキーを煽る。焼けつくようなアルコールの喉越しに、くぅ、と喉を鳴らし、目を見開いた。22
2016-08-10 22:06:04