金剛VS加賀(仮題)

金剛VS加賀
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星金 剛 @DB_kongo000

ライターは片手での着火、消火が楽なワンアクション式に限る。 そこの動作がスムーズにいかないと格好がつかないからだ。 時代は喫煙者自体を格好悪いとするらしいが、それはそれ。 俺も軍部にありがちな古い男なのだ。

2016-06-21 23:00:43
星金 剛 @DB_kongo000

風は肌を刺すように冷たく、そんな気温であるためかそこには誰もいなかった。 煙草を一本吸い終わっても人っ子一人見かけはしない。 二本目を吸い始め、金剛が重ねる皿はどれだけの高さになっているだろうと考えていた時。 足音が聞こえた。

2016-06-21 23:00:59
星金 剛 @DB_kongo000

「……どうも」 喫煙所にその姿を見せたのは、他ならぬ加賀であった。

2016-06-21 23:05:21
星金 剛 @DB_kongo000

今日はとても疲れているのでここまで。 見どころさんはどこ……?

2016-06-21 23:05:55
星金 剛 @DB_kongo000

加賀は俺を一瞥すると、新品のソフトケースの銀紙を豪快に引きちぎり中の煙草に手を伸ばす。 隙間なく詰まったケースには当然指を差し込む隙間も無く、彼女は指先をねじ込む様にして、一本を手に取った。 口に咥えた煙草の先を震わせ、眉を寄せながら5回。 マッチを擦って、煙草の先が赤く光る。

2016-08-15 18:37:47
星金 剛 @DB_kongo000

一呼吸。 吐き出された白い煙が、煙らしい、丸みを置いたフォルムのまま宙へと広がっていく。 バニラの甘い匂いだ。 それは俺が周囲に漂わせた匂いと同じもので、煙が混ざり合って甘味が強くなった……ような気がする。 「……何か?」

2016-08-15 18:38:13
星金 剛 @DB_kongo000

ジッと見つめていたことには気づいていたらしい。 渋い表情で手の中の煙草に視線を落としたままの加賀。 「そちらこそ、私に何か用か?」 「自意識過剰です」 こちらを見もせずに吐き捨てられた。 だが、俺だって恥ずかしいことを根拠も無しに言った訳ではない。

2016-08-15 18:38:46
星金 剛 @DB_kongo000

「加賀。煙草なんて吸うもんじゃないぞ」 「貴方に言われたくはありません」 「だろうな。だが喫煙者は皆そう言う。吸わない奴にはな」 ピク、と加賀のこめかみが動いた。 存外分かりやすいやつだ。 「加賀、初めて吸っただろう、今。慣れてないことぐらいすぐに分かる」

2016-08-15 18:39:36
星金 剛 @DB_kongo000

「……何故、そう思いました?」 しらばっくれるとまでは言わないが、頑なに肯定はしない加賀。 そういう勝ち気なところは変わらないが、見栄を張るようなことはしなかったものだが。 気は進まないが、指摘しないと話が進みそうにない。 「ソフトケースの銀紙は左右どちらかだけを千切るものだ」

2016-08-15 18:40:04
星金 剛 @DB_kongo000

加賀が僅かに視線を動かし、上一面全てが取っ払われたソフトケースに目をやったのが分かった。 続ける。 「全部千切ると中身が飛び出し放題になる。どちらかだけ取り、その反対側を軽く叩く。すると反動で飛び出して来る」 トントン、と自分の紙包みを叩くと2,3本、煙草が尻から飛び出してきた。

2016-08-15 18:41:00
星金 剛 @DB_kongo000

そっと撫でて押し戻す。 「煙草の吸い方だが。火が強くならない程度の、弱い吸い込みで煙を口の中へ。更に吸って灰の中へと充満させる。肺に入れて吸った煙は」 右手の人差し指と中指で挟んだ煙草を口元へ。 手で顔の下半分を覆うようにしながらいつもより、一口を少し大きく吸い込み、吐き出す。

2016-08-15 18:41:25
星金 剛 @DB_kongo000

勢いよく吐き出された煙は勢いよく、空中に白の線を描く。 灰に入れずに口に貯めただけの煙は、ぼやあっと口から出てくるのだ。 先ほどの加賀のように。 「加賀、慣れていないだろう。少なくとも、煙を口に入れたのは初めてなんじゃないか」

2016-08-15 18:41:50
星金 剛 @DB_kongo000

そもそも、お前は煙草が嫌いだっただろう。 と、思いはしたが口には出さない。 (提督。私はその臭いが嫌いです) (……体にもよくないと聞きます。いつまで続けるつもりなの?) 加賀が俺の鎮守府にいた頃、俺の秘書艦であった頃。 毎日のように言われたことを覚えている。

2016-08-15 18:42:15
星金 剛 @DB_kongo000

そんなものに好き好んで手を出すほど、彼女が愚かな女でないことは、俺がよく分かっているつもりだ。 「嫌いな煙草に手を出した理由が私に会うことか、この寒空の中、そこまでしてあの坊主から離れて一人になりたかったのかは分からないが。むしろ、よくむせなかったと感心するぐらいだ。

2016-08-15 18:42:49
星金 剛 @DB_kongo000

初めてなら絶対喉に来るだろう。相変わらず、大したやせ我慢と気合だな。というかそれわざわざ酒保で買ったのか? まぁ、加給品は不味いからな」 加賀の眉が寄る。 彼女は咳払いをするだけで何も答えはしない。 やはり無理をしてはいたか。

2016-08-15 18:43:12
星金 剛 @DB_kongo000

加賀はまだ先の長い煙草を灰皿にねじ込む。 「私……ね。いつからそんな堅苦しい喋り方になったのかしら?」 「さてな。君がいなくなってからだということは間違いない」 一人称なんて気にしたことも無い。 「そう」

2016-08-15 18:43:56
星金 剛 @DB_kongo000

加賀は切れ長の目を更に鋭く光らせ、乱暴な足取りで俺の目の前に立った。 その身から放つ威圧感は、俺より一回り二回り小柄な女物だとは思えない。 「提督。私は、貴方の事を憎んでいるわ。日々強く、今が続く限りいつまでも。それだけです」

2016-08-15 18:44:20
星金 剛 @DB_kongo000

加賀は風を切らんばかりの勢いで拳を突き出す。 一瞬身構えたが、それは俺の左胸の前で止まった。 ……拳の中には、一本だけ抜けたソフトケースと真新しいマッチの箱が握られている。 彼女にはもう必要ないのだろう。 受け取る。

2016-08-15 18:44:35
星金 剛 @DB_kongo000

足早に立ち去ろうとする加賀に気の利いた言葉の一つでもかけられないのが、俺の男としての限界か。 手の平の中のソフトケースに視線を落とす。 ……まぁ、匂いが同じだったので分かってはいたが、同じ銘柄だ。

2016-08-15 18:44:54
星金 剛 @DB_kongo000

「加賀」 彼女は振り向きはせず、ただ立ち止まった。 「俺は約束を違えるつもりはない」 「……何の事かしら」 「知ってのとおり俺はクソ真面目な男だ。俺の艦娘を死なせるつもりはない。これ以上はな」

2016-08-15 18:45:18
星金 剛 @DB_kongo000

そう告げると、彼女は首を回し、小さく頭を下げ、そしてまた何事も無かったかのように歩を進めて行った。 遂に一度も視線を合わせようとはしなかった。 「憎んでいます……か」 煙草の煙を肺に入れ、彼女の遠ざかっていく背に向けて吐き出す。 苦い。

2016-08-15 18:45:32
星金 剛 @DB_kongo000

~~ 「……ああ、加賀さん。探しましたよ、どこにいたんですか?」 室内に戻ると、彼が視線をさまよわせていた。 どうやら私の事を探していたようだ。 こちらを向くと、いつものにこやかな笑顔を浮かべ近寄ってくる。

2016-08-15 18:47:38
星金 剛 @DB_kongo000

「申し訳ありません。手を洗いに行ったのですが、少々道を間違えてしまいました」 あの後、手と……不愉快な感覚の残る口の中をゆすぎに行った。 嘘はついていない。 本当のことを言う理由も無い。 「そうでしたか。またあの男に手を出されてるのではないかと、心配しました」

2016-08-15 18:47:57
星金 剛 @DB_kongo000

「……あまり面白くありません。昔の事をとやかく言われることは」 「そうですね、すいません。忘れましょう、僕も貴女も、あの男の事は。あの鼻を突く煙草の臭いと一緒に」 彼の言葉に眉を寄せると、ふわりと、ゆらりと。 甘いバニラの匂いが漂った。

2016-08-15 18:48:19
星金 剛 @DB_kongo000

「焦げ臭い、とは違いますね。あの独特の臭い。ねぇ、加賀さん」 縁のない人間には、この甘い匂いも焦げた臭いに感じるらしい。 「……帰ってくる際に、一度外まで出てしまいました。喫煙所に人がいたので、道を聞いて戻ってきました」 「そうでしたか」 「はい」

2016-08-15 18:48:35
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