【温故知新】第二話

ゲロ甘すいーとぜんざい(大盛り)
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

「へぇ…やるもんだねぇ。意外と器用なもんだな」 「タウイでもこの手の仕事はやったことがあるので…このくらいお手の物ですよ」 少し得意気な顔を葛葵に向けながらも平は手を休めず片っ端から書類を折り畳んでいく

2016-09-03 21:29:35
葛葵中将 @katsuragi_rivea

平は記憶の隅から、少しばかり昔…タウイに着任したての頃を思い返していた。 散らかった部屋と、中央にぽつんと置かれた段ボール。埃の溜まった窓際の冊子。 本土から異動を命じられ自身に割り当てられた少しカビ臭い執務室。

2016-09-03 21:30:53
葛葵中将 @katsuragi_rivea

(司令官さん。こういう時はまず…片付けから始めましょう!至らないかもしれませんが、羽黒もお手伝いします) その当時も今ここ、記録室と同じように第一歩はそこから始まった。 その提案をした秘書艦は今も尚、変わらず彼を支えている。

2016-09-03 21:32:17
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その本人はというと…磯風と談笑しながら清掃を続けていた。 その姿を遠目に感慨深さを滲ませ平は鼻を静かに鳴らした 「…ちゃっちゃとやっちゃいましょう。葛葵さんはそちらをお願いします」 「合点了解、」 ♯endregion

2016-09-03 21:33:35
葛葵中将 @katsuragi_rivea

&BGCOLOR 「もう少し磯風も手際よく働ければいいんだけどねぇ」 数日後の昼下がり、仕事の合間に一同は&bold(羽黒が入れた) 茶を啜り、一息をついていた。 そんな憩いの中、葛葵は磯風に対する愚痴を口にした。

2016-09-03 21:34:53
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「それはすまないとは思っている。だが戦闘以外のことはだな…」 磯風は不服そうに腕を組み、口を尖らせた。 「存外しつこい男なのだな。だから司令はモテないんだ。」 「やかましいぞ小娘!」

2016-09-03 21:36:10
葛葵中将 @katsuragi_rivea

(また始まったか…) (また始まりましたね) 平と羽黒は顔を見合わせ同時にため息を吐く。 このやり取りは記録室を訪れてから日常茶飯事、日課の一つとして当たり前のように目にする光景となっていた。

2016-09-03 21:37:30
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵が磯風に文句を言う → 磯風が言い訳と共に皮肉を口にする → 葛葵が怒り口論となる この一連の流れはもはや様式美と化していて…最終的には両者とも「何故口論となっていたかを忘れる」という結果に毎度毎度集結される。

2016-09-03 21:38:40
葛葵中将 @katsuragi_rivea

よく飽きもせず続けるものだと逆に感心する平だったが、 これは彼らなりのコミュニケーションなのだろうと結論づけた。 互いに悪意を持たず、互いを認めていなければ痴話喧嘩のようなやり取りは発生しないだろう。

2016-09-03 21:39:41
葛葵中将 @katsuragi_rivea

放置しておけばそのうち収まりがつくことは既知ではあったが、 今日に限っては平は間に割って入ることにした。 「まぁまぁ、二人とも。つまり、磯風もしっかり働けるような案があればいいんですよね?それなら僕に考えはありますよ」

2016-09-03 21:40:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「「どんな?」」 声を同調させ頭上に疑問符を浮かべる両者に平は苦笑を浮かべると、 葛葵が普段使用しているデスクの引き出しから束ねられた色付きの付箋を取り出す。 同時にデスクの上に置かれていた書籍を平は手に取った。

2016-09-03 21:42:59
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「それ私の大事な本なんだけど…」 "空想粒子学"などと銘打たれたタイトルの本は彼の趣味らしい。 素粒子物理学にでも興ずるような風貌にはとても見えない、という批評を心内でくだし 薄紅色の付箋を貼り付けた平はそのまま書籍を磯風に手渡した。 「…何だ一体?どうすればいいのだ?」

2016-09-03 21:43:57
葛葵中将 @katsuragi_rivea

困惑する一同に背を向け、平は一番近くに位置する本棚まで足を運ぶと 先程の付箋を数種類、その棚に貼り付けてみせた。 「これでよし。磯風、その薄紅色が貼ってある棚に葛葵さんの変な本をしまってくれるかい?」

2016-09-03 21:45:28
葛葵中将 @katsuragi_rivea

了解した。と短く告げた磯風は 「変な本って…」等と何やらショックを受けている男を尻目に平の近くまで歩みを寄せる。 彼女は見回した。その視界に映るのは書籍が無数に収められている棚。そこには平が貼り付けた色とりどりの付箋がそれぞれ貼られていた。

2016-09-03 21:48:12
葛葵中将 @katsuragi_rivea

後ろから見守る平は満足げに頷く。 程なくして磯風は目的の色がつく位置を発見し、葛葵の「変な本」は本棚に収められた。 その一部始終を見ていた葛葵と羽黒は感心の意が込められた息を吐く。 「ははぁ、なるほどね」

2016-09-03 21:49:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

膨大に増えた情報のカテゴリを色分けし(=&BGCOLOR)、誰から見てもわかりやすい記号とすることで 整頓する際に起こる迷い=時間のロスを省く。その名案を打ち出してみせた男に一同は賞賛の声を上げた。 「流石司令官さん!」「やるな…頼もしい。」

2016-09-03 21:50:34
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「よく出来ました。磯風、やってくれるかい?」 少しばかり頬を染める磯風の頭を撫でながら平は問いかけた。 感情表現が少しばかり苦手な彼女なりの答えなのだろう。磯風は静かに頷いてみせた。

2016-09-03 21:52:08
葛葵中将 @katsuragi_rivea

平の満足そうな顔を見て気を良くした磯風だったが、その顔を次の瞬間にはいつもの仏頂面へと戻し…細い目を葛葵へと向けていた。 「うちの司令もこれだけ気がきけばいいんだが…到底、無理だな」 「あぁ!?生意気だぞ小娘が!?」

2016-09-03 21:53:53
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その声は最も近くにいた平にもよく聞き取れないものであったが…恐るべき地獄耳。葛葵は憤慨した。 自身に向けられた悪口はよく聞き取れるとは言うが、呆れと…ある意味の感心を孕んだ視線は一日のうちに数回繰り広げられる口頭での攻防に向けられた。

2016-09-03 21:55:17
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その感想については羽黒の一言が締めくくる 「…本当に仲がいいんですね」「…そうだね」 二人はもはや慣れた、といった表情で同時にため息をついたのだった。

2016-09-03 21:56:28
葛葵中将 @katsuragi_rivea

ある日、平は戦闘記録が記されている資料に目を通していた。 記載されたあらゆる情報を海軍の資料データベースへと落とし込む作業へと移る前に ある程度、頭に入れておきたいと考えたからだ。

2016-09-03 22:04:46
葛葵中将 @katsuragi_rivea

飛行能力を持つ仮面の者との交戦。徒手空拳での深海棲艦との戦闘。駆逐艦用徹甲弾の試験的投入。 眉に唾をつけるような事例等も目にしていく中に、見覚えのある名を見つけ、平は目を見開いた。 「葛葵艦隊…?」

2016-09-03 22:06:18
葛葵中将 @katsuragi_rivea

数日の間行動を共にしていたが、葛葵の口から彼自身の戦歴に関することは一切語られることは無かった。 艦娘の身を預かる将官といえど全員が全員、必ずしも指揮能力に優れているわけではなく 内地や後方に退いて前線を張る者達のサポートに回る者も少なくはない。

2016-09-03 22:07:32
葛葵中将 @katsuragi_rivea

彼、葛葵もまたその一人ではないかという予想を立てていたが…それは違った。 「DR防衛作戦臨時総司令官…FS作戦総責任者…!?離島再攻略作戦指揮官…?」 思わず驚嘆の声を上げてしまうほどの武功を立てる人物であることを資料は物語っていた。

2016-09-03 22:08:57