- tsutsujishika
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「お前は俺が誘えば断らない。突き放したら追いかけない。いやわかってるよ。そうだよな。だって俺達そういう関係だもん。お前だって俺以外に相手いるんだろ。どうせさ。俺なんていなくなったって、屁でもねえよな。ああ、でも。そういうところ、本当に……」
2016-09-03 15:33:09そう言いながらも、おそ松は行為を止めない。腰を動かし、ひたすらに僕の中を蹂躙していく。もう何度だって征服されたこの身体は、その度に目の前の男のものにされてきた。今までで一番強く、ひどく、犯され、貪られている。痛いくらいに。けれど、体よりも心の方が、張り裂けそうに痛い。
2016-09-03 15:37:05かなしい。かなしい。なんで。相手がいるだって?それはお前のほうだろう。ぼくは。ほんとうは、おまえだけなのに。こんなにも体を明け渡したのは、お前だけなのに。
2016-09-03 15:38:03こうなるんじゃないかって、思っていた。今日、ここが、終わる場所だって、わかっていた。決めていた。なのに、つらい。かなしい。
2016-09-03 15:39:01何度も何度も達するごとに、心に鍵がかかっていく。いたるところを暴かれてなお、差し出す勇気もなかった秘密が。重たい鎖で、がんじがらめになる。
2016-09-03 15:40:03お互いぐちゃぐちゃになって倒れ込んで。もう何度欲を吐き出したかわからない。けれどチョロ松はふらりと立ちあがり、何も言わずに風呂場へ向かった。汗やローションや精液、いろんなものが混ざった雫が、ぽたぽたと道をつくっている。
2016-09-03 16:50:02何も言えなかった。お互いに怒っているような、泣いているような、そんな顔で。獣のように、人の言葉をなくして、お互いの体を食べ合った。食べつくした。終わった後の余韻なんてない。ただ、疲れた。もう、それだけ。
2016-09-03 16:51:10なにも、残らなかった。なにも。お互いに、体を高めて、心を減らして、空っぽになっただけだった。 そのはずなのに、もう体のどこにも余計な水分など残っていないとおもったのに、俺の目の端からは涙がこぼれていた。
2016-09-03 17:30:04足を踏み出す度に息が上がり、動機がして、涙が溢れる。どうしよう。泣きたくない。泣きたくなんてないのに!胸の奥で暴れる感情が、水分となって目から零れて落ちていく。走って、走って、喉がからからになって、立ち止まった。手を膝につき、肩で息をする。道行く人の視線が痛い。
2016-09-03 17:33:10それでも何かすがる先を探して、スマホを取り出す。こんなこと、話せるのは、兄さんしかいない。すこしでも吐き出して、気持ちを整理したい。愚かな自分を誰かに明かして、裁かれてしまいたい。罪を背負った気になって、楽になりたい。
2016-09-03 17:35:03「もしもし、兄さん?」電話に出たのは、兄ではなく、弟だった。手が震えて、電話帳をタップする先を間違えたんだ。そう気づいたときには遅かった。どうしよう。弟には何も言えない。言えるわけない。ばれたくない。けれど、わずかに漏らした吐息すら、震えていた。
2016-09-03 17:38:03「……どうかしたの?」弟の声は訝しげだ。なんでもない。電話する先を間違えた。そう言って、切ってしまえばいい。「ご、ごめっ……僕、間違え、ちゃって……」なのに、なのに。体に力を込めるのに、情けない声しか口から出てこない。
2016-09-03 17:39:04「もしかして、泣いてる?」 「ないてない」 「嘘。声震えてる。今どこにいるの」 「聴いて、どうするんだよ」 「いいから答えて」 「……これから、自分の家に帰るとこ……」
2016-09-03 17:40:02そう。わかった。じゃあバイト終わったら兄さん家行くから。居留守つかったら承知しないよ。有無を言わさぬ声色で言うと、弟はプツリと電話を切った。 ……どうしろって、いうんだよ。
2016-09-03 17:41:03