こじらせたリーマン 20160829-20160904

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こじらせていたリーマン @ro1xrc3

そろそろチョロ松の家の呼び鈴が鳴る頃

2016-09-03 21:31:07
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「チョロ松兄さんー?いるー?あけるよー」鍵をかけていなかったドアを開け、弟はずかずかと家の中に入ってくる。そうして、ベッドの上で膝を抱える僕を見下げた。 「やっぱり泣いてるじゃん」 「……泣いてない」 「うそ下手すぎ。昔からそう。」

2016-09-03 21:32:11
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

バッグを床に置いて、弟は僕の隣に座る。肩が触れるほどの距離で。けれど顔はこちらを向けずに、「で、何があったの」と言った。絶対に聴きだしてやる、という意志を感じる声音だった。でも、そんな、言えるわけないだろう。こんなこと。

2016-09-03 21:33:08
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「先週熱出したっていうのは聴いたよ。……お盆に帰ってきたときもちょっとおかしかったもんね」 そうだろうか、普通だったと思うけど。 「ねえ、チョロ松兄さん」 なんだよ。 「……服、脱いで見せて」 …………?

2016-09-03 21:34:01
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「はあ……?」 思わず顔を上げると、弟もこちらを向いた。射抜くような目で、いいから、脱いで。そう言った。こいつは僕よりもずいぶん年下で、まだまだ子供だと思っていたのに。どうしてこんなに絶対的な顔ができるんだ。

2016-09-03 21:35:02
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

のろのろと、シャツのボタンを外す。死刑台に上る囚人は、きっとこんな気持ちでいるのだろうと思った。前を開いて、肩までおろす。改めてみると、自分で見ても驚くくらい、腹や胸に、噛み痕や、鬱血の痕があった。

2016-09-03 21:36:01
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「……やっぱり」 弟は脇腹の噛み痕をなぞる。苦々しい顔をして。「変だと思ったんだ。お盆に帰ってきたとき、兄さん、恋人はいないっていうくせに、お腹にキスマークつけてたんだもん」……見られていたのか。気付かなかった。

2016-09-03 21:37:01
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「恋人じゃないなら、これは誰にやられたの。女の人……?違うよね。手首にもすこし痕がある。強く掴まれたんだ。普通の女の握力じゃない」 状況証拠をつきつけて、弟は逃げ道をふさいでいく。僕に似てなくて、友達が多くて、賢い子だった。弱虫で、泣き虫なくせに、意志の強い子だった。

2016-09-03 21:38:06
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

そろそろチョロ松が、ことの顛末を弟に話し始める頃

2016-09-03 21:44:01
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

そろそろチョロ松が涙をこぼす頃

2016-09-03 22:48:02
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「そう、そんなことがあったんだ」 弟は苦い顔をより濃くしながら、ずっと話を聴いてくれていた。僕はと言えば、言葉を紡ぐごとに今までのことが思い出されて、また泣いてしまっている。弟の前なのに。かっこ悪い。恥ずかしい。この子にだけは絶対に言いたくなかったのに。結局全てばらしてしまった。

2016-09-03 22:49:02
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「……気持ち悪い、だろ」 おそるおそる聞く声は震えている。 「うん」 弟は素直にうなずいた。こいつは、こういうところがある。

2016-09-03 22:50:03
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「気持ち悪いよ。僕のよく知ってる兄さんが、男の人が好きで。そういう関係になってて、しかも女役で。その上付き合ってなかったとか。意味わかんない。正直引くよ。ありえない。受け止めきれない」

2016-09-03 22:51:10
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

想像通りの感想だった。こいつはこう言うだろうと思っていた。わかっていたのに、その言葉一つ一つが僕を打ちのめす。けれど、口ぶりに反して、弟は僕にすりよって、そのまま両手でぎゅうと震える体を抱きしめてくる。

2016-09-03 22:52:16
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「……?」 「でもね」 「…うん」 「僕は、兄さんが泣くのは、嫌だよ」

2016-09-03 22:53:20
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「気持ち悪くても、自分にはわからない世界にいても、チョロ松兄さんは、僕の兄さんだもん。それにね。僕、いつか、兄さんをこういう風に慰めてあげたいって、ずうっと思ってたんだ。」 「……どういうこと?」

2016-09-03 22:54:10
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「うんと小さいとき、怖がりな僕を、兄さんはこうやって、ぎゅってしてくれたでしょ」言いながら、弟は僕の髪をなでる。 「安心したし、嬉しかった。でも、悔しくもあったんだ。だって僕も男なのに、兄さんに守ってもらってばかりで、かっこわるいじゃん。だからね」

2016-09-03 22:55:18
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

「いつか、僕が大きくなって。兄さんがわんわん泣くようなことがあったら、そのときはたくさん甘やかしてやろう、慰めてやろうって、昔から決めてたんだよ」

2016-09-03 22:56:04
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

弟は、少し体を離して、涙でぐちゃぐちゃになった僕の顔を見た。「夢がかなっちゃったね」無邪気に笑って、指で涙をぬぐう。この男は、いつのまにこんなに大きく、大人になっていたんだろう。

2016-09-03 22:57:12
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

以前聴いた、兄の言葉を思い出していた。「あいつはお前のことを大切に思っているよ」と。それがようやく、真にわかった気がした。

2016-09-03 22:58:04
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

そろそろチョロ松と弟が、二人でベッドで眠る頃。

2016-09-03 23:30:05
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

そろそろおそ松が、夕方とかわらない格好のまま、煙草をふかす頃

2016-09-03 23:55:19
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

チョロ松のことが好きだと、思う。あいつが他の誰かと眠っていたとしても。それでも。未だに。なんでだろうなあ。なんで、うまくできなかったのかな。

2016-09-03 23:56:04
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

嫌いだなんて。大事なことは一度も言えなかったくせに、心にもないことを言ってしまった。あいつはどう思ったろう。悲しんだだろうか。傷ついただろうか。案外何も感じていないかもしれない……どちらにせよ、きつい。

2016-09-03 23:57:12
こじらせていたリーマン @ro1xrc3

それでも……ひどいことをしたと思う。最初からこんな関係をずるずると続けていたんだ。俺は、自分で想像している以上に、きっと最低な人間なんだろう。

2016-09-03 23:58:04
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