こじらせたリーマン20160919-20160924/こじらせていたリーマン20160924-20160925
- tsutsujishika
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劇場の奥から「松野さーん」と呼ぶ声がする。兄はああ、じゃあまた今度な。と言ってひっこんでいった。なんていうか、『好き』を満喫しているなあと思った。社会人になっても、時間を見つけて趣味に打ち込んで。成果を出して。
2016-09-19 18:20:07「じゃー今日は何食べる?」 「……そば?」 「なんでそこでそば?僕お肉がいいー」 「聴いたのおまえだろ!?」 ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、僕らは劇場を後にした。
2016-09-19 18:21:01じゃあお店調べようか、と取り出したスマホを弟に見咎められた。 「ちょっと待って兄さん、ラインなんていつ始めたの?」 「え?結構前に」 「なんで教えてくんないのぉ!?兄さんだけメールでやりとりすんのすっげーめんどいんだから!貸して!ID登録するから」
2016-09-19 18:26:02そのまま、ぱっとスマホを奪われる。元々アニメのスタンプ目的で始めたものなので、登録されているのはオタ友二人と、あとはー……。
2016-09-19 18:27:02「ん、このおそ松って人……」 この前メッセージを送ろうとしてそのままにしていたから、真っ先に彼との会話の履歴を見られた。ああ、くそ。 「……この人が例の?」 「……うん。」 「何、この、『ごめん』って。」 嘘をついてもしょうがないので、事情を言うしかなかった。
2016-09-19 18:28:00てきとうにしらべて、よさそうなところに入った。どちらかといえば魚料理がメインらしい。結局肉でもそばでもないけど、内装がおしゃれなせいか弟は満足していた。自慢は締めの炊き込みご飯だとか。とりあえず適当にメニューを頼む。弟は未成年なので酒は無しだ。
2016-09-19 19:02:06「んで。兄さんはまだおそ松って人のこと好きなわけ」 注文したジンジャーエールを飲みながら弟が言う。 「……うん」 「あんだけ泣かされたのに?ばかなの?」 「だよね……」 「新しい恋でも見つけたら?」 「無理……」 「重症だね~」
2016-09-19 19:03:06弟はおざなりに言って、今度はお通しのホタルイカの塩辛に手を付ける。 「でもさ。そんだけやっといて告白はしてないんでしょ」 「うん」 「変なの。言えばいいのに」 「何て思われるか分かんないし」 「そんなの関係ないっしょ。スパっとフラれたら案外ふんぎりついて忘れられるかもしれないよ」
2016-09-19 19:04:05「気軽に言うなあ」 「だって他人事だもん。それにさあ、言っちゃあわるいけど、兄さんはヤりまくりのビッチだってことになってるんでしょ?」 「声が!でかい!……ヤりまくりとは、言ってないし」
2016-09-19 19:05:04「どっちだっていいよ。つまりさあ、もうあっちの評価は最低なわけじゃん。そしたらもう、これ以上マイナスになることなんてなくない?だったら気持ち黙ってるより、言った方がいいと思う」 ちゅるん。塩辛を食べ終えて、弟は器をテーブルに置いた。
2016-09-19 19:06:03「嫌がられたり、しないかな」 「今更そんなこと怖がってんの?ってか、それで嫌がられるくらいならとっくの昔に嫌われてるんじゃない」 「うう……」 「だとしたら逆に都合いいよ。もう何したって損になることはないんだから。ついでにビッチだっていうのも嘘ですって、正直になっちゃえば」
2016-09-19 19:07:04本当にこいつ、ドライだなあ。あの夜こそ優しく慰めてくれたけど、普段はこういうやつだ。こっちのほうが一緒にいて丁度いいけれど。
2016-09-19 19:08:01「なあ、僕の分も食べる?」 塩辛を差し出すと、弟はいいの!?と喜んだ。どうも気に入ったらしい。 「……言っても、いいのかなあ」 「いーよ、僕がゆるすー」 口を動かしながら弟が言う。もにもにと動く唇がまるで小動物みたいで、こういうところは確かに可愛いなと思った。
2016-09-19 19:09:03いつものミルクティーを買おうと自販機に行ったら、おそ松がいた。おはよう。挨拶を交わして、小銭を入れてスイッチを押す。チャリン、ピッ、ガチャン。なんとなく、おそ松が僕を見ている気がした。取り出し口から、缶を手に取る。
2016-09-20 08:30:05「……僕さ」 「うん」 「いつも、このミルクティー、買ってるんだ」 「うん……知ってる」 顔をあげて、目が合う。なんでそんなに、眩しそうに僕を見るんだ。
2016-09-20 08:31:08「……好きなんだよね。……この、味が」 「そっか」 ……ああ!もう!なんて言ったらいいんだろう!嫌われてるかもしれないのに、あきれられてるかもしれないのに、こいつが纏う空気がどうしたって柔らかいから、もしかしたらなんて思ってしまう……!
2016-09-20 08:32:10「なあ、チョロ松」 「うひゃっ!?な、なななな、何」 「いや何そんなビビってんの」 「べ、別に何も!?」 「そ、そう?ほんとに?」 「うんうんうん、すごく元気だし」 「ならいいけど、あのさ……」
2016-09-20 08:34:02「あ、明日は」 いや、待って。そういえば、兄さんと食事の約束をしてて……。でもそんなのいつでもできるし、断ってしまえば、ああ、ええっと、どうしよう、どうしよう!!!!
2016-09-20 08:37:03