脳髄パフェ#2 甘味の向こうへ◆2（終）

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＿脳髄パフェ#2 甘味の向こうへ◆2

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＿甘味、そして静寂。シンプルな世界にカルーは漂っていた。目を閉じたように遠近感のない闇の中、舌の感触だけが熱く、冷たい。 「確かに絶品だ……いままでこんなデザートは食べたことがない」 　レミウェの姿は見えない。代わりに誰かの声。 41

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『苦しい……助けてくれ……』 「俺を呼んでいるのか？」 　目を凝らしても闇の中何の存在も確かめられない。 『もういやだ……僕は……』 「待ってろ。助けてやる」 　ノイズだらけの不確かな声。だが、確かにどこかで聞いたことがある。 42

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＿突然目の前に、ぼんやりと光が現れる。テーブルの上。小さな円で区切られた光のステージ。中心にはクリームのたっぷり乗ったコーヒー。 『サービスですよ』 　そう書かれたメモが挟まっていた。コーヒーを手にとると、次第に周囲の闇に光が満ちていく。 43

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＿声が聞こえる。 （アイツは俺の苦しみを分かっているんだろうか） 　いつかの自分の声。 （こんな小さなことも話す機会がなかった） 　苦しみや、悲しみや、心の毒が甘味に変わる瞬間を覚えた。思い出すのは、もう一つの甘味。 44

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＿声が聞こえる。 （僕の歌はそれほど大したものじゃないのに、いつまで夢を見ているんだ……僕は） 　聞きなれた声。しかしその思いは、初めて聞いた。 （アイツも、苦しみを甘味に変えていたんだ。俺以上に、アイツはアイツのことを分かっていたんだ） 　闇が次第に晴れていく。 45

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＿視界が開けていく。カルーは馴染みのカフェの席に座っていた。レミウェの店ではない。見慣れたセピア調の内装。目の前には空になったパフェのグラスと、飲みかけのクリームコーヒー。向かいに座る男。 　カルーは目を細めた。静寂が次第に人々のざわめきに切り替わっていく。 46

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「やぁ、俺たち、化かされちまったみたいだな」 　向かいの男がゆっくりと目を開く。寝ぼけているようだ。目をぱちくりさせて、カルーの顔と、自分の目の前のパフェグラスを交互に見る。 　店内BGMが切り替わる。だが、それは彼の作曲した音楽ではない。 47

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「すまなかった……」 　幼馴染はカルーの顔を見て、全てを悟ったようだ。窓の外から真夏の暑い日差しが差し込み、冷えていた身体が急に熱を帯びる。汗が滲み、冷たいものが恋しくなる。 　カルーは幼馴染に向かって身を乗り出した。 48

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「俺たちは話をしなさ過ぎたのかもな」 「そうかもね」 「話をしようじゃないか」 　幼馴染は思案するように宙を見る。 「何を話せばいいんだろう」 　カルーの横顔を熱い太陽が照らした。 「何でもさ」 49

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＿幼馴染はウェイトレスを呼び、二人分のコーヒーを注文する。 「コーヒーが尽きるまで話そう」 「ああ、しかし……」 　眩しい青空を見上げたカルー。 「この店は全然冷房が効いていないぜ」 50

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＿脳髄パフェ（了）

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【用語解説】　【パフェ】 生クリームをふんだんに使用した非常に人気のあるデザート。フルーツは南部森林地帯から輸送しなくてはいけないため大抵はシロップ漬けの瓶詰を使用する。製造過程にいくつか魔法を使うため少々高い。辺境では相当貴重なもの

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【次回予告】 商人のミケルは最近楽しみを覚えた。それは、ナイフで削る木彫刻。そして彫刻を買ってくれる青いワンピースの女性。ミケルは彼女に救われるが……？　過去作の加筆修正版です 次回「蛙の鳴く夕暮れ」 全30ツイート。実況・感想タグは #減衰世界 です