#ダークエルフ王国見聞録　その６

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

引橋を渡って入って二郭には、石を積み上げた台に丸太を組み上げて作られた木の家屋が据えられた家屋が立ち並んでいる。各戸の入口には庇が設けられ、また石で組み上げられた煙突や竈の排煙口などが設けられている。屋根の上には蔦や草が茂る家も多い。 #ダークエルフ王国見聞録

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この環濠の外にもいくつか住居が見えるが、ほとんどの住人はこの郭や腰郭の中に住んでいる様子だ。集落の中の道は綺麗に掃き清められており、道沿いに配置された石造りの簡易な溝が雨水などを郭の外にある水濠へと排水するようになっている。 #ダークエルフ王国見聞録

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引橋を渡って環濠を越えると、ダークエルフの兄弟を短い銀髪の女性が迎える 「お姉ちゃん、ただいま！」「・・・ただいま帰りました、姉上」 「お～、お帰り、弟達よ。狼達もちゃんといい子にしてたかな～？」 狼達は尻尾を振ってその女性にじゃれ付いている。 #ダークエルフ王国見聞録

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ここで里までの案内をしてくれていた兄弟と別れ、私は女戦士に先導されながら集落の道を進む。道は一旦開けた広間へと至り、そこから北側に進んで堀をまたぐ橋を再び渡り、集落の主郭に入る。この郭には数軒の家屋といくつかの土蔵のみが認められた #ダークエルフ王国見聞録

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この主郭の、そして集落の最北端に位置する大きな屋敷が里長の館であった。Ｌ字型の概形である里長の館は他の家屋よりも基礎の石積みは高く、入口には熊鷹の意匠が縫いこまれた赤色の旗が吊るされている。 「里長と家長達が待っておられる。さぁ、入るがよいぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

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石垣の合間に設けられた短い階段を上がると、板敷の間にダークエルフの女性達が両側に並んで座っており、中央の奥に長衣を着た銀の長髪の女性がゆったりと煙管を吸っている。その女性がこちらに気付き、私に告げる 「あら、お待ちしておりましたよ、ニンゲンの学士殿」 #ダークエルフ王国見聞録

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「我ら“山を覆う翼の熊鷹”の氏族に連なる者。この里は我らが氏族の里の一つで、私が里の長を務めております。遠路はるばるようこそお越し下さいました」 私は板敷の間に広げられた絨毯の上に座り、招待への礼を述べ、贈り物として上等の煙草一斤、肉桂粉百匁を差し出す #ダークエルフ王国見聞録

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感謝の言葉に続き、何故この里に招いてくれたのかを尋ねる。里長の説明によれば、なんと村史の編纂を頼みたいとのことである。無給ではあるが、この里での生活や特産の品について色々と調べて構わないし、生活の面倒も見てくれるという私にとっては破格の好条件と言えた。 #ダークエルフ王国見聞録

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「二年前くらいですか、女王陛下からのお触れが族長を通じてこの里にも届きまして、何でも王国の正史を編纂し、各部族の風俗や産物についても記録を残されるとのこと。我らが種族は野蛮などと他種族に言わせておくのも口惜しいとのことで・・・」 里の長は続ける #ダークエルフ王国見聞録

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「族長様からも出来るだけ早くに記録を提出する様にと言われていたのですが、なにぶん初めてのことで適任者も分からないもので・・・。東の里には王都の大学出が居るらしいのですが、他所の里とあまりに見劣りするものも出したくないですし、困っておりました」 #ダークエルフ王国見聞録

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そのような状態の時に、私が密貿易に来ていたダークエルフの少年達に渡した手紙を読み、これはちょうど良い人材が手に入ると里長は考えたらしい。私は史学の専門家ではないが、記録を残すという作業に関しては専門家であり、その任を引き受けたいと申し述べる。 #ダークエルフ王国見聞録

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「あら、お引き受け下さると。それはありがたいことですわ。こちらも色々と手間が省けました」 にっこりと美しい顔をほころばせながら、里長は集会所の隣室に何かの合図を送る。すると、短弓を手にした女戦士達やローブを着た魔導師が物言わず現れ、家長達の列に加わる #ダークエルフ王国見聞録

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物騒なところに来てしまったという後悔も胸中に去来しつつ、先ずはこの里での調査が可能になったことが大変に嬉しい。辺りを窺うと、左右の列のダークエルフの女性達はあるいは好奇の目で、あるいは警戒の目でこちらを見つめているようである #ダークエルフ王国見聞録

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「さて家長の皆様、事前の会議で相談した通り、このように決まりましたので、この学士殿に色々便宜を図って頂きますよう、お願いしますね。」 隣に控える女性が煙草を詰め直した煙管を手に取り、一口吸ったそれを列席する家長達に回しながら里長はそう伝える #ダークエルフ王国見聞録

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「居候先はどうしましょうか？この館に近い方が仕事の便利がよいでしょうし、するとこの郭に家のある者・・・そうですね、郷士殿の家がよろしいのでは？」 「分かりました。お引き受け致します」 左の列の奥ほどに控える銀髪の女性が座礼をしながら応じる #ダークエルフ王国見聞録

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気が付くと居候を引き受けてくれた女性の後ろに立って控えていた先程の女戦士が睨むようにこちらを見ている。こちらが視線を返すとさも気に入らんとばかりに別の方を向く。羽で彩られた煙管が座を一回りすると散会となり、家長達は里長の館から退出していく。 #ダークエルフ王国見聞録

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残ったのは里長と先程の家長の一人である女性、そして女戦士であった 「ええと、ニンゲンの学士殿、私はこの里の戦士達の長を務めております。これは私の娘でして、母子とも学問とやらはよく分かりませんが、よろしくお願いしますね」 おっとりとした口調で彼女は語る #ダークエルフ王国見聞録

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「ほら、貴女もちゃんと挨拶しなさいな」 郷士の女性に促され、女戦士も複雑な表情を浮かべながら今回はこちらの握手に応える 「里の客人であれば、相応に礼は尽くす。氏族の大事でもあるし、よろしく頼むぞ」 挨拶の後、ダークエルフの母娘に彼女らの家へと案内される #ダークエルフ王国見聞録

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里長の館から少し南側に行ったところに女戦士の家はあった。他の家屋と同じく石積みの基礎に丸太を組み合わせた家屋であり、ローズマリーの生垣に囲まれた裏庭の菜園には洋梨や甘果桜桃などの果樹も植えられている。菜園は丁寧に世話され、様々なハーブが青々と茂っている #ダークエルフ王国見聞録

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「さぁ、どうぞお上がり下さいな」 女家長に促されて彼女の家の中に入る。建物内部の壁は漆喰のようなもので固められ、煉瓦造りの暖炉や竈、黒木で作られた机と椅子、長火鉢や石臼などの家具が見える。先程の里長の館と同じく、どうやら入口で履物を脱ぐ習慣らしい #ダークエルフ王国見聞録

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靴を脱いで板敷の間に上がり興味深く周囲を眺めていると玄関先からパタパタと足音がしてくる。振り返ると、襟や袖を青に染め、刺繍が施された白い貫頭衣を着た少女が家長の後ろに隠れる 「お母様、お姉様、この人ニンゲン？誰なの？」と少女は二人に問う #ダークエルフ王国見聞録

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この家にしばらく厄介になる者でダークエルフの生活について調べている者であると説明する。よく分からないという表情の少女であるが、鞄から布袋に入れられた金平糖を渡してあげると、その鮮やかな色を見て喜び、また口にしてその味に瞳を輝かせる。 #ダークエルフ王国見聞録

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その後、荷物の整理をしている内に夜の帳が下り、蝋燭が灯される。女戦士の母が夕飯を用意してくれ、彼女達は信ずる異教の神に礼を述べてから食事を始める。私も机の上に並べられた茶鱒の塩焼き、野菜の酢漬け、炒めた玉葱の入った蕎麦と高黍の粥を頂く。 #ダークエルフ王国見聞録

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食後、湯で絞った布で体を清めると、旅の疲れとくちた腹のせいか既に眠気が襲ってくる。家長にそう告げると、部屋の隅に藁を詰めた敷布団と身を包むための毛皮を接いだ布を用意してくれる。 「眠る前にこれを召し上がりなさい。よく眠れますよ」 #ダークエルフ王国見聞録

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女家長にそう言われ、受け取った素焼きの腕を満たす澄んだ薄緑色の温かい飲み物を口にすると、独特の澄んだ甘味と爽やかな酸味が鼻を抜ける。なんとなく体も温かくなったように感じ、私は礼を述べて毛皮に包まった。外では金目梟がポポポ・・・と鳴く音が聞こえてくる #ダークエルフ王国見聞録