#ダークエルフ王国見聞録 その6

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) その1のつづき 行商の兄弟の案内でダークエルフの里へ ダークエルフの女戦士とであう 続きを読む
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

旅支度を整えたダークエルフの兄弟から、巻かれた羊皮紙を手渡される。以前に彼らの村長に送った手紙と進物への礼、兄弟に村までの案内をさせること、調査は許可するが詳細は里にて説明すると書かれている。 紫髪の少年に口添えの礼として幾許かの銀貨を手渡す #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 15:54:08
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「いや~、旦那、そんなつもりじゃなかったんだけどね~」 嬉しそうにマントを開き、腰に吊り下げた革袋に銀貨を入れながら紫髪のダークエルフの少年は笑みをこぼす。 とにかく彼らの案内が今は頼みであり機嫌が取れるならそれに越したことは無い #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 15:54:49
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

二人のダークエルフの少年に先導されながら、街道外れの祠から森で覆われた山道を進む。獣道であろうか藪の中に細い道が通っており、彼らは苦も無く進むが、一介の学士である私には歩きづらい。所々の分かれ道を彼らは迷わず進む。私には見えないが目印でもあろうだろうか #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 15:55:15
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

森の中の山道を登り、稜線に出ると、今度は北西へと彼らは進む。彼らは今年の鱒漁や野苺の話をし、私はこれまで調べてきた異民族の習俗などについて語りながら歩んでいく。稜線から降り、大きな湖と対岸に広がる湿地帯が見える平地に着いた頃には昼過ぎになっていた #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 15:55:55
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

この湖岸で休息を取るということで、適当な石に腰かけ、宿屋の主人が持たせてくれた昼飯の包みを開ける。パンにハムとチーズを挟み、主人特製のソースをかけたものである。ダークエルフの少年らはと見やれば、荷物から木の器と小鍋を取り出し、火を熾し始めた #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 15:56:46
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

やはり背嚢から取り出した固形物を沸かした湯に放り込んでいる。見ると乾燥させた鳥の肉と野菜や茸を獣脂で固めたようなもので、そこに調味料を加えてスープにしているようである。このスープと焼き固めた塩味の堅パンが彼らの昼食であるそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 15:58:27
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

サンドウィッチを半分彼らに分け、このスープとクッキーを代わりに分けて貰う。高原の湖畔に吹く涼しい風の中、獣脂が溶けた温かいスープはありがたい。特に美味というわけではなく、乾燥肉や乾燥野菜の食感は寂しいが、塩分とカロリーの摂取には好ましいのであろう #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 15:59:30
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ニンゲンの食べるパンは小麦がたっぷりで贅沢な気がするな」 「・・・ニンゲンの黒パンも美味しいよね」 兄弟の感想を聞き、好物などの話をする。食文化は人間の中であっても様々であるが、どんな種族であっても、食の楽しみというのは共通するのだなと感じる #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:01:50
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

改めて湖面を眺めてみると中々に広い湖であり、高地特有の霧が辺りの湿地を包み始めている。山々と深い森に加えてこの湖の存在が、ダークエルフ王国とその南にある人間の国とを隔てているのであろう。霧の生む幻想さが、私には不安ではなく期待を高めてくれるものであった #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:02:23
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

湖の岸沿いにしばらく歩くと、少年達は藪に隠された葦で編まれた小舟を持ち上げて運び、湖面に浮かべる。せいぜい大人4人が乗れるかといった小舟であるが、ゆったりとした櫂の動きに反し、静かな湖面を滑らかに進んでいく。何かしらの精霊の加護も得ているのであろうか #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:03:53
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

霧が徐々に濃くなっていく中、葦船は対岸にたどり着く。湖岸の葦の中に小さな船着場が設けられており、彼らは杭に葦船を結わい付ける。 「ここからはまた歩きだよ、人間の旦那。木道から落ちないように気を付けてね」 見ると、湿地の中に丸太で作られた木道が渡されている #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:05:05
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

霧の中から時々ノビタキの囀りが聞こえてくる中、湿地の中の木道を歩いていく。晴れ渡っていれば心地の良い環境やもしれぬが、霧に包まれた中、木道を軽やかに歩んでいく少年達の褐色の肌を見ていると、闇の妖精に化かされている様な不思議な気持ちになってくる #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:11:22
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

“ダークエルフの里は瘴気に包まれた暗い沼地の彼方にある”という古の書物の記述はこの霧が漂う湿地を言うのであろうか。そういった伝承が不思議な感覚につながっているのかもしれぬが、ここはキスゲの黄色い花が咲き、ノビタキが囀る生命に満ちた場である。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:11:42
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

湿地を抜けると霧が晴れ、今度は乾燥した大地に、所々に樹木が生え、岡のある草原が広がっている。この草原には馬が通れるくらいの幅で踏みしめられた道が北へと続いている。少年達に続いて歩むうちに、日が沈み始め、道端にある苔むした石作りに祠で夜を明かすことになった #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:12:07
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「僕らは夜闇の中でも進めるけど、ニンゲンの旦那にはちょっと厳しいからね」 そう言いながら、祠の中で蝋燭に火をつけて中を照らす。蜜蝋の燃える温かい光に照らされた石床は綺麗に掃き清められ、奥に祭壇が設けられている。そこには黒木に彫られた女神像が据えられていた #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:19:23
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

それはこれまで見知ったことの無い女神像であり、4本の腕には大きな袋と短刀を持ち、飛竜にまたがっている。人間にとっては邪教の神やもしれぬが、その表情は穏やかであった 「・・・往来と商いの女神様、一晩失礼いたします」 銀髪の少年が膝をついて祈りを捧げている #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:23:58
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

石の床に絨毯を引き、彼らは寝床を整える。夕食は採らずに、茶を飲んで寝てしまうらしい。私もそれに倣い、彼らが淹れた茶を受け取る。ハーブを煎じたものらしく、飲むと落ち着いた気持ちになるそうである。その後、二人は乾いた小枝を祠の入り口付近に撒き始める #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:36:45
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「・・・獣や小鬼への用心です。これを踏むと音が出るので」 銀髪の弟の方が教えてくれるが、彼がこちらにも警戒心を抱いているのは明らかである。少女と見違える美貌を持つダークエルフの少年であり、よからぬ欲望を持つ人間が居てもおかしくないが、私にその趣味はない #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:37:21
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

今日の出来事を手帳に記録し、私も彼らの隣に外套を被って横になる。かすかに虫の声が外から聞こえる中、ダークエルフの少年達の寝息も聞こえてくる。蝋燭の温かい光に照らし出された褐色の肌の艶めかしさに少々ドキリとするが、私も一日歩いた疲れから早々に眠りに落ちた #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:41:32
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

鳥の声で目覚めると、先に起きていた兄弟は祠の外で火を熾し、朝食の支度をしていた。荒く挽いた燕麦を水で粥状に煮て、乾燥果実を練り込んだバターや蜂蜜を加えている。木皿に盛られたそれを頂くと、温かく甘い味が空いた腹に優しく、旅路の活力が湧いてくる #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:46:59
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

鍋や木腕を布で拭い、それを竹筒からの水で洗って背嚢にしまいながら、紫髪の兄が今日の昼過ぎには里に到着するであろうと告げる。 「あと、気を悪くして欲しくないけど、途中から目隠しさせて貰うよ。ニンゲンに里への道を全部知られるのはちょっとマズいしね」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 16:51:04
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

祠に祭られた女神に一夜の宿の礼を捧げ、我々は晴天の下、高原の風が吹き抜ける草原を進んでいく。山中の草原には小川が湿地の方角へと流れ、朝日に照らされた花々の間を虫が舞っている。心地よい朝だ。しばらく歩むと再び山裾に広がる深い森が見えてくる。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 23:04:38
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「・・・じゃあ、ここで目隠しをさせて貰いますね」 私の後ろに銀髪の少年が回り込み、黒く染められた布を私の目に被せ、頭の後ろできつく結ぶ。すると、甲高い笛の音が何度か奏でられ、獣の息遣いが近づいてくる。まさか、彼らに騙され、ここで野獣の糧とされてしまうか? #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 23:05:06
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

冷や汗が強張った背を伝うが、獣の息吹がするだけで特に襲われる様子はない。兄弟に荷物を下ろすよう伝えられると共に、獣の背にしがみつくように言われる。しなやかな少年の手に導かれるまま、温かさと毛の感触を感じさせる獣の背にしがみつく。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 23:07:24
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

とにかく周りが見えないことが不便であり不安であるが、涼しげな空気と木々の葉が風に揺らされる音で我々が森の中を歩んでいると分かった。ダークエルフの兄弟は時折私を背負う獣に語りかけ、側に居てくれることも分かる。ハッハッと獣の息遣いがすぐ近くから聞こえてくる #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-30 23:08:34
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