第14話 エンドウ沖の残火 パート4

脳内妄想艦これSS 独自設定注意 #艦娘化
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ 第14話 エンドウ沖の残火 パート4__

2016-11-05 20:51:21
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

14-4-1「はぁっ…はぁっ…はぁ…」 荒い呼吸の音が、合金の多脚が格納庫の床を踏み鳴らす音で掻き消されていく。 再び次の標的へと狙いをつけ始める蜘蛛を前に、綾波は歯噛みする。 眼、関節、腹部、糸疣、銃器…狙えるだけの場所は狙った。 その何れもが破懐に至らない。

2016-11-05 20:53:20
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14-4-2「兵器としちゃ中々の物ってワケね…」 五十鈴が血痰を床に吐き捨てる。蜘蛛の腹下に滑り込んだ際に、回転の勢いの乗った鉄の脚の一撃を貰ってしまった。 浜風も掠めた銃弾で至る所から血を流しており、雲龍も額は汗まみれ…危険な接近戦を繰り返した事で集中力が切れてきている。

2016-11-05 20:54:18
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14-4-3「弾、まだ持つかよ」 照海が顔の汗を拭い捨てながら傍らの綾波に問いかける。 「まだ、大丈夫です…」 連装砲に次弾を装填。手が微かに震える。 「なら怯えなくていい…落ち着け」 ポン、と綾波の肩を優しく叩くと、照海はリロード中の大蜘蛛に向かって再度飛び込んでいった。

2016-11-05 20:55:25
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14-4-4 蜘蛛は直ぐに動きに反応すると、体の重さに似合わぬ機敏な動きで距離を取り、両刃を巧みに振るって応戦してくる。 「ああもぅ、一人で突っ込むな!」 五十鈴と浜風が直ぐにフォローに入り、クーリングタイムを終えた空間に再び銃撃音が響き始める。 その中に、綾波は入れなかった。

2016-11-05 20:56:27
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14-4-5 不安感が思考力を奪い、心臓は早鐘を打つ。 「(もう…狙えるだけの場所は狙ったのに…どこにも弾が効かない。どこにも…)」 風見がここに来る前に言っていた「弾の効かない相手からは逃げろ」という訓示が頭を過る。 今目の前に居るこの兵器は、それにあたるのではないか?

2016-11-05 20:57:24
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14-4-6 だが、周りの誰の顔を見ても退く様子は無い。 頭に血が上って冷静な判断力を失っているのか? …違う。この場を切り抜けなくてはどうにもならないのだ。 地上へのリフトは敵のすぐ側、更に奥へ逃げ込んでも子蜘蛛が待つであろう袋小路。 冷静な判断力を失いつつあるのは、自分だ。

2016-11-05 20:59:24
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14-4-7「(いけない!)」 綾波は強く頭を振ると、正面の殺戮機械へと今まで以上に鋭い視線を向ける。 「(私が一番元気なのに私がこんな状態でどうするの!考えるのよ、私…)」 綾香の目線で、綾波の目線で、心を重ね、一手を探す。 「(何か見落としは無い?良く考えるの…!)」

2016-11-05 21:00:18
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14-4-8 …本体を撃っても効き目が得られない事は十分理解した。そうなると、撃てる物は限られてくる。柱か?電灯か?或いは物資のコンテナか?…どれも蜘蛛を倒すには直結しなさそうな物ばかりだ。 ならば逆に考えるのだ。この場で蜘蛛の体に傷を付けられそうな物は何か、何かあるか?

2016-11-05 21:01:44
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14-4-9 綾波の視線が、格納庫の中の物に、各々の持っている武器に、そして蜘蛛へと順に動いていく。 そして…遂に『それ』を見つけた。 見つけたのは良いが…綾波はごくりと唾を飲む。 これはどう考えても荒唐無稽な一手だ。上手く行くだろうか?それに、もし失敗すれば…

2016-11-05 21:02:49
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「(上手く…いくのかな…)」 綾波は静かに目を閉じる。お互いに確認するために。

2016-11-05 21:04:48
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14-4-10 目を開けると、そこは月明りと炎に照らされた海の上。 目の前で戦っていた仲間の姿も、蜘蛛の姿も其処には無い。 …無論、彼女が突然ワープした訳でもないし、そもそもこの海は現実の海ではない。 ここは綾香と綾波の心の中の世界。 綾香も、この場所では艦娘ではなく人間だ。

2016-11-05 21:05:02
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14-4-11 綾香がふと横を見ると、綾波が此方を同じようにして覗き込んでいた。 「無理があるかな?この作戦」 『あの日』の姿のままの綾香が、綾波に問いかける。 足元に艦娘としての兵装は着けていないが、ここでは彼女も自然に水上に立っている。 「どうかな…でも、やってみなくちゃ」

2016-11-05 21:06:00
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14-4-12「そうだね…兄さんも皆も、必死に頑張ってる。私達が弱気になってちゃ駄目だよね」 綾香が右手を綾波に差し出す。 「うん、成功させよう」 綾波も右手を差し出し、綾香の手を取る。 「一緒に」 「絶対に」 心臓にへばりついた不安の渦巻きが、晴れていくのを感じたー

2016-11-05 21:08:32
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14-4-13 …最後にもう一度蜘蛛を鋭く見据え、彼女は走り出した。 「兄さん!フォローお願い!」 五十鈴と浜風の前を駆け抜けざま、綾香が叫ぶ。 「綾香!?」 「ちょっと!どうするつもりなの!」 答えを聞いている余裕は無い。眼前に迫る敵を察知し、蜘蛛の射撃口は綾波に狙いを変える。

2016-11-05 21:09:56
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14-4-14「貴方まで全く…仕方ないわね!」 五十鈴と大智が蜘蛛の右ガトリング砲に攻撃を集中、綾波への射撃を妨害する。 ーでは、もう片方は? 走り込んでくる綾波の姿を目にした照海も既に反応し、蜘蛛の節脚から胴体を駆け上がって稼働前の左ガトリングに千切れた配管を突き立てていた。

2016-11-05 21:11:33
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

14-4-15 その間も彼女は蜘蛛に向けて正面から真っ直ぐに迫っていく。手に持った連装砲は、まだ構えていない。 銃撃を封じられた蜘蛛は、照海を狙っていたブレードを引き戻し、今度は綾波に狙いをつける。 「その得物は止められないからな!」 着地際の照海が綾波へ向かって叫んだ。

2016-11-05 21:12:34
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14-4-16 天井付近まで翳された右のブレードが彼女を上から狙う。 「(これじゃない!)」 振り下ろされた刃を、横に跳んで回避。 続けてブレーキを掛けている彼女を低位置を薙ぐ左ブレードが狙う。 「(これでもない!)」 躱す。跳躍でブレードを飛び越え前進、蜘蛛の顔面に肉迫する。

2016-11-05 21:14:23
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14-4-17 既に綾波の位置は大蜘蛛の眼前。機械蜘蛛からしてみれば伸びた前脚の節よりも内側、銃でも刃でも狙い辛い位置だ。 「あの位置で接射を狙えば、いけるかしら…!?」 だが敵もさる者、その程度は想定済みだ。 蜘蛛は綾波の周りをブレードで覆い…抱くようにして手前に引き戻す。

2016-11-05 21:16:39
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

14-4-18 背中側から2枚のギロチンが綾波に迫る。 「まずい!綾香ッ!!」 正に袋の鼠…だが、スライス寸前の状態の彼女の目には、『決意』! 綾波はその状況下でトリガーに指を掛けー 「(これだ!)」 全力跳躍!2枚のブレードを飛び越えて体を捻り、空中で1発、2発、3発、4発!!

2016-11-05 21:17:56
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

14-4-19 1発目は後手に、迫る上側の刃、右前脚の脛節を。 2発目は飛び越え際に、1発目と同じ右前脚の膝節を、上から。 そして3、4発目は着地際…砲を束ね、更に右前脚の脛節を外側から! 跳躍から着地までの僅か1~2秒。 その間に綾波は彼女の『一手』を成立させていた。

2016-11-05 21:20:22