#ダークエルフ王国見聞録 その7

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) ダークエルフの里の夜のはなし 続きを読む
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「眠気覚ましだ、こんな配分でよろしかろう」 そう言いながら火皿に香り付けの薬草を混ぜ込んだ煙草の固まりを押し込み、陶器の中の炭で着火した細い藁束を火皿の中に押し付ける。 艶めかしい唇が銀の吸い口に当てられ、スーッという吸気音がそこから漏れ出る #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-05 22:43:42
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

内側の炎の熱を感じてか火皿の呪印はうっすらと妖しい燐光を放つ。吸気の音からしばらくして、紫煙と共にハァーッというゆったりとした呼気の音が漏れだし、静かな見張り台の中の空気を伝播していく 「夜の見張りの時の一服は格別だ。お前も一服するといい」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-05 22:44:22
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

渡されたパイプを片手で持ち、吸い口から煙を吸う。煙草の煙と混ぜられた薬種の甘さや爽やかさを肺で感じながら、それをゆったりと吐き出す。外の冷たい空気の中で紫煙が静かに拡散し、星々と同じくかすかに揺らぐ大気の中に消えていく。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-05 22:45:06
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

チロチロと燃え続ける雁首の中を確認し、パイプを女戦士に手渡して戻す。それを吸い、煙を吐きながら、彼方を見やりながら彼女は語る 「里長から言われた仕事もだいぶ片付いたのであろう。とすれば、この里から人間の国に帰ってしまうのか」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-05 22:45:28
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

どう答えるべきか逡巡する私の口に彼女は黙って吸い口を押し当てる。そういえば、彼女らの種族にとってパイプの回し飲みは信頼の証しであったなと思いながら、紫煙を吸いこみ、ゆったりと吐き出す。女戦士は毛皮の布を私の肩にも回し、その頭を寄せてくる #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-05 22:45:57
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

火皿の煙草が燃え尽き、微かな白煙を最後に昇らせる。火皿を炭入れの陶器の縁に打付け、かつんという音と共に中の灰を捨てる。今は答えなくともよいということであろう。私はそう理解し、朝日が昇るまで彼女の体温を肩で感じながら一言も発することなく過ごしたのである #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-05 22:47:46

ダークエルフの吟遊詩人

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

収穫祭を過ぎてしばらく経った日の日没、篝火が焚かれた広間に里の者達が集まりだした。広間の中心にはダークエルフの男性二人が置かれた木の台に座っている。一人は十九弦のシタールを指の金具で一弦ずつ弾き、もう一人は木製フルートの接合部の締め具合を調整している #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 15:57:59
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼ら二人は旅の吟遊詩人であり、今昼にこの里へ到着した。娯楽の多くない里ゆえ、里長は喜んで彼らの興業を許し、今宵は広間での演奏会となった。見張りの当番は最小に抑えられ、くじ運の悪い者達が集落の入り口の番に就き、郭の見張り台に上って鋭い耳をそばだてている。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 15:58:38
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「里の皆様、お集まり頂き、大変嬉しく思います。我ら未熟な楽士ではありますが、今宵は是非楽しんで行ってくださいませ」 穏やかな声で礼儀正しく口上を述べる彼らに、里の者達は拍手と歓声で応じる。隣に座る女戦士も、期待に満ちたにこやかな表情を浮かべている #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 15:59:00
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼らが謳い上げるのは、恐るべき火炎の魔龍を討伐する古の英雄譚であった。神代のある夏、王国の北方にそびえる高い山脈から、邪悪な魔龍の一族である火龍が現れた。口からは硫黄毒の息吹と火炎を吐き、溶岩の唾をまき散らし、灼熱を放つ鱗の魔龍であったという #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:00:18
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

詩人が独特の節回しで物語を緊張感たっぷりに謳い上げ、激しくかき鳴らされる弦楽器と笛の音がその怪物の恐ろしさ、森と里を焼き、乙女を喰らう狼藉の凄まじさを表現していく。ここで物語に、王国の始祖となった氏族の英雄達の娘らが登場し、火の魔龍討伐へと向かう。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:00:37
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

高山の万年雪に閉ざされた洞窟の中、黒き女神の御業によって独りでに形作られた魔法銀の剣を探索する旅の苦難、偉大なる始祖達の霊の導き、深き森に棲む古の賢者から授けられた秘術と、英雄譚ではお馴染みである怪物を倒す手段の集積が高まる期待と興奮を以て謳われていく #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:01:04
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

邪悪な火龍の棲家に至った英雄達は美しい踊りと美酒で龍を油断させ、氷河の冷気を纏う魔剣と息吹の毒から身を守る水衣を以て龍に立ち向かい、ついに鋭い弓が龍の眉間に突き刺さり、その怪物は力を失って倒れる。聞き手をハラハラさせながらこの戦を楽器が大いに盛り上げる #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:01:31
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

力を失った火龍は大地の奥底深くで眠りにつき、その臥所の側を通って地上に湧き出る泉は温かく、戦に傷ついた英雄達を癒したそうである。おそらくは、古い世の火山の噴火とその沈静化、周囲の温泉が元となった神話なのであろう。北の休火山のことを考えながら興味深く聞いた #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:02:13
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

演奏が終わり、立ち上がって礼を述べる彼らに一同の拍手が送られ、前に置かれた器に硬貨が次々と投じられ、保存のきく食物も側に置かれていく。一人は二郭にある蜂飼いの家に、もう一人は長弓使いの家に泊まるそうである。そこで一宿一飯と夜伽のもてなしを受けるのであろう #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:03:07
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私はシタール弾きの男性に話しかけ、記録のため色々と話を聞かせて貰えないかと尋ねる。彼は快く引き受け、泊まり先で夕飯を頂いた後に参上すると言う。このダークエルフの男性は、穏やかな雰囲気と物静かな語りをする端正な顔の青年であり、異種族の私にも笑顔で接している #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:03:34
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

夜半、女戦士の家の長机に座り、家長の淹れた茶を飲みながら吟遊詩人の男性と話をする。“黄金と赤銅をまとう山鳥”氏族出身の彼は王国の北辺にある里の出身であり、成人してからは楽器と歌唱の腕を磨きながら旅を続けているそうである。相方の笛吹きも同じ氏族出身とのこと #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:04:26
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼の出身の里は羊や山羊の放牧を行っており、林檎や杏子などが特産であるそうだ。彼と同じく多くの成人男性が里を出て、穏やかな性格の者は詩歌や彫刻、金細工を生業としたり、王都や町の役人になったりすると言う。猛き者は傭兵や武芸者としてやはり流浪するそうだ #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:04:46
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

里の生活について色々と尋ねるついでに、何か他の里とは異なる風習はないかとも聞いてみる。 「そうですね…。どの里でも多かれ少なかれ秘密の交易をしているものですが、実は私の里ではオーガと交易をしていたのですよ。お気に召すかは分かりませんが、聞きたいですか?」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-06 16:05:25
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

女戦士も従軍した北方でのオーガとの戦が物語る様に、神代には魔軍で肩を並べて戦った種族とはいえ、ダークエルフとオーガは敵対する種族であり、言語や文化も大きく異なる。彼らがいかにして交易をしていたのかは非常に興味深く、是非話して欲しいと彼にお願いをする #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-07 00:21:49
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「それでしたら喜んで。とは言え、一応は密貿易ではありますし、北での戦があって後にも続いているかは分かりません。王国の内では他言無用でお願いしますよ」 微笑みながらそう念を押し、吟遊詩人らしく楽器をゆったりと奏でながら彼も従事したという交易の話を語り出す #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-07 00:22:22
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

彼らの里では、夏の季節に、その年採れた羊毛や杏子のジャム、ライ麦で作った蒸留酒などを恐狼達に背負わせ、いくつかの山を越え、北の高山の山腹にある古い祠へと向かう。少年時代の彼もまた交易の品々を背負い、隊列の護衛に就く女性の戦士達と共に山路を歩いたそうである #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-07 00:23:37
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

祠に到着すると、そこに用意された丸太の台に交易の品々を置き、筵を上に被せる。少しから離れた場所で火を熾し、狼煙を上げて交易相手である巨躯の鬼人達に到着を知らせる。そうして待っていると、木々をかき分け、地を踏みしめる重い駆け足が山中に響いてくるそうだ。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-07 00:24:09
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

足音が止んでしばらくすると、合図の角笛が野太く鳴らされる。ダークエルフ達が再び祠の前に戻ると、持参した品々と交換するための金や銀の延べ金や上等の毛皮などが置かれている。その対価に満足すればそのまま受け取り、そうでないならば置いたままにする。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-11-07 00:24:38