少女は、目の前に立ったその姿になぜか安心感を覚えた。そうだ、この背中は。セーレが物陰に身を隠すのを確認した"彼女"は、静かに口を開く。「…久しいな、碧き狼よ」。ゆっくりと構えられた二つの剣は、なめらかな軌跡を描いた。己を睨み据え聳え立つ巨躯さえも貫かんとする、冷たい殺気。25
2015-12-31 17:10:11空気を震わす咆哮と共に、ジンオウガは大地を揺らしながらその距離を詰めた。眩い電撃を纏った爪が、再び彼女の頭上に迫る。「…躾のなってない子は」。細めた瞳は鋭く、その剣はそれぞれ青と赤のオーラを纏って。その巨躯の横スレスレを走る"双剣"は、踊るように。「…嫌いだ」。命を、散らす。26
2015-12-31 17:23:23「―――!」。一瞬の出来事。時が止まったとさえ思えた。力無く倒れ伏した雷狼竜から、殺意はもう感じ取れなかった。「…すごい、…あ」。物陰からその様子を見つめていたセーレだったが、すぐに"彼女"の元へ駆けて行く。「あの、ありがとうございます」。振り返った目は、少しだけ、冷たい。27
2015-12-31 17:35:28「感謝されるほどでは、…っ」。言葉の途中、彼女の表情が歪む。視界が定まらないのか、額に手を添えた。急いで飛び出して来たのだろうか、出会った時に身に付けていた"仮面"はない。だからこそ未だ優れない顔色に少女もすぐ気が付いた。「まだ体調が…でももう大丈夫!薬草、見つけました!」。28
2015-12-31 17:40:08余りの恐怖でつい強い力で握りしめてしまっていたのか、ちょっとだけ萎れてはいたが。「これでもう、大丈夫!」。手に摘んだ薬草を広げて見せながら、セーレは満面の笑顔を浮かべた。それは薬草を無事に入手できた事への喜びなのか、それとも目の前にある"安心感"からなのか。「…お前、…」。29
2015-12-31 17:43:28何か考えるように言葉を切ったが、一度目を閉じると双剣をその背に戻した。「…村に、戻るぞ」。セーレの横をすっと歩き抜けたその背中は、やはりどこか暖かくて。風になびく白い髪に見惚れながら、少女もその後を追う。「はい!…あの、私セーレって言います」。一呼吸置いて。「……ハイドだ」。30
2015-12-31 17:48:19「…ハイドさん…」。その名を、己の声で復唱する。舞うように剣を操り、二度も自分を助けてくれた人。(さっきも、ハイドさんが来てくれてなかったら…)。先も猛毒を受けてもなお。今だって体調も未だ優れぬまま。「…ハイドさん!帰ったらすぐお薬、作ります!」。その優しさへ、感謝を行動で。31
2015-12-31 17:56:06