【深海機巧戦】

雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

地震が発生したかのように、ハワイ島の大地は揺れていた。本営に戻った瑠奈花はすぐに、漣が待機する司令室に向かった。 ｢漣、何があった？｣｢今解析中です！｣ホログラムのレーダー画面には、周囲に4本の柱が付いた、城のような黒いシルエットが見えた。

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｢かなり近くまで浮上してきたので、段々鮮明になってきましたよ。報告書と見比べると、とりあえず深海星鬼とやらとは明らかに形状は異なりますね｣｢そうか…｣ ひとまずは安心だ。星喰いの鬼よりヤバいものなどそうそうあるわけがない。 ｢ただ、この柱。これはまるで海艇砦ですよ…｣

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漣が言った瞬間、目の前のハワイの海から、新たな海艇砦が出現した。ハワイ島のあちこちから動揺の声が聞こえてくる。何しろ…海艇砦が４本現れたのだから。 ｢…うそん｣｢これは…｣漣と瑠奈花は目を丸くした。現れたのは４本の海艇砦だけではなかった。

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正方形を形作るように綺麗な等間隔で並ぶ４本の海艇砦の中心に、巨大な要塞が現れたのだ。漆黒の城壁、天を貫かんとする圧倒的なスケール。そしてそれを象徴するが如く発せられる、邪悪な暗黒面のフォース。これはまだ、歴史の大きな転換点となる戦いの序章に過ぎなかったのだ。

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【深海機巧戦】＃1終わり

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前回までのあらすじ 突如復活したハワイ島と、そこに現れた深界軍。彼らは新兵器、海艇砦を率い、ハワイ島の調査に訪れた雪花艦隊とぶつかった。雪花艦隊はこの戦いに勝利を収め、海艇砦を爆沈させることに成功する。

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だが、勝利は一瞬のものだった。雪花艦隊の前に、圧倒的なスケールを誇る巨大な要塞が出現したのだ。そこにいたのは、人類の常識を覆す存在。深淵の世界に住まう脅威を率いる暗黒卿が、ついにその姿を現す。

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【深海機巧戦】

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｢なんだこれは…｣ 戦いに参加していた雪花艦隊の艦娘達は皆、ハワイ島に停泊したフライトリバティーの甲板に集まり、目の前に現れた巨大要塞を固唾を呑んで見つめていた。その迫力、スケール、或いはあの白亜の巨人をも上回らんとする威容を誇っていた。

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｢まずい、攻撃されてる｣ データパッドと格闘する漣が焦った声を上げた。｢なんか飛んでくるのか？｣天龍が尋ねる。 ｢そうじゃないです。ハッキングです。ネット攻撃を受けてるんですよ｣｢規模は？対象はなんだ｣｢それがですね、信じられませんよ｣

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漣は画面をホログラム表示させ、データパッドを投げ出した。相手の攻撃に対抗するだけ無駄だと感じたからだ。ホログラムには地球儀の映像、そしてハワイ島から、全世界に向けて光の線が拡散していく。 ｢規模は世界中、全ての国の衛星放送をジャックするつもりですよこりゃ｣

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｢世界中だって？こんな短時間でか？｣｢そうです。敵は地上のあらゆるネットワークを数分で掌握するだけの力を持ってる。これを防衛するとなると、あたしが何十人必要になるやら｣ 漣はやれやれと首を振る。やがて、データパッドの映像も自動的に切り替わった。

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そこに映っていたのは、装甲服の上に黒衣を纏った男だった。｢提督、こいつが｣｢…そうだ。現深界軍を統べる、暗黒卿ダース・カイゼルだ。間違いない｣漣の言を鑑みるに、この映像は今、全世界で共有されている。世界中の全ての人々が、これを見ているのだ。

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『…地上の民の諸君に告ぐ』暗黒卿はゆっくりと口を開いた。 『私の名はダース・カイゼル。深界軍の総指揮官である。お前達の多くは私の言葉を信じられないであろう。お前達が深海棲艦をどのような存在と見なしているのか、私はよく知っている。』

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『だが、お前達の認識は間違っている。我ら深海の民は、この星の海の奥底に住まうもう一つの種族。太古の昔、邪悪に染まりし神により生み出され、地上の民により深淵の闇へと葬られた民。深海棲艦は、我らが使役する軍隊だ。』

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『我々はお前達地上の民によって、歴史の表舞台から抹消された。だが、ついに我らが帰還を果たす時が来た。今この時より、私が深海の民を代表し、地上へ宣戦布告する。私の目的は、長き年月により乱れ、分かたれた深界と地上を統一し、新たな世界を築くことである。』

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『このハワイの戦いが、その第一歩。この星に寄生する化石が齎した汚点を精算し、統一戦争の幕開けとする。今日この日が、全ての歴史の分水嶺となる。お前達地上の民に残された選択は2つ。我らの支配を受け入れること。お前達が統一に協力すれば、歴史の汚点を取り除く日も近いであろう。』

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『もう一つ。我らの支配を拒むと言うのなら…』突如映像が切り替わる。映ったのは瑠奈花だった。漣のデータパッドのカメラを通した映像だ。 『今、統一戦争の最前線に立つのはこの男。こいつに地上の命運を託すことだ。この男が抗い、我らを退却させたならば、お前達は僅かに延命できるであろう』

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『地上の民よ、この星はお前達だけのものではない。太古、我ら深海の民が求めた共存の道を、お前達は拒絶したのだ。今、その代償を払う時が来た。事実を受け入れたくないならば、精々この男が我らを負かすことを祈ることだ。お前達の賢明な判断に期待する。では以上だ。』

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『聞いたか、瑠奈花くん』 瑠奈花は今、コントロールを取り戻した専用の回線を通して、横須賀の門川龍興と通信していた。 『ダース・カイゼルの声明を受けて、世界中が大混乱に陥っている。一番慌てているのは、深界の存在を禁忌としてきた連中、闇の勢力だ。こちらも色々慌ただしいよ』

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｢そうでしょうね。そちらも大変なのでは？｣『何、私は表向きは彼らの側の人間として振舞っているから心配ない。むしろ、闇の勢力を炙り出す絶好のチャンスだ。だから頼むぞ』門川は懇願するように感情を込めて言った。

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『地上の混乱は、私がなんとかする。他の国の連中にも掛け合って、可能な限り最善を尽くす。だから、君はこちらのことは気にせず全力で戦ってくれ。奴の言った通り、この戦いが歴史の分水嶺だ。ここで勝てばあとはどうとでもなる』｢ええ、心得てるつもりです｣

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『本当に頼んだぞ。健闘を祈る』門川との通信を切り、瑠奈花は要塞を振り返った。要塞からは1本の鉄の橋がハワイ島に向かって降りていた。深界軍は現状は沈黙を保ち、動く気配がない。 ｢私たちを招いているつもりか…｣今度は、彼の後ろに並ぶ雪花艦隊を見やる。

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彼女らは皆、気迫に満ちていた。歴史を委ねられたというプレッシャーが、逆に彼女達を昂らせている。 ｢みんな、私たちはこれより、あの要塞に乗り込む。そして必ず、暗黒卿を撃退しなければならない。私たちは計らずも、人類の未来を背負ってしまった｣