少女誘拐事件

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シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 許可が下りて視界を塞いでいた上着を取り払うと、現在位置の確認よりもまず先に少女は「もう!」と声を上げた。 「あの二人!逃げたわね!!途中からやけに静かだと思ったら……次に会ったら覚えてなさいよ!」 チッ、とうら若い少女が出してはいけない音を発しつつ、

2016-08-02 22:44:44
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 少女は残る面々に向き直る。 「まぁ、でもあれね。言ったことはちゃんと守ったところは褒めてあげる。だから今日のことはパパには内緒にしてあげ『あの!!クリスさん!!』

2016-08-02 22:45:51
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 『無理を承知でお願いがあるんですけど、あの、あの!一生のお願いですから第二ボタンをぼくにください!!それが無理なら使ってるシャンプー教えてください!!』 「…………は?」 ぎゅうと頭から抜いた上着を握りしめて言う執事に少女は真顔になった。

2016-08-02 22:46:29
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena お前の仕事は「そこは褒めるどころか感謝するところだろう」とツッコミを入れることだろうが。 今日一で何言ってんだお前大賞のMVPをもぎ取った執事はキラキラした眼差しで青年を見上げた。

2016-08-02 22:46:47
銃声 @hai_ena

@applex002 「……舌打ちなんぞするな」 行動や仕草が悉く容姿にそぐわない少女に監視役は呆れた声で告げながらも、最早何も突っ込むまいと心に決めていた。 とにかく大事に至る前に何とか少女を外へ返す──と言ったら何だか語弊があるが──ことができて、浅く安堵の息を吐く。

2016-08-03 00:10:21
銃声 @hai_ena

@applex002 青年は別に賞賛や敬意の眼差しは嫌いじゃない──……筈なのだが、 「な、何こいつ……」 どうしてだか若干引き気味な青年は、やや反応が遅れながらも執事の手から己の上着を引っ手繰った。 袖に腕を通しながら呟く。 「……“一生のお願い”とか言ってるけどさぁ」

2016-08-03 00:11:41
銃声 @hai_ena

@applex002 「それ何回目の“一生のお願い”なの? どうせまた使うんでしょ、そのセリフ」 「先輩……今、それあんまり関係ないです」 少女の発言は始終突っ込みどころ満載だし、何故か執事も先ほどから様子が変だし、先輩も先輩だし。 深刻なツッコミ役不足だ、と補佐役は思った。

2016-08-03 00:12:14
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 『あっ!そ、そうなんですけど!でもクリスさんにお会いすることなんてこの先もうないかも知れないし……だったら、クリスさんへの一生分のお願いを!いま!使い切ってですね!!』 上着を奪われた執事は、止せばいいのに何故か食い下がった。

2016-08-06 22:07:52
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 『だってクリスさんカッコ良いですし、良いにおいだし、ぼく尊敬します!こう、少しでもクリスさんに近づけるように……ダメ、ですかね?』 執事はただ真っ直ぐだった。そう言えば彼がお熱の俳優に合わせた時もこんな感じだったな、と思い出して少女は口を挟むのを止めた。

2016-08-06 22:08:44
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 「……〜するな、って。人の行動をとやかく言いだしたら一気に老けるわよ」 吐き出した溜息は執事に対してだ。くすりと笑って言う少女の父親は彼女の行動に口を出すことの少ない所謂親バカであり(尤も、猫被りの少女が父親の前で口を出される行動をとることがないのだが)

2016-08-06 22:09:40
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 年の離れた男性から注意を受けることは珍しい。それは煩わしいというよりはくすぐったい感覚だった。

2016-08-06 22:09:47
銃声 @hai_ena

@applex002 「…………いいよ」 青年は長らくの間明らかに引いた様子で黙り込んでいたが、唐突にふ、と──彼がよく標的を“欺く”ときに浮かべる──艶のある笑みを浮かべた。 「そんなに言うなら教えてあげる。  君、表通りの大きい雑貨屋さんくらいは知ってるでしょ」

2016-08-07 23:41:36
銃声 @hai_ena

@applex002 「黄色いポップがうるさいやつ。そこで探せば売ってるよ。……髪質に拘るのも大事だと思うんだけど、君の髪なら別に平気なんじゃない? 丈夫そうだし」 青年は手を伸ばしてサラリと執事の髪を指ですかした。 「〝SCOURGE〟──絶対に間違えないで買いなよね」

2016-08-07 23:42:40
銃声 @hai_ena

@applex002 ……と、青年は嘯くが。 執事の少年に教えたそれは真っ赤な嘘である。 拘りの強い青年は雑貨屋でシャンプーは買わないし、少年に教えたのは雑貨屋一売れ行きの悪い商品だ。 どこに需要あんだよこのシャンプー、と突っ込まざるを得ないそれはなんとドリアンの香りがする。

2016-08-07 23:42:57
銃声 @hai_ena

@applex002 下品な連中向けのネタ商品でもあるため認知度はかなり低いが、例え少年がその商品の存在を知ってたとしても嘘は押し通すつもりである。 「……とやかく言うのが俺の仕事だ。暗くなる前に、ガキは早く帰れ」 意地の悪い青年に呆れた目を向けつつ、監視役はふたりに告げた。

2016-08-07 23:43:34
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 「あなたそれ……」 『はいっ!!SCOURGEですね!!わぁ、早速買って帰ります!色々とお世話になりました。ありがとうございます!!』 何かに気づいた少女が話す前に、憧れの青年に撫でられ天にも登りそうな心地の執事が勢いよく頭を下げた。

2016-08-08 00:06:19
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena ……まぁ、彼が良いのならどうでも良いか。少女はやはり口を挟むのを止めて日傘を開いた。 「言われなくても帰りますよー、だ!じゃあね!あなたたちも、精々今日みたいなヘマやらかしてお縄にかからないよう気をつけることねー!」

2016-08-08 00:06:44
シャオイー(小伊) @applex002

@hai_ena 立つ鳥跡を濁さずという言葉があるが、べーっと舌を見せて最後まで憎まれ口を叩きながら少女は大きく手を振った。その横で執事がもう一度礼儀正しく頭を下げる。 そうして漸く、この数奇な運命のいたずらによって交錯した少女と彼らは各々の日常へと帰っていくのであった。

2016-08-08 00:06:58
銃声 @hai_ena

@applex002 「じゃーね」 「……気をつけてね」 日傘を揺らして去って行く少女の背を青年と補佐役とが手を振りながら見送った。 その姿が見えなくなった後、青年は笑みを掻き消してボソリと呟く。 「……………………馬鹿な奴」 その頃監視役は顛末書について考えていた。 …

2016-08-08 00:26:23

シャオイー(小伊) @applex002

傾いた日が長く伸ばした影を追いかけながら歩く。一つの傘の下、影は一つ。 『あの、今更なんですけどお怪我はありませんでしたか?』 「ほんとに今更ね。……無いわ、五体満足よ」 『良かったぁ』 心の底から安堵の息を吐いた執事は言葉にしないが本当に心配したのだ。

2016-08-08 22:51:31
シャオイー(小伊) @applex002

「でも、次はもっとはやく来なさいよ」 『また無茶をおっしゃる。これでもかなり急いだのに』 主人はアルビノであることを除いても見目だけは良い。今回は良かったけど、もっと危ない人攫いに会っていたら。乱暴されていたら。既に街を出てしまっていたら。

2016-08-08 22:53:41
シャオイー(小伊) @applex002

歩くだけでトラブルを引き寄せる天才は心配をさせる天才でもある。と執事は思う。 どれくらい心配したかといえば、それはもうかけたばかりの保険を使ってしまう程に。 『あっ……!』 「なによ?」 そう言えば、極力使わないと約束していた吸血鬼としての力を使ってしまったことへの

2016-08-08 22:54:50
シャオイー(小伊) @applex002

キツいお叱り(と言う名の八つ当たり)も覚悟しないと。とちらりと隣を伺った。 「……だから、何って聞いてるのよ?」 『い、いえ』 忘れているのか、不問にしてくれるのか。とにかく怒っている訳ではなさそうな少女に少年はホッと胸を撫で下ろした。

2016-08-08 22:56:51
シャオイー(小伊) @applex002

「なに笑ってるのよ、気持ち悪い」 『えへへ、なんでもありません。あ!あの、雑貨屋さん「却下」 『……はやくないですか?』 「絶対嫌よ、あんな下劣な店に行くの。あなた一人のときに勝手に行って頂戴」 『えー……今日一日中買い物に付き合ったじゃないですか』

2016-08-08 22:59:11
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