【完結】図書館大戦争(仮)

思いついたはいいけど書いている時間がないのでプロットだけ垂れ流すことにした文アルオールキャラ全員強制潜書大乱闘なんちゃら的なやつ 2017/09/10 完結しました 閲覧ありがとうございます
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シロ@〆最新節済 @siro_xx

あまりにも当たり前すぎて意識していなかったが、生前に扱ったこともないような武器をこうして振り回して真っ当に戦えているのは、この武器が自らの綴った言葉から生まれたものだからだ。文士とは言葉を武器に生きてきた者。つまり有碍書の中で、文士たる己の言葉は戦うための力になるのだ。

2017-09-10 15:18:15
シロ@〆最新節済 @siro_xx

(敵は――僕の偽物は、僕達と同じことをしているだけだ!)有碍書とは即ち本。書かれた文字だけが世界を創造する。(炎を書けば、そこが燃える。ならば――)「火どろは天をこが」「『今宵は雨がふって』」重治は割り込むように別の詩の一節を口にした。「『ついそこの家ではまた蓄音器をはじめた』」

2017-09-10 15:28:31
シロ@〆最新節済 @siro_xx

頬を濡らした水に、蹲っていた賢治は目を開けた。「……雨……?建物の中なのに?」そして歌が聴こえる。幻聴でなければ、少女の歌う声が。霧のような雨に混じり、浦島太郎の童謡が。そしてそのメロディは、刃と刃がぶつかる音によって止まる。賢治は音のした方向を見ようと、苦労して身体を動かした。

2017-09-10 15:38:39
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「――ッ、惰弱な詩を!」偽物は吼えた。その刃を覆っていた炎は雨に流され、既に消えかかっている。重治は刃の先を真っ直ぐ偽物に向けたまま問う。「僕の作品で『燃える』ものはまだあるはずだけど、出てこないかい?」「……」「やっぱり、君は僕の『ごく一部』の写しなんだね」

2017-09-10 15:43:07
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「武器こそ『刃(純文学)』だけれど、君の口からは僕の『詩』しか出てこない。それも僕が思想に傾倒していた頃のものばかりだ」「……」「僕の姿をした君の正体。それは、僕の憤怒の時代から思想と理由が抜け落ちたものだ。どうだろう?当たらずといえども遠からず、ではないかな」

2017-09-10 15:48:25
シロ@〆最新節済 @siro_xx

偽物はすぐに言い返した。「――だったら何だい、そんなことがわかったからって勝った気でいるならっ……おまえは歌」「『おまえは歌うな』」「――ッ!?」偽物は完全に口を閉じた。「そうだね、この詩も君の武器になりえるものだ」重治は完全にずり落ちそうな眼鏡を直しながら続ける。「でも」

2017-09-10 15:58:29
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「この詩は僕の意思の詩だ。力の詩だ。言葉の荒々しい部分だけを並べて戦うだけの君には、使いこなせないよ」「……」重治は刃に左手をかざし、それを本に戻した。「君が望むならば小説家や評論家としての僕で決着をつけてもいいけど」そして再び武器を編み上げる。「僕はもう、これで終わりにしたい」

2017-09-10 16:08:53
シロ@〆最新節済 @siro_xx

重治の手には鈍く光るデリンジャーがあった。「『おまえは歌うな おまえは赤ままの花やとんぼの羽根を歌うな』」銃口がまっすぐに、偽物の重治の心臓へと向けられる。偽物はなお抗おうとしていた。だが、刃は持ち上がらず、それはただその場に立ち続けるための杖のように床を突いていた。

2017-09-10 16:19:56
シロ@〆最新節済 @siro_xx

その場の全員がその光景を見守っていた。詩が、言葉が、一発の弾丸に形を変える様を。「『たたかれることによつて弾ねかえる歌を 恥辱の底から勇気を汲みくる歌を それらの歌々を 咽喉をふくらまして厳しい韻律に歌いあげよ』」雨は止んだ。歌も止んだ。青年の決意の詩が、戦う力となった。

2017-09-10 16:28:34
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「『それらの歌々を 行く行く人びとの胸郭にたたきこめ』」

2017-09-10 16:30:48
シロ@〆最新節済 @siro_xx

パンッ、と乾いた音が響いた。左胸に穴を開けた偽物は、膝をつき、刃を手放した。一本しかない腕で胸の上を掻き毟り、最早力の入らない足の先を震わせ、何かを、言おうとした。「心臓をぬきとったほうがいいかい」本物の問いに偽物は首を横に振った。「君に頼むことじゃない」「……それもそうだね」

2017-09-10 16:38:50
シロ@〆最新節済 @siro_xx

それを最期に、偽物は墨の床へと倒れ込み、消滅した。暫くすると、床を満たしていた墨は油膜に弾かれる水のように居場所を追われていく。やがて元の床の木目がはっきりと現れた。「……ふう」重治は銃を再び言葉へと解きながら顔を上げた。『浄化完了』――見慣れた光が、図書館全体を強く照らした。

2017-09-10 16:48:48

シロ@〆最新節済 @siro_xx

「ここは……」光太郎は目を開いた。虎に襲われて重傷を負い、その後鴎外達に発見されて医務室へと撤退し、ベッドの上で痛み止めを注射されてうつらうつらと意識を手放しかけていたことは覚えている。だが、今見えている天井は図書館のそれだ。手当てを受けたのは夢だったのだろうか……。「光さん!」

2017-09-10 18:25:50
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「賢治さん?……おおっと」「よかった……本の中で虎にかじられたって聞いたから心配してたんだ、大丈夫?」「……あれ」無事を喜んで抱きついてきた賢治を受け止めながら光太郎は気づく。ざっくりやられたはずの場所に触られても傷が開く感覚がない。光太郎は改めて周囲を見回した。他の文豪もいる。

2017-09-10 18:33:52
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「賢治さん、僕達一体どうなったんだい?」「あ」そっか、と賢治は納得したように頷いた。そして光太郎から少し離れ、その顔を見ながら言う。「――勝ったよ!本は浄化されて、全員でこの本を抜けられたんだ!」「全員で……中野さんは?」「あっちにいるよ」賢治は左を向き、光太郎もそれに倣った。

2017-09-10 18:45:35
シロ@〆最新節済 @siro_xx

二人の視線の先には重治の手を握りながら頷く犀星と、それを見守る多喜二と辰雄の姿があった。「そっか。彼も無事に戻れたんだね。よかった」「うん!」「気がついたか」「……!ええ、たった今」近づいてきた鴎外を見上げながら光太郎は答えた。「元気そうで何よりだ。だが補修は受けてくれ」

2017-09-10 18:50:39
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「わかってます。……司書さんは?」「補修室とここを行ったり来たりしている。今は補修室だな。潜書が終わっても意識が混濁しているような侵蝕の深い者から運んでいるようだが、お前の怪我も随分と酷いものだっただろう。動けるからと侮らずに早めに行ったほうがいい」「……そうします」

2017-09-10 19:02:03
シロ@〆最新節済 @siro_xx

鴎外は頷き、その場を去っていった。「光さん、補修室には行けそう?」「うん、怠さはまだあるけど動けると思う。賢治さんは?」「ボクはもう調速機使ってもらって補修終わらせてきたから平気だよ。あっ、そうだ、補修室一緒に行こう!光さんのことはボクが支えるから!」「ありがとう、賢治さん」

2017-09-10 19:12:05
シロ@〆最新節済 @siro_xx

ネコは光太郎達から視線を外し、他を見た。有碍書の中と外で同時に活動したために特に疲弊が激しかった敦も、椅子に座って会話ができる程度には回復したようだ。龍之介と寛がその傍にいて話をしている。(大方、もう一つの人格についてだろうニャ)窓際では潤一郎が一人ぼうっと外を見ている。

2017-09-10 19:17:31
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「谷崎潤一郎。補修はもう済ませたのか?元気がないようだが」「ああ、……ええ、終わっていますよ。いえ、少し、女性の脚について考えていただけです」「……そうか」「ところで」潤一郎は言った。「彼は、今後もこの図書館にいる……ということでよいのですか?」彼、と指すのは龍之介のことだ。

2017-09-10 19:21:05
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「わからニャイ。後で改めて本人の意思を確認するつもりだ」「そうですか。……まあ、あの様子なら残ってくれるでしょう。彼もあれで案外義理堅いんで」「芥川龍之介と親しいのか?」「ふふ……さて、ね。貴方も本の一冊や二冊読んでみればわかるんじゃないですか」潤一郎は肩を竦めた。

2017-09-10 19:28:58
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「そうだ、乱歩さんを見かけませんでした?」「江戸川乱歩か?……そういえば見ていないニャ」「そうですか。荷風先生も春夫さんも補修室にいらっしゃるので、代わりに話し相手になってもらおうかと思ったのですが……仕方がないですね。部屋に戻って休むことにします。少し、疲れてしまいましたし」

2017-09-10 19:35:40
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「調子が戻らないようなら司書に……」「わかっていますよ」潤一郎は静かにその場を後にした。「ねえねえ」入れ替わりに藤村がネコに声をかけた。「中原さんを見なかった?色々聞きたいことがあるんだ」「中原中也なら食堂に移動した。浄化完了祝いだかなんだかで他の酒飲み連中と飲んでいるはずだ」

2017-09-10 19:43:02
シロ@〆最新節済 @siro_xx

「とーそん!取材は後でいいだろ?皆疲れてるんだからさ」「……花袋!補修はもういいの?」「調速機でパパっと終わらしてきた。だから元気にはなったけど……藤村?」「……よかった。本の中で花袋、全然目覚めないから、もしかしたらって」「おいおい、戻ってきてからちゃんと起きただろオレ?」

2017-09-10 19:54:50
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