紅い瞳と白き巨神

第一部、完。 リクエストがあったら続きを書くかも。 なくても、忘れた頃に書くかも(^^) 続きを読む
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夢乃 @iamdreamers

踝まで届く外套の裾を翻して街路を行くイーリャの姿を見ると、皆が声をかけた。 「おはよう、イーリャ。これから舞の稽古かい?」 「誕生日だろ? おめでとう」 「イーリャおねえちゃん、おはよー」 「今日から十六だってな。しっかりな」 #twnovels

2017-03-02 12:29:47
夢乃 @iamdreamers

何故か、街の人々、とりわけ大人達は、イーリャの誕生日が今日であること、そして、今日から十六歳であることを知っているらしい。そのことを不思議に思い(お父さんかお母さんが広めたのかな?)ながらも、道行く人々に挨拶を返しつつ、先を急いだ。 #twnovels

2017-03-02 12:30:10
夢乃 @iamdreamers

舞踏場を、昼前から使う人は少ない。それでも、イーリャが着いたときには親友の一人、カナテが棍を握って舞っていた。 「おはよう。早いね」 陽が届かない踊場に入ってフードと色眼鏡を外したイーリャは声をかけた。 「おはよう。相手してくれる?」 #twnovels

2017-03-02 12:30:36
夢乃 @iamdreamers

カナテは動きを止めることなく挨拶を返した。 「うん」 更衣室に入ると、持って着た着替えの袋と色眼鏡を棚に置き、外套とフェイスヴェールも外して丁寧に畳み、一纏めにする。長い髪を紅いバンダナでポニーテールに纏め、ロングブーツを脱いでサンダルに履き替えてから踊場へ。 #twnovels

2017-03-02 12:31:11
夢乃 @iamdreamers

壁際から練習用の剣を二振り選ぶと、軽く振ってバランスを確かめてから、中央へと進んだ。舞い続けるカナテに合わせて自然にその中に入り込み、両手の剣を振るって軽やかに舞う。棍と双剣の二重舞踏。時折、剣と棍が当たって金属音を立てる。 #twnovels

2017-03-02 12:31:40
夢乃 @iamdreamers

誰も見る者のない中で、真白い肌の少女と浅黒い肌の少女が計算された動きを繰り広げる。二人の身体から汗が散る。カナテの身に付けたアクセサリーが軽い音を立てる。イーリャの髪がなびく。目が合ったときに微笑みが溢れる。 #twnovels

2017-04-22 20:31:29
夢乃 @iamdreamers

どれくらい舞っていたろう。踊場に三人目の人間が現れた。 「あら、セクスリー、昼前から来るなんて珍しいんじゃない?」 舞の動きを止めずに、カナテが言った。 「まあね。再来節にはゼントルノさんが帰ってくる。次に行くときは俺もメンバーに入る予定だから」 #twnovels

2017-03-02 12:32:26
夢乃 @iamdreamers

「少しでも腕を上げておこうってこと?」 「いや、旅に出たら何ヶ月か、場合によっては何年か帰って来られないからね。出掛ける前に、できるだけ皆と舞っておきいたいな、ってね」 「そういうことね」 #twnovels

2017-03-02 12:32:50
夢乃 @iamdreamers

しかしセクスリーは踊場の中には入ろうとはせず、二本の剣を左手に下げたまま、踊場の隅で二人の舞を眺めていた。ひとしきり舞ったところで、二人は舞を終えた。武器を左手に納め、互いの右手を握りしめる。 「どうしたの? 舞うんじゃないの?」 #twnovels

2017-03-02 12:33:56
夢乃 @iamdreamers

一纏めにした黒髪をほどき、頭を振って広げたカナテは、セクスリーに近付きながら聞いた。 「ん? あぁ、二人とも上達したな、と思ってね」 「何言ってるのよ。二つしか違わないくせに」 カナテが軽くセクスリーの肩を小突く。 「でもその歳で師範代だものね。凄いよ」 #twnovels

2017-03-02 12:34:31
夢乃 @iamdreamers

イーリャがフォローを入れる。 「それほどでもないさ。同い年でもっと巧く舞う奴もいるし。それより」 セクスリーは真っ直ぐにイーリャを見つめて言った。 「俺と、手合せしてくれないか」 二人の少女は顔を見合わせた。 「手合せ? って、舞じゃなくて武闘試合ってこと?」 #twnovels

2017-03-02 12:34:54
夢乃 @iamdreamers

「ああ、そうだ」 「何言ってんのよ」 イーリャが次の言葉を言う前に、カナテが横から口を出した。 「イーリャは武闘より舞踏に比重を置いてるの知ってるでしょ? 武闘試合なんて、今までに数えるほどしかやってないじゃないの」 「もちろん、知っているさ」 #twnovels

2017-03-02 12:35:22
夢乃 @iamdreamers

セクスリーは、二人から顔を逸らして言った。 「何しろ、二年前、その滅多に武闘を見せない女の子にコテンパンに叩きのめされたのは他の誰でもない、俺なんだからな」 一瞬、呆気に取られた表情を見せたカナテは、次の瞬間身体を折って笑い出した。 #twnovels

2017-04-22 20:35:10
夢乃 @iamdreamers

「あー、あったあった、そんなことっ 瞬殺ってああいうことを言うのよねっ あんた、ずっと根に持ってたわけ? あー、おっかしーっ」 「そこまで笑うかよ。当の本人の目の前で。恥を忍んで過去の傷を自分から晒しているってのによ」 セクスリーはふいっと横を向いた。 #twnovels

2017-03-02 12:36:30
夢乃 @iamdreamers

「ごめんごめん。あの時のあんたの顔を思い出したら、おかしくっておかしくって。はぁ、しぬぅ。はぁはぁ。でもさ」 なんとか笑いを納めたカナテは目の端を手の甲で拭った。 「あのとき地に這いつくばっていたあんたが今は師範代なんだから、大した成長よね」 #twnovels

2017-03-02 12:36:54
夢乃 @iamdreamers

「這いつくばってはねーよ。尻餅をついてはいたけどさ。それで」 隠しきれていない恥ずかしさを顔に覗かせて、セクスリーは改めてイーリャに向き直った。 「あの時の雪辱戦ってわけじゃないが、改めて俺と手合せ願いたい。頼む」 そう言って深く頭を垂れる。 #twnovels

2017-03-02 12:37:33
夢乃 @iamdreamers

二人のやり取りをクスクスと笑って見ていたイーリャは、自分に向かって頭を下げているセクスリーに言った。 「顔を上げてよ。解ったから。師範代が門下生にそんなことしてるところを誰かに見られたらどうするのよ」 「私が見ているけどね」 #twnovels

2017-03-02 12:38:01
夢乃 @iamdreamers

顔にニヤニヤ笑いを貼り付けたカナテを無視して、セクスリーは頭を上げてイーリャを見た。 「それじゃ、いいのか?」 「うん。別に禁止されてるわけじゃないし」 イーリャはこくりと頷いた。 #twnovels

2017-03-02 12:38:21
夢乃 @iamdreamers

突然『手合せを』と申し込まれた時こそ戸惑ったものの、二人のやり取りを見ているうちに、やってもいいかな、という気になっていた。自分のやってきた舞踏が武闘としてどこまで通用するのかを試してみたくもあった。 「お手合せ、よろしくお願いします」 姿勢を正して一礼。 #twnovels

2017-03-02 12:38:47
夢乃 @iamdreamers

「こちらこそ、よろしく。・・・カナテ、開始の合図を頼む」 「いいけど、勝敗はどう決めるのよ?」 「判りやすい形になるさ。そうならなかったら引き分けってことで。いいよな?」 「うん、私は構わないよ」 イーリャは即座に答えた。 「なら、審判はしなくていいね」 #twnovels

2017-03-02 12:39:21
夢乃 @iamdreamers

カナテが棍を壁に立て掛けている間に二人は踊場の中央へと進み、互いに剣を持った右手を差し出して剣先を合わせた。カキン、カキン、と乾い属音が響く。それから二人とも二歩、三歩と下がって距離を取り、対峙した。 #twnovels

2017-03-02 12:39:42
夢乃 @iamdreamers

セクスリーは脚を前後に開いて体勢を低くし、両の剣先を相手に向けて構える。対するイーリャは、右脚の膝を折って左脚一本で立ち、両手を左上方と右下方へ鳥の翼のように広げる。武闘というよりも舞踏の姿勢。 #twnovels

2017-03-02 12:40:01
夢乃 @iamdreamers

二人の準備が整ったのを見て、カナテは間に立ち、右手を高く掲げた。 「では、セクスリー対イーリャの立会い、一本勝負、・・・始め!」 カナテの口から開始の合図が発せられるのと同時に、その右手が振り下ろされた。 #twnovels

2017-03-02 12:40:32
夢乃 @iamdreamers

カナテの合図と同時に、イーリャは両腕を相手に向けて差し出し、軸になっている左膝を曲げて重心を落とすと、それをバネにして対戦相手に向かって跳躍した。見ているカナテも、対峙しているセクスリーも、あの姿勢から飛び込んで行くとは予想すらしていなかった。 #twnovels

2017-03-03 12:53:47
夢乃 @iamdreamers

しかも、いつの間にイーリャが行動を開始したのかも見えず、気付いたときには二人の距離を半分ほどに縮めていた。いや、それは正確ではない。カナテもセクスリーも、翼を閉じるような腕の動き、背が低くなったかのような腰を落とす所作、緊張した脚の筋肉まで見えていた。 #twnovels

2017-03-03 12:54:25
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