ラスト・ボーイ・スタンディング2017

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重金属酸性雨降りしきるネオサイタマの灰色の空を窓越しに眺め、フジキド・ユミは小さく溜息を吐いた。「疲れているのか」彼女に声をかけたのは、事務机でUNIX作業中のスティーヴン・リーだ。「今回の案件はヘヴィだった。休暇でも取ったらどうだ。俺のほうで報告書はまとめておくよ」1

2017-04-01 00:03:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは伸びをして、黒髪をまとめ直した。「問題無し。むしろ働き過ぎてるのは君じゃない?それに、急な依頼が来るのはこんな時でしょ」「やれやれ」スティーヴンは肩をすくめた。「これ、ここに置けばいい?」段ボールを抱えて入って来たのは溌剌とした女子だった。彼女の名はマスラダ・サキ。2

2017-04-01 00:06:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ。そこに頼む」スティーヴンはあくびを噛み殺し、眼鏡を直す。「今日はそれで上がっていいぞ」「これ。昨日言われたテキスト」マスラダは彼にマキモノを差し出した。「添削してよ」「もう終わらせたのか?」「簡単だった」「本当に弁護士になれるかもな」「何よ、本当にッて!最初から本気」 3

2017-04-01 00:10:07
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マスラダ・サキは大学二年生。彼女はフジキド探偵事務所でアルバイトをしながら、元弁護士のスティーヴンから法学の教えを乞うている。あまり奥ゆかしさは無いが、活発でチャーミングな彼女が働き始めてから、仏頂面だったフジキド探偵事務所のアトモスフィアは幾分和らいだ。 4

2017-04-01 00:13:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「前から気になってたけど、ここにあるボックスの書類って何?」「ああ」フジキドは興味も無さそうに言った。「大した書類じゃないけど、個人情報を含んでいるから捨てられない。触らないでね」「ふうん」マスラダはやや後ろ髪ひかれながら退出する。「それじゃ、上がるね。見たい映画があるから」5

2017-04-01 00:17:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オン!」犬のシルバーが尻尾を振って見送った。マスラダが去ると、フジキドとスティーヴンは肩をすくめ、無言で視線を交わした。マスラダは後ろ手にドアを閉じ、肩に下げたメッセンジャー・バックの中を見た。ナムサン!そこには先ほどのボックスの書類があった。何たる盗人めいて鮮やかな手際か!6

2017-04-01 00:21:09
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否……彼女は盗人ではない。さりとてただの市民でもない。彼女マスラダ・サキにはもう一つの顔があった! 道端の屋台でイカケバブを購入した彼女は、それを食べながら裏道を急ぎ、安アパートの自室に走り込んだ。尾行が無いか確かめ、しっかりとドアの鍵をかけると、壁の黒板パネルに向き直った。7

2017-04-01 00:25:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスラダはアグラをかいて黒板を睨んだ。そこには新聞の見出しの切り抜きや、風景写真、会話する人々の光景、証明書写真、メモ書きなどが張り出され、チョークで縦横に矢印が引かれ、結びあわされている。彼女はたった今失敬して来た資料テキストの写しを取ると、厳かに頷き、黒板パネルに加えた。8

2017-04-01 00:29:20
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「やっぱり……ここ最近のアタバキ・ストリートの殺人・行方不明事件の急増と、若い子の間の妙な転校生の噂話の時系列がシンクロしてる」マスラダはメモ書きを睨んだ。「無数の損壊死体」「黒服?ヤクザ?」「不審死」「忽然と消え失せ……」マスラダは赤いマジックで強く書き加えた。「ニンジャ」 9

2017-04-01 00:32:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤー:【ラスト・ボーイ・スタンディング2017】 pic.twitter.com/XIJfiiJOQX

2017-04-01 00:34:25
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ニンジャ!?彼女は何と書いた!?ニンジャ!それはかつて平安時代から江戸時代にかけて国家をカラテで支配した邪悪な半神達!「ニンジャ……必ず仕留める」マスラダは呟く。邪悪な魂……滅ぼさねば、被害は拡がる!彼女にはもう一つの名がある。ニンジャスレイヤーという名が!「狩りの時間だ!」10

2017-04-01 00:37:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

というわけで、アタバキ・ブシド・ハイスクールに本日配属された教育実習生、イチコ・モリタは早速生徒達の好奇の的となった。これは学校の常だ。自分より少し年上で、年配のセンセイ達と違った初々しさがあり、優しいからだ。「イチコ=センセイ、彼氏いンの?」「趣味何?」「タイプ誰!?」 12

2017-04-01 00:41:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「コラ、お前らやめろ。イチコ=センセイが困るだろう、ねえ?」引率体育教師は生徒を注意しながら、湿った目つきでイチコを見た後、退出した。イチコは……即ち、偽装IDを用いて学校内に潜入したマスラダ・サキは、後ろを向いてしかめ面で舌を出した後、気持ちを切り替え、生徒たちを見渡した。13

2017-04-01 00:44:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あたしが見つけた情報が確かなら、まさにこのクラスに……あいつか!)マスラダは窓際に座っている詰襟制服の美少年を見た。一目でわかった。彼がニンジャである事が!(端正な顔して……その無表情の下に、どんな邪悪を隠しているんだ?)「ええと、それじゃ教科書を開いて……」その時だ! 14

2017-04-01 00:47:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」教室のフスマを破壊し、スキンヘッドのヤンク(不良少年)達が教室に雪崩れ込んできた!「アイエエエ!?」生徒が悲鳴を上げる!「アンタたち!」マスラダはヤンクをカラテで黙らせようとして踏みとどまる。正体がバレてしまう。「アー、落ち着いて」15

2017-04-01 00:50:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤンク達は当然無視!「ヤモトとかいう転校生どこだオラー!」リーダー格はドレッドヘアーの女子!「そこの詰襟!テメエだな!」風船ガムを膨らませ、鎖をジャラつかせる。「アタシはヤマダモ・ハイスクールのショーコ。アタシが刑務所に入ってる間に、ウチの学区で好き放題やってくれたッてねえ」16

2017-04-01 00:54:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「僕は……」転校生がゆらりと立ち上がった。「降りかかる火の粉を払っただけだ。友達がリンチされかかっていたから」「ヤモト=クン……」教室の隅で同級生のアサダが震えた。「リンチだぁ?」ショーコは部下ヤンクを睨んだ。ヤンクは震えた。「ぜったい嘘です!やっちまってください!」 17

2017-04-01 00:58:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ショーコはヤモトを睨んだ。ヤモトは眉ひとつ動かさない。畏れない。「テメエの澄まし面がカンに障るんだよォー!イヤーッ!」ショーコは鎖で殴りかかった。「イヤーッ!」ヤモトは机に立てかけた木刀を取り、弾き返した。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」 18

2017-04-01 01:02:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なッ、ちょ、二人とも……ニンジャ!?」マスラダは想定外の状況に混乱しかかり、反応が遅延した。二人は激しく打ち合いながら……おお、ナムサン!窓を割って共に跳んだのだ。三階の高さだ!「アイエエエエ!」アサダが悲鳴を上げる!「ぼ……僕のせいで……!ヤモト=クンが……!」19

2017-04-01 01:06:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「自習!」マスラダは叫び、自らもベランダに出た。風が彼女の黒髪をなびかせた。ショーコとヤモトは色付きの風めいてぶつかり合い、学校敷地のフェンスを破り、街区へ消えていった。「クッソ……!」マスラダはベランダを乗り越え、跳んだ!「アイエエエエ!センセイ!」生徒達が悲鳴を上げた! 20

2017-04-01 01:10:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女は前転着地で全ての落下ダメージを無効化した。「ッたく走りづらいなァ!」毒づき、タイトなロングスカートを裂いてスリットを作り、全力疾走! ニンジャ痕跡を追跡し、やがてケモチ・ストリートに入り込む。道が狭まるなか、雑多な商店街を走り抜ける! 21

2017-04-01 01:16:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

風が巻き上がり、オープンカフェのテーブルクロスが舞い上がりそうになるのを押さえたのはフジキド・ユミであった。彼女の向かいには、UNIXノートで高速タイピングを行うスティーヴンが座っていた。スティーヴンは作業に没頭している。「……」フジキドは走り去ったマスラダを目で追った。 22

2017-04-01 01:18:56