逆理飛旋①(～5/1)

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 間に合わなかったと形容するのも愚かなほどの、殺戮の後。真白の翼を折り畳み、主は無事かと姿を探すがそれも遅きにすぎた。眩さに半ば惹かれるように、半ば恐怖を覚えながら。 「あなたは……」 幻視してしまった。この世に今在るはずのない姿を――清の気を揺るがす、靄と共に。 #逆理飛旋

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 剣に付いた血を、青年が払う。遠心力で真紅が弧を描いて飛んだ。 背後に降り立つ白龍。彼の纏う混沌の気配に、ざわり、青年の刺すような鋭い殺意が向く。 「……まだ生き残りがいたか。今日は大漁だ」 振り返る。金髪金眼の騎士――を模倣した邪紋使いが、嗤った。 「名は？」

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 少ない言葉から、己以外が皆この青年に殺されたと知る。質量があると錯覚しそうな彼の殺意――混沌が全身を奔り、金の目に炎の色を帯びさせた。 「私はルゥイン。この王領の竜なり」 勝算のないことは明白。それでも抑えられはしなかった。 「貴様の名もその口から聞かせてもらおうか」　→

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 鱗に覆われた手に爪が伸びる。青年が剣を払った際に腕に付着した血は白の腕の上で蒸発し、炭の粉と化した。 「言え――何が故に王の地を侵した！」 研ぎ澄ました爪の狙いを青年に定め、臨戦の構えを取る。

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 「ルゥイン」 名を繰り返す。己の中で咀嚼するように。 それは青年なりの礼儀であり矜持だ。力ある相手には相応の礼節を以て死合う。 「我が名はレオン」 彼の原初の英雄の名を騙る青年は、ルゥインと根本的には同じであることが分かるだろう。 即ち、レイヤーなる者。模倣する者。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 爪を。殺意を。 向けられて尚、青年は揺らがない。 「此処は邪紋使いが多いと聞いてなァ。俺は己の邪紋の完成のために、他の者の混沌を欲する。だから襲った。だから殺した。それだけだ」 握った剣を構えもしないのは、油断ではない。 「何をそんなに憤る？邪紋使いなら誰とて行う事だろう」 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 他者の混沌核を、聖印を得て邪紋は進化する。より昇華する。 これはそのための餌に過ぎない。 彼はそう言いたいのだ。 「……文句があるなら来いよ。ついでだ、テメェも俺の餌にしてやる」 自由な方の腕を上げ、指先で、くい、と合図する。 挑発だ。

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 「レオン――か。私が憤るのは主の仲間の死のため、主の死のため」 成程、強さこそが求められるこの世界で、己を示すのに強さが必要なこの世界で、簒奪に因ってでも力を求めることが、常に悪であると断じる力は己にはない。 「だが」　→

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 王は言った。人を治めるべき力は、覇のみにあらずと。 「私が貴様を許さぬのは、その名で、その姿で――力なき、罪なき者を愚かにも戮したゆえだ、僭主よ！」 "レオン"の挑発自体に激昂を呼ばれることはない、それでも。彼を捉える金色の竜の目で彼を見逃すことなど、できるはずもなかった。→

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 竜の体躯で飛び上がる。上げられた手に向かって、落下の勢いを借りた空を斬る竜の爪の一撃を浴びせんと間合いを詰めて躍り出る。 「は、ッ！」 故郷の村仕込みの体術、その全てを身体に乗せて。偉大な竜神に己を重ね、空間ごとを薙ぐように斬りかかる。

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 「義憤だな」 崇高なる始祖君主の姿を借りて蛮行を働くなと、言われた事は過去にも数知れない。このたった数ヶ月でさえ、もう何度言われたか数えるのをやめたほどだ。 なるほど、間違いない。 己のしている事は、始祖君主への冒涜なのかもしれない。 ――だが、それがどうした？ →

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

邪紋を食らいに食らった強力な邪紋を目の前にしてか、「人」を失ったことへの深い悲しみと怒りか、或いは、再び「独り」「生き残った」咎への非難か。左胸の彫り物が妙に熱を帯びる。今にも破裂しそうに何かが渦巻く。 #逆理飛旋

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 昇竜一閃。ルゥインが飛び掛かって来る。素早く剣を振り上げ、それを正面から受けた。 硬質なもの同士が当たる音が響き、火花が散った。レオンを受け止める地面が砕ける。聖剣はなおも輝いている。 「寝言は寝て言えよ、なぁルゥイン。義憤じゃ俺には勝てねぇぜ？」 嘲笑。挑発。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 「俺達の世界は簡単だ。君主共とは違う。強い奴が勝ち、強い奴に権利がある」 これまで、何度も言われてきた。 紛い物だと。冒涜だと。 その度に、全員を斬り伏せてきた。 「俺が『レオン』だ。俺が一番強いうちは、俺が正義だ」 模倣の先に真実となる。 真実成ったのだ。彼は、『レオン』に。→

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin この身混沌なれば、あらゆる暴虐は力の上に赦される。 「否定したいなら俺に勝ってみせな、主も護れぬ半端者！」 大きく剣を薙ぐ。その身に釣り合わぬ怪力でルゥインを弾き飛ばした。 次いで、ルゥインの眼前。 速い。 一瞬のうちに詰められた距離。上段から、刃が迫る。

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 義憤、か。言われてみればそれに類するのかもしれない。主の領地を破壊され、皆、殺された。真に忠実たる王の騎士ならば、それを憂い怒るべきなのだ。 弾かれた腕に"聖剣"の濃い光が触れる。己のものでないナニかが身体に染みていくような違和感――しかしそれに気を留める余裕は残されなかった。→

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 全力の拳は易々と受け止められ、弾き返され。 「否、義憤ではない」 あの日灰となり、故郷の村は消え失せた。 「私には――私から二度も奪った貴様を、許すことはできんのだ！」 次の攻撃を浴びせようと立て直した隙に弾き飛ばされる。咄嗟に腕で庇っていなければその一撃で死んでいただろう。　→

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 攻撃の重さが骨まで響く。受け身を取りながらも転がされるように地面に倒れ、上段からの輝く白刃に間に合わぬかと一撃を食らう覚悟を決めた、しかし。 私の力でないものが、「煩い」。 「半端者」と呼ばれ、白鱗が発火するかと思うほどに体内で何かが燃え上がる――長い尾がその斬撃を僅か逸らす。→

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 「はん、その正義も未だ、完成をみてはおらんのだろうが！」 避けきれずに骨が数本砕けたかもしれない。それを些末事と挑発に挑発を返し、翼を広げた勢いで立ち上がる。 「……っぐ、ふ……数年前に、私の故郷を焼いたのも、貴様だな」 目に宿る憎悪の色は、己が自覚する以上に顕著な炎を宿した。

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 半端者、という言葉に。 反応を示したのは彼では無かった。彼の胸元――心臓の辺りが白く光り、その光が全身の鱗を伝って伝播した……ように、レオンには見えた。 「へぇ？」 ――コイツ、面白い。 直感する。 彼は半端者ですらない。 この力は、借り物だ。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 白い尾がルゥインの背後から現れ、辛うじて刃の直撃を防いだ。剣先が袈裟斬りに男の胴を撫でる。鱗を傷つけ、服を裂き、肋骨が数本砕ける音がした。 素早く距離を取った白龍を深追いはしない。レオンは挑発に対して冷静であった。 「如何にも。俺の邪紋は未完成だ。故に、高みを目指す」 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 彼の胸元を注視する。服の破片と鱗に覆われ見えにくいが、何か埋まっているようだ。 故郷を、という問いには数瞬逡巡するような態度を見せた。 やがて、答える。面倒そうに。 「あー、どうだったかな……。覚えてねぇや。そういうことも、あったかも？」 本心から、覚えていない。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin 何分多くの人を殺し、多くの村や街を滅ぼしてきた。 「殺した人数は多すぎていちいち覚えてねぇんだよ。悪いな」 憎悪をぶつけられる事にも慣れた。そしてそれを斬って捨てることにも。 「言いたいことはそれだけか？……じゃ、今度はこっちからいくぜ」 切っ先をルゥインに向ける。 →

万象の虹/レオンハルト＠異聞反英雄邪紋 @Leon_granart

@gc_luyin す、と目が細まる。邪紋が輝いた。 「避けろよ？心臓狙うぜ」 突き。 風のように。矢のように。 邪紋による純粋な筋力強化。目には捉えられぬ一刺。高速戦闘の神髄たる一閃が、竜の心臓を狙う――！

ルゥイン(跡地) @gc_luyin

@Leon_granart 「……そうか」 竜神が降らせた雨を全ては記憶しない。レオンもまた、嘗ての殺戮を実際に覚えてはいないのだと態度から即座に理解した。 「ならば、仕方ない」 己を納得させるように頷くと指先は無意識に熱の源に滑り、同時にそこに向けられた視線に気づいた――見られて、いる？　→