#ダークエルフ王国見聞録　その１３

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「わたくし、あまり野蛮な競技には興味はありませんし、せっかくの王都、もっと優雅で文化的なものを見物したいのですが、弓箭の術は我らの種族の誉れ。やはり、矢馳せ馬は観に来ませんとね」 そう言いながら、家人であろう従者に運ばせた胡床を私の隣に置いてそこに座る。 #ダークエルフ王国見聞録

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何かとセラに絡んでくるこの双剣使いと一緒に居るのは、後のセラの反応を考えると少々不安を感じるところであったが、諸々の作法に詳しいようであるので、共に見物することとした。しばらくすると、角笛と陣鐘が鳴らされ、出場する騎手達が入場してくる。 #ダークエルフ王国見聞録

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緋色の胸繋や尻繋から色とりどりの飾り紐を下げた馬に乗ったダークエルフの騎手達は、皮ズボンと絹の上着を手甲や脚絆で口をまとめ、細工の施された銀の額金のある白い細布を頭に巻き、布を後方に長く垂らすと共に、属する氏族名に冠した鳥の羽根飾りを挿している #ダークエルフ王国見聞録

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騎手達が整然と馬を並べると、一斉に下馬して手綱を握ったまま祭壇の方を向く。司祭による祈りの儀式が終わると、神前に供えられていた矢が係りの者達によって五本ずつ騎手達に配られ、騎手達はその矢を押し戴く。その矢は毛皮の腰巻の上に重ねた箙に挿される #ダークエルフ王国見聞録

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一番手の騎手が馬走の入り口に進み出ると、係りの者がその騎手の氏族名と名前を声を張り上げて周囲に紹介する。騎手は観客の声援に応えた後、一の矢をつがえた弓を左手に、鞭を右手に持って出走を待つ。司祭が陣鐘を鳴らすと共に、鞭を強く入れ、馬が駆け出す。 #ダークエルフ王国見聞録

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それまで歓声を送っていた観客たちはシンと静まり、騎手の挙動に注目する。一気に加速した馬の上では、鉢巻の垂れ布や旗指物が風に揺れる中、騎手が弦を引いて射形を整える。的には左右に幕が立てられている為、馬がその正面付近に来た際しかそれを射ることは出来ない。 #ダークエルフ王国見聞録

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疾駆する馬が的に近づくと、騎手は僅かな時間の内で狙いを定めて矢を射る。すると、右手に紐で下げる鞭を再び馬に当て、二本目の矢を背面の箙から取り出して次の的に備える。 ヴゥルペスが説明するには、矢を射る度に鞭を入れるのが作法であり、これを行わないと減点される #ダークエルフ王国見聞録

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徐々に的と的の間隔が狭くなっていく一方で、鞭を当てられた馬は加速していくため、後半の的程、射抜くのが難しくなっていく。また、馬走から馬が外れた者や、水時計で計られた制限時間の内に走り抜けない者は失格とされる。射撃時に独特の掛け声を上げる者も多い #ダークエルフ王国見聞録

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この競技に参加するものは皆優れた騎手であり弓手であろうが、五個の的全てに命中させる上手もいれば、何個か取りこぼしてしまう者もあり、この競技の難しさを感じさせる。十騎程の騎手が競技を終えた後、鉢巻に熊鷹の飾りを挿したセラが控えの馬列から進み出てきた #ダークエルフ王国見聞録

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黒毛の愛馬に乗って馬走の入り口に控えるセラはいつも以上に凛とした表情である。馬上から祭壇に向かって再び礼をすると、係りの者により“山を覆う翼の熊鷹、郷士、カノピウス・パーンセラ”と呼び上げがかかり、陣鐘が鳴らされると、右手に持った鞭を馬に入れて駆け始める #ダークエルフ王国見聞録

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第一の的の正面に馬が近づくと、前傾姿勢のまま的の方を見て、弓を構え、馬の進みに合わせて徐々に背を起こして、的の正面で矢を放つ。この所作の間、弓を持つ手と的を見つめる瞳の位置関係は決してぶれない。ブンッと鋭く空気を鳴らす音がして、矢は的の中央に吸い込まれる #ダークエルフ王国見聞録

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弦を放した右の手を後ろに回しながらその遠心力で手首に下げた鞭をつかみ直し、短く鋭く鞭を馬の尻に当てる。再び鞭の柄を手放し、右手を背から胸へと戻しながら、その過程で箙に挿された矢を、矢尻の方の軸を掴んで引き出し、左手に渡して二の的に備える #ダークエルフ王国見聞録

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二の的でも前傾姿勢から徐々に馬上の半身を起こし、的の正面で背をぴんと張って矢を放つ。二の的、三の的とやはりその中心を射抜き、四の的や五の的ではその中心こそ射抜けなかったものの、惜しい所を射抜き、制限時間に対して余裕を盛って馬走りを駆け抜けた。 #ダークエルフ王国見聞録

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セラはふうっと大きな息を吐いたようで、満足げな表情をして待機する騎馬の列へと戻る。 「あの堅物脳筋女らしい、基本に忠実、質実剛健な射形ですわね。予選突破は確実でしょうけれど、華がありませんわ、華が」 とは、何やら不満げな表情を浮かべるヴゥルペスの評である #ダークエルフ王国見聞録

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出場する計三十騎の内、上位八騎が王城で行われる御前試合へと進むと聞き、私はセラが他の者に抜かれはしまいか、ハラハラして見ていたのであるが、ヴゥルペスが説明するところでは、昨年の優勝者であり、今年も有力である者が二十五番目の競技者として馬走へと進み出てきた #ダークエルフ王国見聞録

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“矢よりも速き鷂、上級百人長、カンプス・スベルヴァリ”と呼び上げが掛かると、群集から一際大きな声援が上がる。その騎手は、ダークエルフには珍しい赤毛の短髪で、身長はあまり高くないように見える。白銀に茶の横縞を象嵌した胸甲の上に薄青の上着をまとっている #ダークエルフ王国見聞録

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陣鐘が鳴らされると、体格の良い灰毛の馬にピシリと快音を立てながら鞭を入れ、これまでの選手以上の速度で馬を駆けさせる。これでは的を捉える時間が短すぎないかと思うが、前傾姿勢から、頭が馬の背に付くのではと思うくらいまで背を反らし、その姿勢で弓を放つ #ダークエルフ王国見聞録

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鞭を返して握り、一度それを高く掲げてから、軌跡は長く、しかしやや緩やかな打ち方で鞭を入れ、グッと身を起こしながら次の矢を素早く取り出して次の射撃に備える。無茶な射形にも見えるが、一の的の中心を正確に射抜き、このことは二の矢、三の矢でも変わらない #ダークエルフ王国見聞録

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矢を放ってから、鞭を入れる前、その鞭を高く掲げてみせるのはダークエルフ達の流鏑馬競技において優美な所作とされるが、同時に時間を争う競技では難しい動作なのだと隣のヴゥルペスは語る。五の的は、敢えて前に屈みながらごく短い狙いのみで放ち、これも中心を射抜く #ダークエルフ王国見聞録

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これまでの競技者たちの中では最も短い時間で駆け抜けたと思われるその騎手は、“鷂”氏族が陣取る観客席の声援に誇らしげな笑顔で応えてから、馬列へと戻っていく。これ以上の上手はこの後には現れず、全ての騎手が競技を終えると、再び下馬して、祭壇へと礼をする。 #ダークエルフ王国見聞録

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司祭によって、競技者達の腕前に増々磨きがかかることを祭壇に祭られた黒の女神に祈願された後、神前において確かな技量を発揮した者として御前試合へと進む八騎の名前が呼び上げられる。そこには、セラの名前もあり、また当然ではあるが、先程のスベルヴァリもあった #ダークエルフ王国見聞録

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散会となり、或いは勝ち残り、或いは敗退した騎手達がそれぞれの氏族の仲間や王国軍の同輩達の許へと帰っていく。勝ち残りを里の者達を中心とした“熊鷹”氏族の者達に祝われているセラの近くまで行くと、馬から下りて駆け寄ってきた彼女と抱擁を交わして左右の頬を合わせる #ダークエルフ王国見聞録

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誇らし気な笑みを浮かべ、 「どうだ、見事なものであったろう！み、皆の前で恥ずかしいが、今すぐにでもお前からの勝利の褒美を貰いたい気分であるぞ」 と大胆にも接吻をねだってくる。戦を含め、勝負事で血が滾るこの種族ならではのことかもしれない #ダークエルフ王国見聞録

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「元よりデカい胸で矢を射るのに邪魔になるかと思っていたが、今度はその胸で異種族の男を捕まえたか？やはり弓箭の腕磨きには妨げであるようだなぁ、パーンセラよ」 そんな時、私達に居丈高な声が向けられ、声のした方を見れば競技で首位であったスベルヴァリであった #ダークエルフ王国見聞録

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腕組みをしながら勝気な表情でセラの前に立つ赤毛の弓使いに対し、ムッとした表情を浮かべたセラは 「おや、足元から何か声がすると思えばスベルヴァリではないか。また軍団にて出世したようだが、背は変わらず伸びぬようだな」 と返してやはり腕を組んで鋭く睨み合う #ダークエルフ王国見聞録