#ダークエルフ王国見聞録　その１３

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

一触即発の事態であろうかと腰が引け、セラ或いはスベルヴァリという女性に、どう声を掛けたものかと思案していると、睨み合っていた二人は同時に吹き出し、高らかに笑い合ったかと思えば、固く組んでいた腕を解き、互いの右手の手甲をぶつけ合ってから、握手をする。 #ダークエルフ王国見聞録

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「息災の様でなによりだ、セラ！しかし、本業は長剣使いとはいえ、男にうつつを抜かして弓が疎かになってはいかんぞ！」 「ははは、余計な心配事をする前に御前試合で本気を出した私に負けぬよう、今からでも更に修練することを勧めるぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

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二人は冗談を交わしながら互いの健闘を誓い合っている。セラが言うには、二人は王国軍時代の知己であり、今では流鏑馬競技での善き好敵手であるそうだ。お前がセラの心を射抜いた男か、果報者めと私の胸を小突いて小柄なスベルヴァリは彼女の氏族の元へ戻っていった #ダークエルフ王国見聞録

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つづく～～

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本日の日中に行われる競技の予選会はいずれも終了したらしく、夜に行われる剣舞や魔術競技の試合までにはまだ時間があるようだった。剣舞の競技には“熊鷹”氏族の代表としてヴゥルペスが出場するそうで、是非見物に、できれば一人で来るよう、別れしなに耳打ちしてくる #ダークエルフ王国見聞録

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セラは流鏑馬競技でかいた汗を洗い流したいとのことで、二人で王都にいくつかある浴場へと向かうことにした。様々な屋台や見世物、辻商人などでごった返す通りを抜け、南門から一番近い“香気溢れる泉”浴場に入った。ここも多くのダークエルフの男女で賑わっている #ダークエルフ王国見聞録

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入口にある番台で料金を払う際、セラは係りの者に何か声を掛け、追加で料金を払った後、何らかの紋様と数字が彫り込まれた木の板を係りの者から二つ受け取る。このうち一枚を私に手渡し、風呂で体を清めた後に係りの者に渡すよう伝えた。 #ダークエルフ王国見聞録

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脱衣場は男女で別になっており、衣服は棚に並べられた籐籠には湯帷子と番号札のついた布袋が入れられている。脱いだ衣服は籠に入れ、湯帷子に着替えると共に貴重品は袋に入れ、脱衣場にいる係りの者に預けると、同じ番号の札を渡され、これを首から掛けて入浴する #ダークエルフ王国見聞録

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脱衣場の次の間には、大理石で出来た横長の槽に清水が流れ込んでおり、ここで桶を用いて体の汗や汚れをざっと流すのが作法である。この奥には、温かい湯を張った大浴場と、蒸気を通した床の熱で敷かれた薬草を温め、その高湿高温の空気を浴びる蒸し風呂とがある #ダークエルフ王国見聞録

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熱を逃さないため、天井が低く、最低限の採光と空気を通すための天窓がある蒸し風呂で汗を書いた後、締め込み姿の三助の少年が運ぶ冷水を貰って（これは無料である）、大浴場へと行く。アーチ型の天井は石英を加工してはめ込んだ広い天窓があり、壁面まで様々な彫刻がある #ダークエルフ王国見聞録

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男湯と女湯の間には、天井に渡された梁から布が下げられており、一応の仕切りが為されている。とは言え、我々とは異なり、ダークエルフ達は混浴に抵抗が無いようであり、湯に浸かりながら観ていると、湯帷子のみを身に付けた男女がしばしば布の間を通って行き来をしている。 #ダークエルフ王国見聞録

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湯から上がって柔らかく解された海綿と石鹸（これは有料である）を用いて体を清めると、セラの言葉を思い出し、三助の少年にこの木札は誰に見せればよいのかと尋ねる。彼は、男女に隔てられた大浴場の中央にある一角を指差し、そこの係りの者に見せればよいと教えてくれる #ダークエルフ王国見聞録

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そこは石組みの小部屋が浴場の奥の壁から５個ほど連なったようなものであり、窓は無く、布で仕切られた両側から出入りできるように二つの入り口がある。係りの者に木札を示すと、それを回収した少年は、そのうちの一室に私を案内してごゆっくりと言いながらまた持ち場に戻る #ダークエルフ王国見聞録

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中は狭い天窓から弱い光が入り、暗さを補うように円柱状に薄く削った翡翠の中で蝋燭が燃やされている。奥には二人程が入れる浴槽があり、薬湯が満たされ、大理石の床の上には布が幾重にも重ねられている。察するに、この部屋は男女の逢い引きに用いられるのであろう #ダークエルフ王国見聞録

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そのように察したは良いが、セラの思わぬ行動に動揺した私は所在無く、隅にある陶器の椅子に腰かけ、美しい翡翠の灯りをぼうと眺めていた。すると、私が入ってきたのと反対の入り口の布が開けられ、何やら手桶を持ったセラが部屋に入ってくる。 #ダークエルフ王国見聞録

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切れ長の瞳に何やら淫靡な光を湛え、薄暗い室内での灯りが、競技で昂ぶった血潮でか上気した褐色の肌を艶めかしく照らす。無言で私の前の床に広がる布の上に座ったセラは手桶に入っていた液体を肩から掛ける。それはとろりと褐色の肌を伝い、よい香りを上らせる油であった #ダークエルフ王国見聞録

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「こ、こ、こういった趣向が好きなのであろう。昼にいやらしい目で戦士達を観ておったではないか。さぁ、存分に組み合うがよいぞ！」 意を決して立ち上がったセラが、顔を赤く染めながら香油に濡れた体を晒し、両手を前にして組打ちの姿勢を取る #ダークエルフ王国見聞録

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ここまで気配りをして貰って何もしないのは流石に申し訳ないので、私も意を決して立ち上がり、双方裸体となって組み合う。柔らかく温かい褐色肌の上に滴る香油が、両者の体温が合わさることで更に芳香を強めていく。 #ダークエルフ王国見聞録

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通常であれば彼女にレスリングで勝てることなどありえないことであるが、彼女が肌を密着させながら仕掛けてくる技はどれも弱々しいものである。セラの意をくみ取り、たどたどしくではあるが、外掛けをかけると彼女は私を抱えたままゆっくりと背から布へと倒れていく #ダークエルフ王国見聞録

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「わ、私の負けであるようだな。ほ、ほら、早く眼前にある勝者の褒美を貪るとよい。今日の私は、血が滾って劣情が抑え切れぬのだ。そういえば、私への勝利の褒美もまだではないか」そう言って私の頬を両手で押さえると #ダークエルフ王国見聞録

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（編者注：学士の記録はこれより１頁程が失われている。学士自らが後に消したのか、写本の過程で教会の批判を恐れて消されたのかは今となっては不明である。この後の展開については読者諸兄の想像に委ねたい） #ダークエルフ王国見聞録

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つづく～

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汗を流すために浴場へ来たものの、すっかり疲れてしまった私と、上機嫌なセラは浴場を出ると、建物の隣にある緑地へと向かう。木立で囲まれ、通りの喧騒から隔てられた緑地には、机や寝椅子が並べられており、入浴後に休んだり食事を取ったりする場となっている #ダークエルフ王国見聞録

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ここで夕食を摂ることにした我々は、せっかく祭りを見に王都まで来ているのであるから多少の贅沢をしようということになった。それぞれの机の上に置かれた菜譜に書かれた料理をセラに説明して貰い、給仕を呼んで料理と酒を注文する。 #ダークエルフ王国見聞録

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葡萄酒と共に、鹿肉を叩いて衣を付けて揚げたものに沢山の茸を使ったソースがかけられた料理、焼いた川魳と白アスパラを酢と香辛料の調味液に付けたもの、腸詰と玉ねぎのスープを食した。流石に王都ともなると、料理も手の込んだ、洗練されたものであると感心する。 #ダークエルフ王国見聞録