折鶴蘭の少女 1~45

創作荘函館オフ会参加者を中心にした小説です。現在不定期連載中。
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

26 言うでもなく、三人は駆け寄った。まず雅が、倒れた人間の傍らに膝を折ってしゃがみ、ゆっくりと慎重に手で触れた。それで初めて、うつ伏せなのが分かった。 「あの……。もしもし……」  軽く揺さぶるが、全く手応えがない。不覚にも手が震えるのを意識しつつ、雅は、首筋に 27へ

2017-05-11 00:20:58
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27 手を当てた。 「脈が……ない。身体も冷たい……」 「そ、そんな……」  藍斗が懐中電灯を落とさずに済んだのは、単に身体が硬直したからに過ぎない。  救急車を呼びたくとも、スマホも携帯も使えない。ホテルに戻るしかない。そこでちょっとした問題があった。まだ死体が 28へ

2017-05-11 00:24:01
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28 誰なのかを確かめていない。身体をひっくり返すのは、それほど困難ではなかった。問題は、法律や衛生の云々ではなく、それが佐宮だった時の衝撃だった。 「みんな……確かめて、いい?」 「えええ……。う、うーん」  藍斗は、さすがにためらった。 「そうね……」  キョーカも 29へ

2017-05-11 00:27:18
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29 さすがに即答出来ない。  いつまでもそのままではいられなかった。ホテルの従業員に知らせるにしろ、詳しい説明をするには最低限の確認がいる。強いて自分に言い聞かせ、雅は、死体の脇に手を差し込んだ。 「よいしょ」  ゆっくりと、うつ伏せから仰向けに替えて、初めて分かった。 30へ

2017-05-11 00:30:34
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30 「男の人だ……」  雅がしげしげと眺めながら言った。 「サミヤンヌじゃなかった……」  藍斗が、腰を抜かしてへたりこんだ。 「よ……くはないけど……」  キョーカも、少しだけ心が軽くなったようだ。 「良く見たら、中年ね」  雅が、死体から手をどけた。 続く

2017-05-11 00:34:16
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折鶴蘭の少女 31 確かに小太りの中年男性だった。背丈は171、2センチか。眼鏡をかけており、外傷はなかった。 「どうして、こんなところで……」  藍斗が口元を右手で抑えつつ言った。 「パッとしない男ね」  相手の反論がないのを良いことに、雅は好き勝手に言った。 32へ

2017-05-11 22:56:49
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32 「なんか、つまらないギャグを自分で言って、自分で突っ込んで荘……」  キョーカも情け容赦ない。 「ダミ声っぽいですよね」  無慈悲に藍斗がしめくくった。もっとも、三人は、本気で死者を罵倒する気はなかった。軽い気持ちを演出して空威張りしないと、心細くて仕方ない。 33へ

2017-05-11 22:59:53
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33 「あの……死因は何でしょう」  知りたくもあり知りたくもなくもあり、しかし、確かめずにはいられない。そんな藍斗の口調だった。 「太ってるし、心不全かな」  雅は推測した。 「ひょっとして……毒か何か……」  恐る恐るキョーカが言うと、一際冷え込みが厳しくなた。 34へ

2017-05-11 23:03:09
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

34 「あ……誰!? サミヤンヌ?」  雅が、突然声を張り上げた。懐中電灯で霧の一部が人の形に区切られている。返事はなく、人影は遠ざかった。 「待って!」  反射的に、雅は後を追った。慌てて他の二人も続く。影は、近づいたかと思ったら遠ざかり、弄ぶように進んだ。 35へ

2017-05-11 23:06:57
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35 先頭を切る雅は、唐突に、額を堅いものにぶつけた。 「痛い!」 「急に止まらないで下さい!」  雅の背中に藍斗がめり込んだ。 「うわっ」  更に、キョーカが雅と一緒になって藍斗をサンドイッチにした。 「ご、ごめんよ、藍ちゃん。大丈夫?」 「はい……大丈夫です」 36へ

2017-05-11 23:10:21
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36 鼻を抑えながら、藍斗は答えた。  雅は、注意深く、手を前に伸ばした。自分を差し止めた品をあれこれ撫で回し、ドアだと悟った。ノブは滑らかに回り、ほんの少し引くと、鍵がかかってないのが分かる。 「皆……開けていい?」  ノブに手をかけたまま、雅は聞いた。 37へ

2017-05-11 23:14:12
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

37 「はい」 「うん」  藍斗とキョーカはほぼ同時に答えた。雅はゆっくりとノブを回し、慎重にドアを開けた。  それで初めて、室内が、ステンドグラスに囲まれた礼拝堂だと分かった。ドアの正面に位置する、一番奥の壁には、十字架がかけてある。そして、本来ならイエスが 38へ

2017-05-11 23:17:44
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

38 磔になっている場所に、一枚の絵が釘で打ちつけてあった。古生物学に詳しい人間なら、何億年も前に絶滅したウミサソリに似ていると分かったろう。もっとも、頭だけは、これも絶滅したカッチュウギョであった。 「え……。どうして、あたしの絵が……」  キョーカは、膝の震えを 39へ

2017-05-11 23:21:51
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

39 禁じ得なかった。 「これ……キョーカさんのご作品なんですか?」  藍斗は、好奇心を抑えられなくなった。 「うん。なくしたと思ってた」 「あれっ?」  雅は、十字架の手前にある説教壇に注目した。一輪の白い花が置いてある。折り紙の鶴のような形をしていた。 40へ

2017-05-11 23:25:31
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

40 「誰がこんなことをしたのかな」  呟く雅の気持ちに、不思議と怒りはなかった。むしろ、どんな思い入れがあったのかを知りたい。 「まるで……絵のお葬式ですね」  藍斗が、目の前に展開する状況を文学的に総括した。 「お葬式かあ。この絵は、人の持つ原初の意識を象徴させたの」 41へ

2017-05-11 23:29:49
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

41 キョーカも、絵が受けた仕打ちより、時ならぬ葬式に関心を向けていた。 「花はまだしおれてないから、つい最近添えたんだね」  雅の観察に、藍斗達も異論はなかった。 「サミヤンヌがやったとは考えにくいですね」  あの、優しく穏やかな女の子は、間違っても他人の作品を 42へ

2017-05-11 23:33:22
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

42 十字架にかけたりしない。それは同時に、先程の死体の生前に、何か危害を加えた人間がうろついている可能性をも示唆した。 「あの……取りあえず、ホテルに戻りませんか?」  藍斗の提案に、雅もキョーカも賛成した。それから礼拝堂を出て、一つ分かった。ホテルがどこか分からない。 43へ

2017-05-11 23:36:30
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

43 闇雲にうろつくのは、どう考えてもばかげていた。 「この礼拝堂……出入口は一つだけだったよね」  雅が言った。 「でも、鍵は最初からないみたいです」  冷静に指摘したつもりの藍斗だが、足も声も震えている。 「一度礼拝堂に戻ろう。ドアに、説教壇を置いておくと良い」 44へ

2017-05-11 23:40:56
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

44 他に思案も浮かばず、一同は再び礼拝堂に入った。説教壇を三人係で抱え、出入口を塞いだ。歩き回り、死体に緊張し、力仕事をしたので、喉が乾く。 「蛇口がないかな」  雅は室内を見回した。 「あれ……」  藍斗が、さっきまで説教壇のあった場所を指さした。蛇口はない代わりに 45へ

2017-05-11 23:44:43
ぞろ目の八ことマスケッター(旧1d6) @hm1d6

45 地下に降りる階段がある。 「ど、どうしましょう」  藍斗が身体を強張らせた。 「うーん……。危険だけど、ここでじっとしているよりはましかも。収穫がなければ戻るだけだし」  まさか、凶悪犯罪者が隠れているのでもあるまい。雅としては、それほど無責任な考えではなかった。 続く

2017-05-11 23:48:03