「200年ぶりの新しい青」への疑問とエジプシャンブルーについて。

『デイリー・テレグラフ』紙が報じた「『新しい青』200年ぶりに発見」という記事について、化学が専門の山猫だぶさんによる検証と、古代エジプトで用いられていた青色について、エジプト考古学者・河江肖剰さんも交えた考察。だぶさんは『月刊化学』で顔料染料から生まれる「色」をテーマにした連載を執筆されています。なので、「青」も何度かツイッターで論じています。
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山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

なるほど。教えていただいて、やっとエジプシャンブルーという物質の素性が見えてきました。理論的な組成のCaCuSi4O10 は表面がザラついた焼結粉体で、ソーダ灰のコンテンツを増やすとガラスマトリックスの割合が増えていき、エジプシャンブルー結晶が分散した青いガラスができるのだと。

2017-05-18 23:30:37
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

ソーダ灰を増やしすぎると最終的に青いガラスになりエジプシャンブルーの結晶はなくなるのだと。んで、エジプシャンブルーの純粋な結晶集合体は粉末にして顔料にするには向くが釉薬にするにはソーダ分を増やしてガラスマトリックスを増さないと美しい光沢が出ないが、肉眼で鑑定するのは無理なのだと。

2017-05-18 23:33:48
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

んじゃ、X線回折実験か、ぶち割って偏光顕微鏡で見れば、エジプシャンブルーかどうか、わかるかな。

2017-05-18 23:36:49
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

ってことは、「エジプシャンブルーのファイアンス」という言葉は曲者で、「エジプシャンブルーは入ってないけど類似組成のカッパーブルーのガラス釉薬のファイアンス」である可能性もなくはない、ということか。なるほど。

2017-05-18 23:39:45
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

これでやっと連載記事が書ける。やったー!ありがとうございます!

2017-05-18 23:42:09
橋本麻里 @hashimoto_tokyo

「エジプシャンブルー」をめぐる化学屋のだぶさん @fluor_doublet と考古学者の河江さん @yukinegy のやりとりが面白い。ついったの醍醐味ってこういうところ。

2017-05-18 23:46:37
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

@hashimoto_tokyo @yukinegy いやー。大変助かりました。ありがたいです。これでやっとエジプシャンブルーとハンブルーの連載記事がまとめられます。最後に、ブルーの釉薬が乗ったファイアンスを割って断面の高倍率マクロを撮って、記事に載せます。でももったいない、、。

2017-05-18 23:51:17
橋本麻里 @hashimoto_tokyo

@fluor_doublet @yukinegy もったいない…ので(けど?)、単行本化の際に大幅加筆をお願いします(笑)。がっつり読みたーい。

2017-05-18 23:53:02
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

@yukinegy @hashimoto_tokyo ありがとうございます!恩にきます!

2017-05-18 23:54:59
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

「新しい青」の記事で、「極めて安定した化合物であるため、色があせることもなければ、毒性もない。」とテレグラフの翻訳で書いちゃうのは、ちょっとまずい気がする。有害性は酸化インジウムに準ずると考えられるので、それに応じた表現のほうがよい。細かい話なんだけれども。

2017-05-19 17:31:20
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

酸化物も含め、インジウム化合物は「ヒトに対する発がん性が疑われる」になってたはず。クレヨンとしての使用は飛散のおそれがない用法であろうが、労働環境でこの顔料を使うことになったら、厚労省は年二回の健康診断を義務付けるはず。 mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9…

2017-05-19 17:35:10
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

そう考えると、ウルトラマリン(ラピスラズリ)の青ってのはいいね。アレは粘土鉱物のケージにトリスルフィドのアニオンラジカルが閉じ込められている色なので、硫黄が色を出していると言ってもよい。有害性はほぼ皆無。

2017-05-19 17:43:37
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

粘土と、砂と、硫黄と、火からできる青なのよ。ウルトラマリンは。重金属も要らない。かごの中に閉じ込められた青い鳥が色を呈する。なんて詩的なんだろう。

2017-05-19 17:48:04
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

エジプシャンブルーのファイアンスビーズをぱっきり折り、その作り方を考えている。どうも、葦のような細い植物質の棒に、微細にした石英粉末に石灰とソーダ灰を混ぜ、その上にもうちょっとソーダと石灰が多く、銅を含む釉薬をかけ、それで焼いているものらしい。

2017-05-21 16:04:37
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

ファイアンスは、いわゆる現在の陶器とは異なり、粘土鉱物や長石類を使っていない。ほとんどが結晶質の石英を原料とし、そこに石灰やソーダ灰を混ぜて焼いている。ガラス質の接着剤で粒子間をわずかに熔着させた石英のやきもの、という表現が適当かな。

2017-05-21 16:07:21
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

わかりやすい写真を撮ってみようか

2017-05-21 16:09:01
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

これが紀元前5世紀ぐらいのエジプシャンブルーのファイアンスビーズの断面写真(直径2.5mm)なんですが、焼結した石英のパイプに、青いガラス質~シンター質の青い釉薬が乗ってます。 pic.twitter.com/PD9PCNC82Z

2017-05-21 16:54:40
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山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

んで、粒度を見ると、穴の周囲は細かくて、さらにその周りが粗くて、そして表面は細かい。んで、有機物が燃え多っぽい茶色いくすみが穴の周囲にあります。そして、釉薬のガラス質の「耳」がビーズ末端に残ってます。

2017-05-21 16:57:04
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

燃え多っぽい→燃えたっぽい

2017-05-21 16:59:38
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

たぶんこれは、一段焼きなんですよ。細い穴が詰まらず、そして耳が残ってるから。ただし、釉薬の銅を含んだエジプシャンブルー釉薬は、すでに焼いたものをもう一回粉にしてそれを使ってるかもしれません。

2017-05-21 17:01:35
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

すごいですね、エジプトではエジプシャンブルーの使用は、第一王朝カア王 (紀元前2700年頃) の時代かららしいんですが、この時代にすでに石英砂をゆるく焼結させ、その上にガラス質の釉薬を乗せ、きっちり温度管理して焼けたんですよね。

2017-05-21 17:05:51
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

正確に言うと、エジプシャンブルーの「物質科学」の文献はかなり読んでるんですが、歴史や考古学の文献を読んでなくて。。。というかどうやって文献検索したらいいか、門外漢なので全くわからない。。

2017-05-21 21:32:28
山猫だぶ㌠ @fluor_doublet

写真を。左から、エジプシャンブルー、ハンブルー、ハンパープルです。エジプシャンブルーは地中海の国々で古くに見出された人類初めての合成顔料、ハンブルーはエジプシャンブルーのカルシウムをバリウムで置き換えたもので、これは独立に中国で作られました。ハンパープルはもっと銅が多いもの。 pic.twitter.com/mM1bcvRzsf

2017-05-21 21:49:43
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