そういえば恩返し的なやつで主人公のところに 「あの時助けていただいた蛇です」 「あの時助けていただいた禽(とり)です」 って同時に来るのはどうかな。
2017-06-10 10:18:06「あの時助けていただいた象です…お嫁に参りました」 「なにを言う!救い主様の妻になるのは私」 「いいや私」 本性をあらわして争いになりそうな気配。 まごまごする主人公。 「でも僕…誰ひとり助けた記憶がない…」
2017-06-10 10:19:35「何の関係もないわけがない。本当の救い主の手がかりが見つかるはず」 「そうじゃそうじゃ。これ小僧。供え物を持ってこい」 「私もです。ほかの二柱よりよいものを」 どっかりとあばら家に腰をすえる女達。とまどう主人公 「え、いますぐ帰ってほしい…」
2017-06-10 10:22:03「おそなえのお餅と果物です」 「うまいうまい」 「この土地はよいものを産するな」 「救い主様と結ばれたあかつきにはここにも廟を立てさせよう」 食欲旺盛に平らげる女達。お盆を持って立ってる主人公。 「いつ帰ってくれるのかな?」
2017-06-10 10:24:23「まあ聞きなさい小さいの。私がある時蛇の裘(かわごろも)を脱いで木にかけ、大河のそばで水浴びをしていると性の悪い猿めが盗んでいったのです」 「ほほ間抜けな」 「おだまり!猿は密林に住むやつらの王に裘を貢ぎ、王めは私に妃になれと脅した」 「そのまま嫁いでしまえばよかったのに」
2017-06-10 10:26:58「そこであらわれたのが救い主様。白く輝くおすがたで手に雷霆を振るって猿の王をこらしめ、裘をとりかえしてくださった」 「さすがは救い主様」 「なんと立派な」 「せめてお名前だけでもとうかがうと、この村のサンディプと教えてくださったのです」
2017-06-10 10:30:40「では次は私。私はもともと捕り手。神殿から女神の首飾りをうばった羅刹の盗人を追って、大空を翔けていたとき、卑劣にも蛇の毒を塗った矢を射られ」 「ほほほ、われらの毒」 「おだまり!地に落ちて苦しんでいたところをお救い下さったのはあのお方。光かがやくおすがた。毒を癒す呪いをかけ」
2017-06-10 10:33:32「羅刹を雷霆でうちすえて首飾りを取り返して下さった。おかげで私の面目もたったのです」 「ああ救い主様。なんと偉大な」 「栄光がおそばにあらんことを」
2017-06-10 10:34:11「最後は私。私は癇癪持ちで、許嫁が無礼を働いたとき、かっとなって象に戻り、足で踏みつぶしてしまったのです」 「おやまあ恐ろしい」 「とんでもないこと」 「おだまり!でもそこへあらわれたのが救い主様」
2017-06-10 10:35:29「私が永遠に償いをするべきところを、救い主様が雨水を手に受けて、つぶれた許嫁にかけると、すぐに生き返ったのです。むこうは婚約を解いて逃げてしまいましたが」 「偉大な救い主さま!」 「生死すら自由になさる」
2017-06-10 10:36:46サンディプがためいきをついて川で洗濯をしていると、一匹の猿が近づいて来る。 「ぼうず。お前の洗っている敷布から蛇の鱗がきらきらと落ちている」 「はい」 「もしや蛇姫にゆかりがあるのか」 「帰ってくれなくて…」
2017-06-10 10:40:51猿は続けて言う。 「我が王はながく病気でな。蛇姫の裘だけがそれを取り除けるのだが、いくら蛇の国に頼んでも貸してはくれぬ。とうとう思い余って一族の戦士が盗みだしたが、邪魔が入った」 「盗むのはよくないですよ」 「分かってはいたが、王の御加減が非常に悪くてな」
2017-06-10 10:42:14「だが王を病にさせた聖仙がかぎつけて、邪魔をした。おまけに王に化けて蛇姫を妃にするなど嘘をついて」 「どうして」 「嫌がらせよ。わしらが聖仙に、命と若さを伸ばす蟠桃をわたさぬからよ。あれは猿の宝」 「たいへんですね」
2017-06-10 10:44:33「蛇のお姫様」 「なにかな」 「裘を貸していただけませんか」 「お断り」 「貸してくれたら、あなただけに救い主様?という人のことを詳しく教えます」 「ふーむ」
2017-06-10 10:46:39いきなり蛇の姫はサンディプの喉を噛む。 「よし。蛇の一族の中でも最も強い毒をお前に与えた。二日のうちに戻ってこなければお前は全身がうみただれて死ぬ」 「えええ!?」 「そら、裘を貸してやる…私をたばかるようなら、覚悟せよ」
2017-06-10 10:48:23サンディプは青ざめながら裘を持ってあばら家を出る。 猿のいる場所へ急ぐ途中、黒い柱がいきなり目の前に立ちふさがる。 「ものごいのサンディプだな」 「はい!?」 「あそこの街でものごいをやっているサンディプだろう」 「はい…」 「家に若く美しい女が三人も来た」 「そうともいいます」
2017-06-10 10:50:38「そのうちひとりが禽の姫だ。人間ではない」 「そうですね」 「知っているのか。では話がはやい。その姫が首飾りを持っているはずだ」 「女神の」 「われはもともと羅刹の一族のもの。人間の王がある聖仙の力を借りて略奪したのだ」
2017-06-10 10:52:31「ふたたび神殿にとりもどしに向かったが、にせものとすり替えられていた。我等に取り戻させぬよう、あの禽の姫が隠しもっているのだ」 「そうなんですね」 「とりかえしてほしい」 「それはちょっと」 「首飾りがある限り、我等の命はその持主に握られているのも同然なのだ」 「あのう…」
2017-06-10 10:54:23「ここに神殿から盗んで来たにせものの首飾りがある。これとすりかえればすぐには気づくまい」 「でも…」 「聖仙のやつめは、我等を身動きできぬようにしたうえで、我等が守護する霊気を放つ山にこもり、苦行を重ねて神通力を高めておる」 「はあ」 「霊気が吸い尽されても我等は生きてゆけぬ」
2017-06-10 10:56:15「でも用事が先にあるので」 「そうか。だが時間がない」 黒い煙のような羅刹が腰帯から鏃を抜いてサンディプの肩を刺す。 「痛っ」 「これは蛇の一族から取引で手に入れた最も強い毒だ」 「二日のうちに死ぬやつ」 「知っているのか」
2017-06-10 10:58:25