サンディプは溜息をついて、あばらやに入ると、梁に止まって寝ている禽の姫のましたをくぐって、ものごいの鉢とぼろを取り出す。 しばらくさぼっていたので、また仕事に出なければ。
2017-06-10 11:36:57外へ出たところで、黒い無数の柱に追われて白い稲光の束がこちらへやってくる。 まばゆい明るさのなかからあらわれたのは白髭の翁 「なんと!きさまがサンディプか」 「はい」 「でたらめに言った名前が本当にあるとは。しかもきさまがわしの邪魔をあれこれしくさったのだな」 「いえ、あの」
2017-06-10 11:38:42「むしろ、生活のじゃまは僕がされているというか」 「ええい貴様を打ち据えてやる」 だが森の中から木の実が雨霰と飛んでくる。猿の群だ。 その向こうには羅刹が腕組みをして並ぶ。
2017-06-10 11:39:43騒ぎをききつけ蛇姫、禽姫、象姫が集まってくる。サンディプはほっとして指をさす。 「この人が皆さんの救い主です」 「おお、いつぞやの娘等か。汝らの敵がわしを苦しめようとしておる。助けてくれぬか」 顔を見合わせる姫達 「思ったより」 「光で分からなかったけど」 「これは…」
2017-06-10 11:43:19「あとは皆さんで解決してください。僕はものごいに行きます」 サンディプがそう告げて立ち去ろうとすると、目の前に白い雷が落ちる。 「逃さぬぞ!!わしの邪魔をした以上は死ぬのだ」 「え、理不尽」
2017-06-10 11:44:38三人の姫はサンディプと聖仙を見比べている。 そこへ猿の王があらわれる。 「聞け!おのおのがた、この救い主は我等の王の命を、聖仙の呪いの病から救うため、蛇の姫から裘を借りてくれた。蛇の姫にはたびたびの無礼を詫び、蟠桃十個を捧げものとして送ろう。どうかお許し願いたい」
2017-06-10 11:47:03黒い柱のなかでもひときわ大きいものがあらわれる。羅刹の長だ。 「この救い主は我等の命のつまった首飾りを取り戻してくれた。禽の姫よ。先に盗んだのがどちらかはあとで必ず裁きの場で明らかにする。だがすべては聖仙がしかけたたくらみなのだ」
2017-06-10 11:48:23麒麟の若者が遠くから歌う。 「僕がふたたび死にかかっていたときに、救い主は蟠桃を与えて助けてくれた。見返りもなく。それに難しい口伝も象の姫に贈ってくれた。でもこれ以上は言えない。僕はもう聖仙の召し使いだから」 「ええい!消えろ!」 聖仙が手を振ると、四足の獣は悲しげに姿を消した。
2017-06-10 11:50:16姫三人はなおも顔を見合わせ話し合っている。 サンディプはじりじりしながら鉢を手で回している。 「仕事にいきたいんですがもういいですか。っていうかなんで帰ってくれないんですか。もう僕の家に集まらなくても解決しそうな感じじゃないですか」
2017-06-10 11:51:26やがて三人の姫はそれぞれ蛇、禽、象の姿になると、聖仙に向かって近づき いきなり目をついばみ、足首にかみつき、ぺしゃんこに叩き潰した。
2017-06-10 11:52:48「こんなむさいじじいが救い主など」 「あるはずもない」 「やはり救い主は若くかわいらしいもの」 「そうそう。猿も羅刹も麒麟も、あのとき光輝いていた方もこちらを救い主と呼んでいたのだから」
2017-06-10 11:53:49少年は目を点にしてから、聖仙のぺしゃんこの死体を眺めた。 「やった!これで僕は自由だ」 麒麟が駆け寄って来る。 「ありがとう!救い主よ」 「え、僕のせい?」
2017-06-10 11:55:13サンディプは溜息をつく。 「なんかかわいそうだけど…でも自業自得か…あ、じゃあ皆さんもう帰ってくれますね」 「なぜ?」 「救い主よ。誰を一の妃にするか決めていただかないと」 「二の妃、三の妃にも平等な扱いをしていただきますが」
2017-06-10 11:56:53サンディプは眉間にしわをよせる。 「帰って…くれない?」 猿の王はうれしそうに吠える。 「救い主よ、四の妃には我等猿の姫を娶ってくれ」 黒い柱が和する。 「羅刹の姫もだ」
2017-06-10 11:58:55「そうか象の姫は君にゆずるよ。ところで僕にはまだ嫁ぎ先の決まっていない姉がいてね、麒麟の姫も娶ってくれないか」 四つ足の獣になった若者が鼻づらをこすりつけながら訪ねてくる。
2017-06-10 11:59:20黒い柱がばきばきと音をさせながらあばら家を取り壊し、変わってどこからか運んできた御影石の柱や礎石を打ち込んで宮殿をたて始める。 猿は花と果実で彩り、禽の群は巣から持ってきた宝石をばらまき、すぐそばに清い水をたたえた泉が噴き出して蛇の群があらわれる。 香木を鼻にかかえた象の群も。
2017-06-10 12:02:10