不知火に落ち度はない５５（浜風）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「どうすっかなー。いっそ除草剤撒いちまうか」 「えっ！？ 困りますけど！！」 ん？ 聞き覚えある声いましたぞ。 振り返るとそこには── #不知火に落ち度はない

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「浜風、お前なにやってんの？」 「あ……えっと、これは。その」 頭に麦わら手には軍手。 そして籠を片手に、本日非番の浜風が、そこにいらっしゃったわけであった。 なるほどシソを植えた犯人判明。 このやる気ある恰好した奴が１００％犯人である。 #不知火に落ち度はない

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「と、ゆーわけで、浜風君や。軍の土地に無許可で違法植物を栽培していた問題について話し合おうぜ」 「怪しい植物みたいに言わないでください。確かにその……許可取ってませんでしたけど」 腕組みしてお話聞き取りなう。 浜風は目を合わせず胸の前で指をこねこね。 #不知火に落ち度はない

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なお、本日の気温は27度。日差しは強めでブラは水色が透けて見えてる。 たぶんこれ、格安で買ってきたんだろうなあ、と容易に想像はついた。 「それに別に私が植えたわけじゃないですもん……」 「ないですもんって」 そんなかわいい語尾つけて膨れてもな。 #不知火に落ち度はない

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どうやら犯人を間違えたらしい。ま、確かに無許可で植えるほど浜風は、無遠慮でもないが。 この大繁殖を招いてなお、沈黙を保った理由がありそうだ。 「それにシソって雑草みたいに確かに生えますけど、アブラムシとかつくんですよ？」 「詳しいな浜風」 #不知火に落ち度はない

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「だからこうして、ちゃんと除虫剤も用意してきたんです」 「あの。それってファブリーズって書いてない？」 「ファブリーズの容器って頑丈ですし、詰め替え効くんです。取り置き3個ありますし」 多くね！？ ファブリーズの容器多くね！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ちなみに中身はどんなの入れてんだ？ まさか殺虫剤を水で薄めてたのとか入れてねえよな」 ストップ・ザ・バイオハザード。 この畑のひまわりとニンジンは守らねばならない。 「そんなわけありません。おばあちゃん直伝の無農薬農薬です」 むすっとお答えなさる。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

無農薬農薬て。 無農薬農薬て。 日本語の崩壊を感じるような不思議な薬をおつくりなさったとかなのだろうか。 「提督。もしかしなくても畑栽培あまりしたことないんですか？」 「あー、まあな。ウチはあくまでガーデニングだったから」 しかも母親のだ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「食べ物を作るんだから、食べ物が影響受けるようなものは使いません。材料は米ぬかとそのへんにあるものです」 「え、マジで？ 害虫増えたら除虫剤撒こうと思ってたけどさ」 「だから私が時々様子見に来てたんです」 驚きの事実判明。 この基地の畑の守護者がいた。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

しかし浜風、農法についてはやたら詳しいぞ。 なんか専門家じみた知恵が一杯あるみたいだな。 「提督は肥料も撒きすぎですし、水やりも結構適当ですし」 「あー、まあな」 畑見に来る時間って、実はあんまりないからな。 メイン業務の合間だし。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「だからちょくちょく合間合間で、お水撒いたり除虫したりしてたんです」 「つーことはこの大繁殖って、浜風の手によるものってことでいいのか？」 「そうです。ちゃんと育ててました。間引きもしてるんですよ？」 わーお。そりゃご機嫌損ねるわけである。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そりゃ悪かった。無秩序に繁殖してるもんとばっかり」 「……まあ、ちょっと最近は訓練で、間引きにまで手が回ってなかったですけど」 と、浜風は言い。 そして腰に手を当てて、こっちを半眼で見てくる。 「でも、育ったのを全部間引く気だったでしょう？」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「まあ、雑草だしな。養分取られるしな」 「だーめーでーす」 ぶぶーと両手をクロス。 同時に胸部がたぷたぷ。 また育ってないか浜風。 背は伸びてねえのに。 「これからが一番使う時期なんですから、シソは」 「言われてみればそうだけどさ」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

でもそうめんの薬味ぐらいしか思いつかんぞ俺。 他にどんな調理法があるんだ？ 「まずお素麺には欠かせないですよね？」 「おう。真っ先にそこだな」 「てんぷらにもできますし」 「あっ」 そいや料理屋であったわ、てんぷら。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「つくねに混ぜて焼いても美味しいですし、豚肉を巻いたのなんて最高です。あとはパスタにもできるし、ジェノベーゼにも……」 「待った待った待った。どんだけレパートリーあるんだ浜風」 今ので俺の想像を一気にオーバーだ。 なに、しそ調理人なの浜風？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「思いつくだけで100ぐらいありますよ」 「それ立派な料理人じゃねえか」 うちの食堂のレシピ余裕で超えてねえ？ なに、料理顧問みたいな感じでちょっと意見だしとかしてもらっていい？ 「そんなんじゃありません。それぐらい身近なんです」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「身近ねえ……」 でも俺はシソ料理、あんまり触れてないんだよな。 せいぜいが料理屋にある……あ、そいや餃子もあったな。シソ餃子。 「その反応も仕方ないですけどね。買うと高いですから」 「やっぱそれだよな」 うんうんとうなずいて見せた。うなずくだけ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そうなんです！ こんな葉っぱが10枚ぐらいで100円ですよ。100円！」 あ、やば。浜風のポイントを踏み抜いた感。 「10枚ぽっちでお料理できるのは、せいぜい二人分のお素麺かちょっとお肉巻き作るぐらいです。しそをなんだと思ってるんですか！」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

いや、しそはしそであって、浜風の言うしそと、俺の想うしそには大きな隔たりがあると思う。 基本薬味であって、フルで使うハイパーローテーションみたいな食べ物でないのは確かだ。 自炊しない俺にとって超縁遠い存在で、食堂の素麺に乗っかってたりするやつだし。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それがこんなにもあるっていうことは、どういうことかわかりますか兵頭さん」 「あ、いえさっぱりです」 提督呼び崩れてますよ浜風？ だいぶん感情的になってますよ浜風？ クールに行こうぜそのブラみたいにさ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「今晩のご飯はしそ尽くしができるってことです！」 「え、マジで？」 「この時をずーっと待ってた私の気持ちにもなってください。しそは美味しいんですよ？」 はふ、と溜息をついて浜風は言う。 そんな楽しみにしてたの？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「しそは美味しいんですよ？」 2度言った。いや2度言うほどなのか？ そんなにもしそ大好きっ子だったのか浜風。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「信じてないですね？ しそは夏を乗り切るための味方なのに」 「まあ、素麺に乗っけるぐらいだし」 あ、そうだ。 そいや刺身にも付け合わせできてたな。 確か殺菌効果云々とからしいが、夏を乗り切るってのはオーバーすぎやしないか？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「わかりました。じゃあ、手伝ってください」 「え、何を？」 「しそ集め。本物のしそ料理をお見せしますから！」 ぷすすこと怒りながら、俺に籠を突き出す浜風。 いつの間にか俺、巻き込まれてません？ このしそハザード的な奴に巻き込まれてません？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「や、俺他にやること──」 「しそを籠一杯にお願いします。私は大豆見てきますから」 こちらに目もくれず浜風はそう言うわけで。 いやちょっと？ 浜風？ 俺の知らん間に大豆まで植えたの？ 端っこの方に見事な枝豆の素が出来上がってきてるし。 #不知火に落ち度はない